第24話「止められぬなら、崩せ」
異変は、噂から始まった。
「グランデルの保証基金が枯渇するらしい」
「海路が封鎖されるとか」
「中央が支援を打ち切るそうだ」
根拠のない話。
だが、出所は不明。
数日で、商会の一部が契約更新を保留した。
「……早いですね」
エリスが、報告書を握る。
「意図的です」
レオンは、冷静だった。
「信用は、事実より速く動く」
港では、荷の積み下ろしが一時的に鈍る。
市場では価格が微妙に上昇。
不安は、数字より先に伝播する。
「旧守派か」
ガルドが低く言う。
「ええ」
レオンは頷いた。
「正面から止められないなら、信用を削る」
「合理的です」
「合理的か?」
「彼らの立場では、です」
エリスが、少し声を強めた。
「放置しますか?」
「いいえ」
即答。
「可視化します」
数時間後。
グランデル領は、前例のない施策を発表する。
『保証基金残高の即時公開』
『契約履行状況のリアルタイム報告』
『港湾入出庫データの一般公開』
街の中央広場に、巨大な掲示板が設置される。
日々更新される数字。
「……やりすぎでは」
エリスが小さく言う。
「やりすぎ、という言葉はありません」
レオンは淡々と答える。
「見せなければ、不安は膨らむ」
「見せれば、判断できる」
数日後。
数字は、明確だった。
基金残高、安定。
契約履行率、九十九%維持。
海路物流、増加傾向。
噂は、事実に押し潰される。
王都。
旧守派の小会議室。
「……なぜ崩れん」
男が、低く呻く。
「公開で封じられました」
「商人の動揺も限定的」
「ならば、さらに……」
「無理です」
若い官僚が言う。
「これ以上やれば、王国が不透明に見える」
沈黙。
彼らは理解していた。
信用戦争は、
嘘では勝てない。
一方、グランデル領。
夜の執務室。
エリスが、ぽつりと漏らす。
「……怖く、ありませんでしたか」
レオンは、少しだけ考えた。
「怖い、とは」
「もし数字が悪化していたら」
一瞬の静寂。
「その時は、修正します」
迷いはなかった。
「制度は、完璧ではありません」
「完璧でないから、更新します」
エリスは、息を吐く。
「あなたは、焦らない」
「焦りは、判断を鈍らせます」
遠く、王都で嵐が起きている。
だがグランデルでは、
数字が静かに動いている。
信用は、設計できる。
そして設計された信用は、
噂よりも強い。
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