どこにも行けない魂
「待て。コレは害をなすものじゃないね」
足蹴りで軽く、飛びかかったバグのみぞおちを蹴り飛ばす。襖に叩きつけられた彼女は咳込んだ。
「クソアマッ!」
「礼儀のなっていない甘ちゃんだ。お前の師匠ならなんと見るか?」
いきなりそんな問いかけに彼女は目を白黒させる。
「わ、分からないわよ……」
「これは輪廻する前の蛹ね。邪魔するのが邪になる」
「輪廻する? 人って輪廻するの」
キュームは胡散臭いワードに眉をひそめ、蛹に近づく。このなかに魂が眠っていると?
「実際に輪廻があるとは限らないがね。魂は一旦、纏っていた肉体を溶解させ、どこかへ飛び立つ。キューム、お前も本来ならそうなるはずだったのだ」
本来なら? とわずかに驚いた瞬間、蛹から美しい蝶が孵り、フワリと羽ばたいたと思ったかと思えば――消えた。
「魂は新しくなり、また死ぬ。そうして再生される」
「知らないわ、そんなの」
バグは蝶がいなくなったのを目撃してしまったのだ。否定はできない。
「若造は知らなくていい。ましてや現実世界に生きるものには、ね」
グー子がそういう間に蛹は粉になり、最初から無かったかの如し、居間は夕日が沈んだ冷たい夜に戻っていた。
視界が明転する。
「谷部江村は魂が孵れないものたちの世界な訳」
ラベンダー荘の中庭で麦茶を飲みつつ静かに呟いた。
「私は……現実世界では死んでる?」
キュームは膝を抱え、初めての感情に戸惑う。死など怖くないし、意識すらなくなると思った。感情が氾濫してコントロールできずにいる。
「キュームさん」
大家さんが優しく抱きとめてくれる。余計なことを。
「泣かないでください」
「泣いて……いませんよ」





