犬っころ
「そんで、ご依頼は?」
「うむ。憑き物に困っている、という依頼だったね。どの祈祷師や霊媒師、霊能力者でも払えなかったと」
ありきたりな話たが、狐に憑かれただのコックリさんの怪談話はキュームも耳にしたことがあった。
「つーかさ、精神科に行ったほうがいいんじゃないの」
「さあ、ワタシに依頼したのだからこなすしかない」
とはいえ、年月が経ちすぎて解決しているかもしれない。
「あれ」
カレンダーの年がノイズ混じりになって、何年か分からない。それに人の家にいるのに現実感がないのだ。
「ヴヴヴヴヴヴ……」
どこからか唸り声がして身構える。飼い犬だろうか。
「犬っころのおでましか!」
グー子があくどい顔で呪符を手にした。キュームからしたら字がのたうつ不気味な紙切れにしか見えないが、犬っころは敵の気配を察知したのかさらに唸りを転がしている。
「い、犬?」
「お前を使うね。命令だ。犬っころの居所を当てろ」
反論する前に身体が勝手にそうしてしまう。視界が揺らぎ、浮かんだのは居間だった。
居間に収まりきれないほどの巨大な犬がいる。目から血を垂らした犬種が不明の茶色の犬だった。それが牙を剥き出しにて、こちらを待ち構えている。
「居間にいるみたい」
なぜなら居間は怪しげな呪符まみれで、閉じ込められているみたいだ。
「よし。向かうとするか。グイの力試しにもなる」
(犬も私の中に封印されたらどうしよう……)
「手札としてとっとくのもありだね」
「やめてよお」
中身が動物園になりたくはなかった。
居間はホラー演出でされているかの如く、札で埋め尽くされている。中には犬がいるのだろうが……。
「取り憑かれた本人は?」
「どうやらワタシたちは1枚、違う世界にいるらしい。犬っころと同じ世界にいるとみた」
「えー、良くわかんないけど……」
「馬鹿だな」
「ハァ?」
苛ついた矢先、グー子はアナログにふすまの境にカッターの刃を差し込み、開封してしまった。迷いのない手順で。
「命令だ。キューム、グイの力で犬神と戦え!」
(犬神?)
スパン、とふすまが開け放たれた。巨獣が大口をあけ、こちらを噛み殺そうとしてくる。――頭の中で火花が散った。





