夕方の営業(常連客編、その34)
さてさて、時計の針は19時を
少し回り店内は賑やかになって
いるその頃…1台の車が止まる
ちなみにではあるが、
店には駐車場はありません
団地の敷地にあるという事もあり、
一番近い駐車場までは
徒歩3分程かかるのである
竹田【こんばんは~
ごめんください】と
暖簾をくぐり店のドアを
ガラガラガラと
開けて入ってくる
アコ【いらっしゃいませ~
お久しぶりです会長さん、
こちらへどうぞ】
広志【いらっしゃいませどうぞ~】
竹田【失礼します】と空いている
カウンター席に座る
アコ【秘書の方もご一緒に
どうぞこちらへ】
秘書【いえ、私は外でお待ちして
います】
竹田【君も食べていきなさい!
今日はここでしか食べられない
食べ物があるから
それに車の中にしても
寒いだろうから】
広志【宜しければどうぞ】
アコ【食べていって下さい】
秘書【分かりました!それならば
お言葉に甘えさせて
いただきます!】と
頭を下げて竹田の隣の席に座る
アコ【頭を上げて下さいな、
さあこちらに】
秘書【すいません、申し訳ないのです
がこちらお願いできますか?】と
あるお酒を差し出した
アコ【はい!お預かりしますね】
広志【これは、本当に
珍しい銘柄ですね~】と
見上げている
竹田【ご存じとはさすがですね】と
腕を組みながら頷いている
山武【そうなんですか?】
広志【あぁ、愛媛の酒蔵が
毎年期間限定で販売している
“雪雀”と“初香蔵”だ
信也さんから名前は
聞いていたんだがな~
ここでお目にかかれるとは】
山武【そんな貴重ならば
是非ともご相伴に】
アコ【武ちゃん?人様の物は…ね?
分かりますよね】
と和やかな笑顔で
視線を向けると
山武【はい……大人しくしています】
と冷や汗を全身に感じながら
シュンとしている
広志【はい、おまちどおさんです】と
テーブルに料理を置いていく
竹田【お~毎年これが楽しみでね
それではありがたく】と
一口食べる
竹田【やはり、これぞ秋の食べ物です
サンマの蒲焼きに酢の物に
栗と鶏肉と糸こんにゃくの煮物
で秋を感じる事が出来て
落ち着けます】と
笑顔になっている
秘書【本当に美味しいです
栗の甘さや香りまで
口の中で広がります】
広志【良かったです!
サンマも栗も鮮度が良い物で
ないと出来ない物でして】
竹田【そうなのですか?】
広志【はい、サンマもそうですが
栗も以外と鮮度がありまして
普段はどうしても栗と言えば
モンブランが思い浮かぶと
思いますが北関東や四国の
一部の地方では、毎年これが
当たり前にありましてね】
竹田【そうでしたか、
さすがはご主人ですね】
と噛みしめる様に食べていた
それから少し時間が経過した頃…
竹田【女将さん】
アコ【はい!どうされました?】
竹田【すいませんが一曲
お願い出来ませんか…】
アコ【一曲ですか?】
哲男【アコさんお願いしますよ
出番です!】
和邦【そうですね~】
洋之【でもアコさんに何の曲を
お願いするのですか?】
竹田【即興で申し訳ないのですが
今の私を見て感じるままに】
アコ【それならば主人の方が】
広志【おいおいなんでこっちに】と
驚いた様子を見せている
竹田【ご主人も歌われるのですか?】
広志【下手の横好きですけどね】
竹田【そうしましたら今回は
ご主人にお願いしましょう】
哲男【大将の歌声初めっす】
広志【あまり得意ではありませんが
それではご静聴
宜しくお願いします
喉を調整し始めている
歌えるかな…】
And now, the end is near
And so I face the final curtain
My friend, I’ll say it clear
I’ll state my case, of which I’m certain
I’ve lived a life that’s full
I traveled each and every highway
And more, much more than this,
I did it my way
(私はこれまで人生という
長い長い旅をしてきたが、
いよいよ終着駅に
たどり着こうとしています。
愛する人達に告げよう
これだけははっきりと言えます
私の人生は満ち足りたもので
とても幸せであったと
そして、何よりも我が道も歩めた事を)
Regrets, I’ve had a few.
But then again, too few to mention.
I did what I had to do
And saw it through without exemption
I planned each charted course,
Each careful step along the byway
And more, much more than this
I did it my way
(これまでの人生を振り返れば
後悔する事も少しはある
それはあえて語るほど多くはない
己がやるべき事をやり抜いて
そして一つ残さず成し遂げた
進むべき道を慎重に計画し
一歩ずつ着実に進んだ
けれど それよりもっと誇りに思うのは
我が道を歩めた事)
Yes, there were times,
I’m sure you knew
When I bit off more than I could chew
But through it all,
when there was doubt
I ate it up and spit it out
I faced it all and I stood tall
And did it my way
(みんなも知っての通り
時として私も欲張り過ぎて
無茶なことをしたが
しかし、そこで疑う事があれば
どんな不安も乗り越え
立ち向かって、全てを受け入れて
そして手放したのです
そこで残ったものに誇りを持ち続け
そして我が道を歩めたのです)
I’ve loved, I’ve laughed and cried
I’ve had my fill, my share of losing
And now, as tears subside,
I find it all so amusing
To think I did all that.
And may I say, not in a shy way,
“Oh, no, oh, no, not me,
I did it my way”
(私は誰かを愛したり笑ったり
泣いたりもした。
その反面失うものも
もちろんあったけれど
悲しみが癒えた今
人生とはとても素晴らしく
楽しいものだったと感じている
過去を思うとき
素直に言わせてもらえるならば
私は物怖じなどせず 臆することなく
堂々と我が道を歩めた事だろう)
For what is a man, what has he got?
If not himself, then he has not
To say the things he truly feels
And not the words of one who kneels
The record shows I took the blows
And did it my way
(人は人として
人生で何を得てきたのだろうか?
もし自分に正直でなければ
得るものなど何もない
心から感じたことを伝えることだ
他人の言葉を借りるのではなく
軌跡を振り返れば
私はどんな苦難とも闘い
そして我が道を貫いた)
Yes, it was my way
(そう、自分の信じた道を...)
竹田【すみません…本当に】と
感情がこみ上げて
涙腺からの涙が
こぼれ落ちていた
それはまるで己のこれまでの人生を
振り返っていたのかもしれない
広志【いえいえお耳汚しと
ご静聴をありがとう
ございます】と
緊張と歌いきった達成感に
浸りながらも
とてつもない冷や汗と
疲労感を感じていた
秘書【素晴らしい歌声です】と
こちらも天井を見上げて
涙をこらえている様子である
広志【加山雄三さんバージョンの
“My Way”になります】
哲男【大将の歌声はまさに
歌手そのものっすよ】
と号泣しながら話している
竹田【ありがとうございます
今宵は良く眠れそうです!
それでは私はこれで
おいとまします!こちらで】と
財布から現金を支払うと
アコ【今、お釣りを】
竹田【お釣りはとっておいて下さい!
また寄らせていただきます!
それでは失礼します
おやすみなさい!】
そう言って暖簾をくぐり
店を後にした
秘書【只今、車を】と涙をこらえ
落ち着いた様子で
竹田【いや、たまには外の風に
あたりたい】と
夜空を見上げながら
感慨深いものがこみ上げながら
ゆっくりと歩いていた
アコ【はいはい、みんな~
そろそろ閉店の時間よ】と
手を叩いて声をかけていく
そして皆は店を後にし、
それぞれの家路へと足を向けて
いったのでした




