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四話

「もう、私の事はいいから!ほら、ミリの話の続き聞かないと!」


私が少し考え込んでいる間も続いていたお2人のやり取りは、セリーナさんの戦意喪失で決着がついたみたいだ。

そうだ、危うく忘れるところだったけど、今日ラッセル様と話した中で、たぶん1番大切な事をまだ伝えていない。


「あ、はい。それで感情が昂り過ぎて泣いてしまったんですけど、ラッセル様はすぐに謝罪をしてくださったんです。

それで……」


ラッセル様が、本当はセリーナ様が世間で言われるような人ではないとわかっていると言っていた事。

それなのに、何故か本人を前にするとそう言う事が全て頭から消えてしまい、噂が全て真実だと言う思いで頭がいっぱいになってしまうと言っていた事を伝える。


「うーん……」


難しい顔をして考え込むセリーナさん。

何を考えてるかは何となく予想出来るけど……。


「お嬢様、僭越ながら私にはラッセル様の言い訳としか思えません。

そんな突然思考が変わってしまうなんて、まるで魔法にでもかかってしまっているかのようではありませんか」


「まぁ、そうよねぇ」


マリーさんの言葉に頷きつつも、変わらず難しい顔をしているセリーナさん。

この世界に魔法は存在しないし、普通に考えたらマリーさんの言う通りだと私も思う。


でも、この世界には魔法とも言うべき力がたしかに存在しているみたいなんだ。


セリーナさんをこれまで散々苦しめて来た力。

ゲームの強制力。


セリーナさんがずっと考えているのも、この強制力がラッセル様に働いているのではないかということだと思う。


「ラッセル様もどうしてそうなるのかはわからないみたいで。

ちょうどそのタイミングでセリーナさんが来られたので、それ以上の話は聞けていません」


ゲームの強制力云々の話をしたいとは思うけど、マリーさんがいる前ではその話は出来ないからなぁ。


「全く……。ミリの前でそんな話するなんて。

ラッセル侯爵家は名誉ある騎士の家系のはずですのに、ご子息への教育は怠って来られたようですね」


ラッセル様の言っていた事を完全に言い訳と思っているマリーさんは、かなりご立腹の様子。

まぁ、確かにそう思える話だし、仕方ない。


「うん、とにかく何があったのかはよくわかったわ。

どの道ラッセル卿とはきちんと話しておかないといけないし、その時にこの事も聞いてみる。

それで、手紙を出すから、マリー、用意してくれる?」


ずっと考え込んでいたセリーナさんが顔を上げて指示を出す。


「はい、お嬢様。少しお待ちくださいませ」


「うん、ありがとう。ミリは疲れたでしょ?

今日はもういいから休みなさい」


「あ、はい。ありがとうございます」


優しい気遣いに感謝の言葉を伝えつつ、手紙の用意をする為に部屋を出るマリーさんの姿をつい目で追ってしまう。


「ん?ミリどうかした?」


そんな私の様子に気付いたらしく、小首を傾げるセリーナさん。


「あ、いえ。マリーさんはセリーナさんの前世の話とか何も知らないんですよね?」


「え?えぇ、そうね」


「話してみないんですか?」


信じて貰えないどころか、頭がおかしくなったと思われる。だから、誰にも話していない。

最初に前世の話をしてくれた時、セリーナさんはそう言っていた。

確かにそうかもと思うけど、セリーナさんとマリーさんの関係性を見てると、信じてくれるんじゃないかと思う。


もちろん、これはセリーナさんが決める事だから私がどうこう言う問題ではないのもわかってるけど。


「そうね、マリーなら……。うん、少し考えてみる」


「はい、出すぎたことを言ってすみません」


「ううん、いいのよ。私も考えてなかった訳じゃないから。

ほら、もういいからゆっくり休みなさい」


「はい、それでは失礼します」


私が部屋から出る時も、セリーナさんはずっと考え込んでいるみたいだった。



「話してみる」


翌朝、寝室でセリーナさんと顔を合わせての第一声はそれだった。


「私から提案しておいてなんですけど、本当に良いんですか?」


今まで話せなかった理由も理解出来るし、私が余計な事を言ったせいで無理に話そうとしているのではないかと心配になってしまう。


「ものすごく迷ったのは確かよ」


そう答えるセリーナさんの目の下にはくっきりとしたクマが出来ている。

きっと一晩中悩んだんだろうなぁ。


「それでも、マリーに秘密があるのはやっぱり嫌だしね。

そうなると、お父様にお母様、お兄様にも話さないとなぁ」


これは大仕事だわと言って笑うセリーナさんだけど、その表情には僅かな不安の色が見える。

それなら……。


「あの、私の事もマリーさんに全部話しますから」


「え?いや、何もミリまで話さなくても……」


セリーナさんはそう言ってくれるけど、秘密を人に話すのはやっぱり誰でも怖い。実際私も怖いし。

マリーさんなら大丈夫だって思うけど、そんな事を1人でやらせる訳にはいかない。


「いえ、私の事も話した方がマリーさんも納得しやすいと思いますし」


まぁ、実際にはもっと訳がわからない話になる気がするけど。

とりあえずはこう言っておいた方がセリーナさんも気が楽なはず。


「全く、貴女って子は……。

わかったわ。一緒に話しましょ」


どうやら、私の考えは全てお見通しみたい。

それでも、少しは気持ちが楽になってくれたかな?ちょっと顔色が良くなった気がする。


「お嬢様ー?そろそろお着替えなさいませんと遅刻しますよー?」


隣室で制服の仕度をしてくれていたマリーさんから声がかかる。


「はーい!今行くー!」


そう言って隣室へと駆けて行くセリーナさん。

すぐにマリーさんの「お嬢様!?顔が酷いです!!」という悲鳴と、それに抗議するセリーナさんの声が聞こえてくる。


うん、この2人ならきっと大丈夫。

改めてそう思った。

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