犬蠱
「無事に帰ってこれたみたいですね。心配していました」
ラベンダー荘に帰宅するや否や、大家の馬耀が冷たい謎の飲み物を用意してくれた。
見た目は……ミックスフルーツジュースに見えるが……。
「村の特産品で、疲労回復効果があるんです。ラリってしまわない量で調合しました」
「ええっ! またそういう類いの」
匂いを嗅いでみるが他の果物にかき消されて分からない。
「キュームさんは慣れていると思いますので」
「い、いや、ヤク中扱いしないでくださいよ……」
「何がとは言わないのですが大量摂取していたみたいなので、いけるかな、って」
うふふ、と少女はイタズラっぽく笑い、グラスを渡してきた。
今までの経緯はどうやら筒抜けらしいので仕方なく、飲んでみる。甘くて美味しかった。フルーツジュースだが爽やか。
「……あ?」
視界がグニャリと歪み、馬耀が妖しいかんばせで何かを囁いた気がした。
「疲れて寝てたのか……」
意識が浮上して、身を起こすと先ほど依頼を受けた居間にいた。
「ああ、良かった! 花実、元に戻ったのね……」
家族全員から祝福されている少女がいて、確かにあの憑き物は落ちたのだと察する。花実という少女は自分自身と同じぐらいの、高校生くらいだろうか。
涙を流して喜んでいる両親に不格好な笑みで応えている。
――あれだけじゃないの。あれだけじゃ。
彼女の暗い声色が脳に直接響いた。
――まだたくさん、殺して埋めてしまったんだから。
生首の犬たちが唸りを上げ、浮遊し居間に花実を凝視している。
――おまじない、なんて信じなければ良かった。
おまじない。
キュームは脳裏に引っかかる。確か、キュームも何かしらのおまじないをかけた。
何だっただろう?
花実は犬をあれして埋めてしまったようです。
猫の恨みも壮絶と聞きますが、犬も恐ろしそうです……。





