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心配をかけてごめんなさいと謝罪の言葉を口にされたお嬢様。


素直に自分の気持ちを伝えるのが本当に苦手で、いつも照れ隠しに我儘を言っていたお嬢様が口にされた言葉に、公爵様ご夫妻だけでなく、使用人皆も驚き固まってしまった。


そんな周囲の様子に気が付いていたのかいないのか、いつものように顔を赤くして照れながらもこれからは心を入れ替えて良い子になると宣言するお嬢様。


その愛らしいお姿と、遂に素直に気持ちを口にされたという事実への嬉しさ。

それから、ほんの少しの寂しさに、涙を流さない者はいなかった。


そして、それからのお嬢様は本当に別人になられたように変わった。

時たま以前のままの姿が垣間見えることもあったが、よく笑い、よく泣き、感情をありのままに表現されるようになった。


元からお嬢様が大好きだった私を含む使用人達は、そんなお嬢様に魅せられ、もはや崇拝していると言えるくらいだった。


元気に笑いながら屋敷中を走り回るお嬢様と、それを優しく暖かく見守る公爵様ご夫妻。

そんな素敵なご家族にお仕え出来る幸せを噛み締めながら働く使用人達。


皆が笑顔で日々を過ごせる幸せな時間。

いつまでも続いて欲しいと願っていた生活は、しかし、数年で終わりを迎える事になる。


お嬢様が10歳になられた頃、ラウル殿下との婚約が決まった。


ご兄弟は姫君ばかりで唯一の王子であるだけでなく、ご本人の能力も秀でていた事から早々に立太子されていた将来有望な殿下との婚約に、屋敷の皆が喜んでいた。


これできっとお嬢様の将来も安泰。王太子妃、やがては王妃として持ち前の明るさと優しさで、立派に国を支えてくれるだろうと。


私自身もその事を疑っていなかったが、その婚約を期に、お嬢様の様子が少し変わってしまった。


皆の前ではこれまでと変わらずお過ごしになっているが、ふとした時に何かを考え込んでいる事が増えた。

それとなく聞いてみても、返って来る返事は何でもない、大丈夫の一点張り。


婚約から程なくして始まった王太子妃教育の疲れがそうさせているのかとも思ったが、どうやらそうでも無い。

それどころか、お嬢様は何処で学ばれたのか、私などでは想像も出来ないような事を色々と考え出されるようになった。


お嬢様が考え出された様々な施策は、公爵様を通して国王陛下のお耳にまで入り、そのことごとくが国策として採用されていった。


それによって民の生活の質も上がり、街にはお嬢様の功績を称える声が響いた。

公爵様ご夫妻はもちろん、私も他の使用人達も、そんなお嬢様が誇らしかった。


ただ、お嬢様本人だけがそう言った称賛の声を全く気にかけないどころか、まるで何かに追い立てられるように更に学問に励んでいる様子だけが気がかりだった。


そうして日々を過ごしていた時、ちょっとした用を仰せつかって街に出る事があった。


そこでたまたま聞こえて来た噂話に、私は耳を疑った。


何処ぞの貴族の使用人が出処だと言うその噂話は本当に酷いものだった。


お嬢様の功績は、他人に考えさせたものを自分が考え出したかのように偽っているだけだとか。

それを以て無理矢理次期王太子妃の座に居座っているだとか。

聞いているだけで腸が煮えくり返るような酷い話ばかり。


まだ救いだったのは、民はその噂話を誰も信じていなかった事。

お嬢様の施策により、実際に生活が良くなったのを体感している彼等は、その誰もがお嬢様に同情的だった。


しかし、民はお嬢様に同情的でも王太子殿下を始めとする貴族達は違うようだった。

この酷い噂話が、貴族の間ではまるで真実であるかのように言われていた。

その結果、王太子殿下とお嬢様の関係は冷え切り、お嬢様は社交界での居場所を失ってしまわれた。


筆頭貴族であるラズウェイ公爵家と言えど、王族の前では無力。

その為、公爵様や奥様がどんなにお嬢様の地位を回復させようと努力されても、王太子殿下の態度が変わらない以上、それは一向に変わる事はなかった。


それでもお嬢様は笑顔でこう仰る。

私には貴女達がいるからそれでいいんだ、と。


使用人に過ぎない私に出来る事は、せめて御屋敷では心穏やかに過ごして頂けるように努めるだけ。


それでも、願わずにはいられなかった。

誰か、誰でもいいから。

どうかこの心優しいお嬢様をお救い下さいと。

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