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第二十二話 荒る者への鎮魂歌

おかげさまでPV2500を突破しました!その記念に一週間で書き上げました!


え?一週間で書けるならもっと更新早くしろ? ちょっと何言ってるかわからないです。

「うむ。名乗りを上げぬとは。神々の恐ろしさがわかっていないようだな。では我が眷属よ、愚民を晒し上げよ」


 ステフィーから聞き捨てならないことを言われた気がしたが、どうでもいい。

 犯人が見つかったっぽい雰囲気を出せば自然の自供する者が現れたハンガー事件とは異なり、現れない。それどころか怪しい人がいない。


「困ったな……」


 そんな為す術がない太郎にヒントをくれたのはカルラだった。


「タロウさん。これ、魔法が使われてますよね?残留魔力をどことなく感じます」


 部屋の蝋燭を全て消すのなんて、魔法でもない限り無理である。そのため、犯人が魔法を使ったことくらいはわかっていた。

 だが、部屋にある蝋燭を一瞬で全て消すのは、素人ができるものでもない。試しに店員の魔力情報を見てみたが、料理人・商人として育ってきたのは驚くほどに魔力が乏しい。

 そして、疑いたくはないがアマラ、カルラ、ステフィーの魔力も見てみる。だが、3人も驚くほどに魔力量が乏しかった。


「犯人誰だよ……」


 もう一度魔力量を調べようと、目を閉じて広範囲に魔法を使った。現れたのは自分を含めて7つの高濃度魔力反応なのだが……。


「……。7人?」


 太郎、アマラ、カルラ、ステフィー、若い店員、もうひとりの店員。本来なら6人である。7つ目の魔力反応は、ここから少し遠い場所にあった。

 その位置は、紛れもなく馬車であった。


「まさかっ」

「さっきから独り言が喧しいぞ、我が眷属よ」


 何やらステフィーが言っていたようだが、ガン無視し小屋の外へと飛び出す。そして、御者の元まで走っていった。

 御者もこちらに気づいた様子で一瞥する。


「何用だ。青年」


「若い店員を気絶させ、床にケチャップで脅迫文を書いたのはあなたですね?」


「ああ、そうだ」


「なんでこんなこと──」


「二度と過ちを冒さないためだ」


 今まで掠れていたような声だったが、この声ばかりは力強く相当な意思が感じられるものだった。そして、御者の片腕と片足が蒸発するように消えていった。

 御者は普通ではない。その場にいる誰もが思うことだ。


「あなたは一体?」


「私は、死に損ないの幽霊さ」


「幽霊……??」


 そんなファンタジーなことがあるのかと太郎は思ったが、よくよく考えれば世界そのものがファンタジーであり、幽霊など些細なことだった。


「今から二年前だ。私が死んだ──いや、殺されたって言ったほうがいいのかな?」


 死ぬことと殺されることは結果は似たようでも経緯は大きく違う。だが、誤ちを冒さないという言葉との関連性が見られない。


「仮にここで殺されたとして、なぜ──」


「人を殺さないためだ」


 意味がわからない。誰しもそう思うだろう。

 その言葉が本当なら、御者は店員を気絶させることで殺さないようにしたということになる。


「どういうことだ?」


「最初から、話そうか。今から二年前、私はピールスリンの交通局に所属していた──」


 御者は長い過去をゆっくりと語り始めた。


 所属していたのは、貴族などの高貴な方を相手にする専門の部署で、給料は高いものの高慢ちきな輩を相手にしなければいけなかった。

 無理難題を平然と押し付け毎日残業して仕事をこなす日々だったが、同じ部署の後輩との仲はよく色々愚痴を言い合っていた。寝不足にも慣れてしまったある日、ハインクフギルドの応援に駆り出された。

 その時、乗客だったのがピールスリンの中でも特に権力を振りかざしていた貴族。当時は豪雨で行けない旨を伝えたが、無理に行かせられた。ある崖に差し掛かった際、寝不足で注意力がなく馬車が横転した。しかし、貴族は一切助けようともせず、逃げていった。

 御者はその時死亡したが、未練があり今だこの世にとどまった。ただ、金がないと不便なので御者を営んでいる。


「聞いてくれたありがとう、最後に願いを二つ聞いてくれませんかな」


 そういった御者は優しくて、今すぐにも消えそうなほど虚ろだった。


「善処します」


 太郎がそういうとますます御者は薄くなってしまう。

 御者の願いは、その二つを叶えること。そうすれば未練なく天国に旅立てるのだから当然といえば当然だ。


「一つ、ここを事故が二度と起きないように、誰でも安心して通れるようにしてほしい」

「わかりました。グランドブレイク!!」


 急激な地殻変動かの様な轟音が鳴り響き、山には一直線の大きな穴が開く。音や放出された魔力量から真実だと判断したのか、御者は穴を確認することはしなかった。


「通れるようにしました。もう一つは?」

「もう一つは、私の元部下が気がかりでね。どうか危ない目にあったらその力で助けてやってくれ」

「わかりました。その部下のお名前は」


 御者は落ち着いた様子でとある名を口にした。


「……ウィズイン・ウィスタリア」


「……は!?」


 思わず自分自身の耳を疑ってしまうほどに、語られている彼と見聞きした彼の差異に驚愕する。


「あいつは、真面目で、優しく、穏やかな心を持っている。悪い輩に狙われれば対処できん。……おっと、私の……体力は……う……これまで……のよう。……ありがとう」


 御者の体はどんどん透明になっていき、幸せな笑顔を見せると光に包まれながら消えていった。


「……」


 優しげな笑顔を浮かべた太郎は黙ったまま、御者のいた地面に向かって土下座した。


「あいつが真面目で優しく穏やかな心を持っているわけがないだろおおおおがああああぁぁぁ」

 

 太郎は、直前の穏やかな雰囲気から一変して素っ頓狂な声を出した。

 その声は広範囲に向かって広がり、ここを通ろうとした者は皆別の道を使うことにしたという。そして、御者が使っていた馬車の馬や、若い店員の馬は一目散に逃げ出した。

 その結果、太郎は歩いてヴィスピ港へと向かう羽目になったという。




 太郎がヴィスピ港へ向かった後、一人の人物が山中を歩いていた。


「もう二年前なんですね……」


 そう語った男は、ウィズイン・ウィスタリア本人だ。

 いつもの雰囲気ではなく、落ち着いて、かつ悲しい雰囲気を漂わせながら崖へ向かっていた。

 崖にあった物、それは石版だった。


 ウィズインは石碑の前に跪き、暫くの間黙祷する。


「注意散漫を引き起こす寝不足の原因になる残業はしないことにしました。何があっても時間厳守。そうすればあの様な事故は減るでしょう。そして、貴族だろうが媚び諂わずに金を毟り取る。そうしていけば運転手や御者が舐められることもないでしょう。私は海運事業部に左遷され、解雇され、フリーです。色んな場所で働くかもしれませんが、どうか事故がないことを祈っててください」


 ウィズインは石碑を掃除し、近くの雑草を取った後、再び黙祷を捧げた。そして、一礼すると再び森の中へと消えていった。

ちょっと展開が速いですね。改稿することがあったらもう少し伸ばします。


次回の更新は10月か11月だと思います。

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