第35話「封じられた海」
七日の期限、その二日目。
鐘の音が、港に響いた。
「帝国艦隊、北航路を封鎖!」
報告は、叫びに近い。
グランデルの北側海域。
協議会加盟国へ向かう主要航路。
黒い船体が、水平線を塞いでいる。
砲門は開いていない。
だが、進ませない。
「撃沈は?」
ガルドが問う。
「していない」
「だが警告射撃あり」
実力の提示。
レオンは、地図を見つめる。
「商船は?」
「停滞」
「引き返す船が出ています」
市場は即座に反応する。
保険料上昇。
小麦価格微増。
為替が揺れる。
恐怖は、数字になる。
協議会緊急会合。
ノルディクス代表の声が荒い。
「これは宣戦布告だ!」
「砲撃はしていない」
東方代表が、震える声で言う。
「だが、止まっている」
ユリウスが、レオンを見る。
「どうする」
レオンは、静かだった。
だが目の奥は冷たい。
「帝国は、一線を越えていない」
「封鎖している!」
「公式封鎖ではありません」
言葉の綾ではない。
「航路の“安全確認”を理由にしている」
合法的圧力。
カイロスのやり方だった。
恐怖を与える。
だが、戦争は起こさない。
「小国が動くぞ」
ノルディクス代表が言う。
その通りだった。
カルディアは、すでに帝国通貨を採用。
今や“安全な港”として機能している。
商船が、カルディア経由に流れ始める。
協議会内部が、削られる。
夜。
高台。
レオンは海を見ていた。
黒い影が、動かない。
エリスが隣に立つ。
「止まりませんね」
「ええ」
「信用では」
レオンは、しばらく沈黙した。
「信用は、守られなければ流れる」
「守るとは?」
エリスが問う。
その問いは、核心だった。
レオンは、ゆっくりと言う。
「航路を開ける」
「武力で?」
「必要なら」
その一言に、エリスは息を止めた。
これまで、彼は戦争を避けてきた。
だが今。
避けられないかもしれない。
「協議会共同艦隊」
レオンは、呟く。
「最小限の防衛力」
ガルドが背後から言う。
「帝国とぶつかるぞ」
「ぶつからないよう設計する」
「どうやって」
レオンは、海を見つめたまま答える。
「帝国が“撃てない理由”を作る」
沈黙。
遠くで、警告砲の閃光が一瞬光る。
商船は、止まる。
時間が、削られていく。
七日。
残り五日。
協議会は、初めて“力”を考え始めた。




