虎の口の中は安全
薬が飛び散らないよう抱えながら、何度も転がり、立ち上がり、どうやって帰ってきたか分からないが――ラベンダー荘の中庭まで逃げ込んだ。
止まったはずの身体の機能が悲鳴をあげ、息を切らして床に寝そべる。曇りがかった夜空に月は――ない。
あれは、何だった?
狂気の村が見せた幻だった?
だが重たい薬の数々は手元にある。アハハ、と笑いがこみ上げた。擦り傷だらけで駆け回るのは久方ぶりで子供時代に戻ったみたいだ。
「キュームさん」
大家の声がしてギョッとした。バレてしまったか、ならば食い殺されるのだろう。
短い間だったがエキサイティングな余白を楽しめた。生に執着はないので万々歳である。
「グー子のためにこんなにお薬を……。身を挺してまでもあの危険な廃病院に忍び込んだのですね」
「え、ええ、まあ」
「ありがとうございます。怖かったでしょう」
穏やかな顔で彼女は近づいてくると、意外にも抱き上げて抱擁した。「怖くありませんよ、あ、あの……」
「疲れたでしょう? さ、もう敵はきませんよ、お眠り」
「あの」
クラリ、と睡魔が襲ってきて意識がボンヤリとしてくる。今になって疲労感がドッとおしよせ、キュームは抗えずに瞼をシボシボさせるしかなかった。
「大家さん……?」
眠りに落ちる前に背中にキリリ、と鋭い痛みが走った。だがそれよりも泥のように眠ってしまいたい。





