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被捕食者

 刃物で腕を傷つけた記憶、血が滴るも痛みはない。自傷行為の陳腐さを身に刻み――理解する。

 内側に向けた自傷行為を外に向ければいいだけのことだ。

 キュームの真似をした(・・・・・)娘は笑顔になる。加害性に逆転した己の否定を、満たすため――なんでもする。

 オオカミだらけだったクラスは羊だらけになった。こちらを見る目も変わる。

 猛獣だった化け物たちが被捕食者のソレに変わる。

「馬鹿だ」

 キュームは少女を貶してみせた。だが、彼女は歩む足を止めない。そうして振り返る。

「被捕食者はお前もだ」

 オオカミの遠吠えがした。

 犬のものでない。野生の遠吠えがして、キュームは目を覚ます。ブランケット1枚の生活に慣れてきた矢先、変な夢を見た。

 バァン、と扉が開いて……いや、無理やりこじ開けられて何かが噛みつこうとしてくる。まさか本当にオオカミ?

「うっ」

 隠し持っていたナイフで傷つけようとした途端、誰かの冷たい声音が「止まれ」と言った。

「――カヂさん」

 ガチガチと歯を鳴らした少し幼い少女が喉笛を食いちぎる直前だったらしい。カヂがまた命令を下すと、ぎこちなく離れる。

「びっくりしました」

「すいません。半分キョンシーがたまに暴走するんですよ」

「キョンシー……」

 これまたファンタスチックなワードが飛び出してきた。(半分?)





 カヂ曰く彼女はエスという名前で、金の森の呪いで人狼にさせられてしまったらしい。しかし絶妙に死にながらもカヂに生き人形として、ラベンダー荘に入居しているのだそうだ。

「忘れ形見というか、そんなものです」

 幅です、という人の知り合いだったのだろうか。

 彼女はキュームのように人らしい仕草をしないが、生き人形としてのカテゴリーは満たしているのだとか。

「エスさん、よろしくお願いします」

 彼女は歯をガチガチと鳴らしただけだった。

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