隅居の大おばさま
キュームは地元の記憶があいまいだ。幼少期から現代まで同じ土地に住み、階段式に小中学校に通う。そこまで周囲を気に留めていなかった、というのもある。
クラスの風景も通学路も色がなく、道程も分からない。
だが今なぜだか、キュームは冷たい色をした隅居にいた。ブロック塀の細い路地を歩きながら、この土地は自らが生まれ育ってきた場所だと謎の確信があった。
隅居には人っ子一人いない。はずだ。
だが、ブロック塀に挟まれた道に背中がある。制服的に配達員に見える。
彼は忙しそうに早歩きでどこかへ向かっているのだ。
懐かしい気がした。これは捏造された夢のものではないかも、しれない。
荷物を抱えた配達員はやっと路地から出ると、古めかしい昭和の民家の戸を叩いた。
「配達に参りました」
「ああ、ありがとう。いつもいつも。隅居をいき来するにも大変だろうに」
「いえいえ、大おばさまのおかげで隅居が安全なんですから!」
「ン? アレはなんだい?」
皺くちゃの老婆がこちらへ視線を移した。怒りの色が瞳にやどっている。
「わ?! いつのまに?!」
「不躾なドブネズミが迷い込んだようだね。あ、待ちなさい――」
キュームは走り出した。あの老婆はただ者でないと瞬時に分かったから。
走って、路地をくぐっている内に足元がコンクリートから砂利になり、やがて森の中へ変わっていった。
そうだ。あの時、金色の森へやってきたのか。
「あーあ、あのひと。逃げなければ黄金の森には行かなかったのになあ」
青年のボヤキが頭に響いて、目を覚ました。
「……あの人たちは何者?」
キュームは寝汗を拭い、蝉から徐々に秋の虫へ変わる夜の音の中でただ黙り込んだ。
「大おばさま? ああ、黄泉の神をみたのだろう。黄泉の神を一目見たら、魂は現実世界には帰ってこれまい」
「え、えーっ?! どうすンのよ?!」
「どうするって? 打つ手はないね」
なんとなくグー子に打ち明けてみたら、とんでもない返答が帰ってきた。黄泉の神?
にわかに信じがたいが……グー子は何てこともないように、三つ編みを揺らしている。
「また依頼を解消せねばならぬ。今度はどうなるか分からないね、心しておくように」
「黄泉の神に会えたりする?」
「さあ」





