第二十五話 会議は踊る
国際会館の会議室と聞いてどんな豪華な部屋なのだろうと太郎たちは思ったが、入ってみると案の定特に拘った部分があるようには見えず無機質な感じの部屋に少々落胆する。
外務大臣は、先程までずっと座っていたであろう椅子に腰を抜かすように座る。対する太郎も、外務大臣と反対側の椅子に座る。
「ちょっと待ってくださいタローさん! 椅子が一つしかありませんよ!?」
憤慨したのはアマラだ。椅子が一つしかないという状況が許せなかったのだろう。
しかし、カルラとステフィーは澄ました顔をしており太郎の椅子のそばに静かに立った。
「二人はなんとも思わないんですか!?」
アマラはカルラとステフィーに同調を求めるが、二人とも目立った反応はしない。ただカルラがアマラの方を呆れたような視線のままに向いた。
「そりゃ、国際会議なんて公人同士の話し合いなのですから、付属品の私たちの椅子がないのは仕方ないでしょう。私も以前何回もありましたから」
こんなことよくある話だとアマラを諌める。
アマラは不服そうな顔をしていたが、何も言えなかったのだろう。渋々下がった。
「へー。カルラは傭兵時代も公人たちの会議に護衛として参加したことが?」
よくよく考えてみればカルラは仲間であるにも関わらず傭兵時代などについて知らない。太郎は、ここが会議室であることも忘れ外務大臣の苛立った視線も感じずカルラに傭兵時代のことを質問する。
「いえ。私の上司が他の兵士たちに地位の高さをアピールするため、年頃の兵士たちをいついかなるときも侍らせるんです。よく当番がまわってきたので、職務中はもちろんとしてトイレや入浴にも立って付添させられました。今思うとひどいパワハラですね」
平然と語っていたのだが、途中から怨嗟の込んだ思い出語りに変わっていく。カルラの周囲には、怨嗟が関係しているのか周囲に歪が発生している。どうにかしようと、太郎はすぐにステフィーに視線を変えた。
「す、ステフィーはどうなの?」
「うむ。座っていては説教もよく聞こえぬからな」
ステフィーの言いそうなことはだいたい予想ができるため、太郎は慣れたように受け流す。
「うん。会議中は説教しないでね」
「さようか。なら、神からの天啓を臣民の言葉に翻訳──」
日の出前に一度口を開けば日の入り後にようやく口を噤んでくれるステフィーの止まらない呪術めいた信託に、太郎はもはや何も感じず未だに怨嗟を流し続けているカルラに視線を向けた。
「そろそろ落ち着いたほうが」
太郎が試しに空間の歪に指を入れてみたところ、指が消え数秒後にまた生えてきた。
「す、すごい……」
太郎は謎の歪の威力に感嘆していたが、一方で誰にも相手されず秒間30ヘルツは出していそうな貧乏揺すりをしていた外務大臣の堪忍袋の緒が切れた。
「黙れ」
ドン。
という大きな音が響き、ステフィー以外の太郎たち三人は咄嗟に何が起きたのかを把握できず静寂が訪れる。
「うむ? 高尚なる我に向かって黙れとな?」
真っ先に反応したのはステフィーだった。硬すぎる自尊心を持つステフィーにとって、命令されるのが不快だったのだろう。
「奇遇だな。高尚という点なら私だってピールスリン共和国の外務大臣だ。私の目には貴様が極度の厨二病にしか見えないのだが」
外務大臣はゆっくりと席を立ちステフィーに近づく。落ち着いてはいるが、内心激昂していそうだ。
「ほう。神々の信託を受けた我を厨二病呼ばわりか。我のこの高尚さ、完璧さ故にそれほどの稚拙な言葉でしか侮辱できぬのだろう?」
珍しくステフィーもやる気であった。そして、ステフィーは手を動かす。咄嗟に反応した外務大臣が懐に隠していた短剣を構え戦闘態勢に入る。しかし、ステフィーが手を動かして取り出したもの。それは、神々の信託が書かれた本であった。
「神々の信託を受けぬ人は多いのだな。しかし、我の使命は全人類にこの信託を広めること。一章から再び読み上げようではないか」
そういうと、一章のページを開き口を開く。耐性のできた太郎とアマラ、カルラはなんとか耐えられるが至近距離で初めて信託を聞いた外務大臣が耐えられるわけもなく苦悶の表情を浮かべ汗を書きながら膝をついてしまう。
「何という精神攻撃。精神を弱体化させ交渉を有利にしようと言うのだな。なんと卑劣な……」
蟀谷を押さえつつも、なんとか立ち上がる外務大臣。机を手すり代わりにしてなんとか自分の椅子まで戻る。
「では、会議を始めようか」
精神攻撃が続く中で、ようやく会議が始まった。
全然進んでない……。




