三話
「ミリ?本当に大丈夫なの?」
寮へ戻ってからも、セリーナさんは私の手を離そうとしない。
それだけ心配してくれてるのを有難くも思うけど、申し訳ない気持ちの方が強い。
「はい、本当に大丈夫です。ご心配かけて申し訳ないです……」
「ほら、ミリ。これでも飲んで楽にしなさい。お嬢様もです。ずっと手を握ったままではミリも困ってしまいますよ」
そう言いながらお茶を淹れて来てくれたのはマリーさん。
こんな時でも落ち着いてくれていて、本当に助かる。
「えぇ、そうね」
そう答えてソファに腰を下ろすセリーナさん。手もようやく離してくれた。
もちろん嫌ではなかったどころか、そこから私を案じてくれるセリーナさんの気持ちが伝わって来て頼もしく感じるくらいだった。
でも、やっぱり恥ずかしかったし。
「ふぅ、とりあえず私は着替えて来るわね。ミリはそのまま休んでなさい」
「あ、はい。すみません……」
「こーら、謝らないの」
そう言ってにかっと笑いながらセリーナさんは席を立つ。
今更だけど、制服姿のままだったもんな。
授業からの帰りに通りかかったのか。
そんな事を思いながら見送っていると、マリーさんが隣に腰を下ろして来た。
「あれ?着替えのお手伝いは……」
当然マリーさんもセリーナさんに付いていくものだと思ってたんだけど。
「お嬢様は大丈夫よ。大抵のことはお1人で出来る方だから。それに……」
そう言いながら、そっと頭を撫でてくれる。
ん〜、気持ちいい。
「こんな状態のミリを置いて行ったら、逆にお叱りを受けるわ。だからいいの」
そう言って微笑むマリーさんの手は、暖かくて優しくて。
こんなに心配をかけて申し訳ないとは思いながらも、ついつい甘えてしまった。
「どう?落ち着いた?」
着替えて戻って来たセリーナさん。その顔にはまだ心配の色が濃く浮かんでいる。
「はい、もう大丈夫です。ありがとうございます」
マリーさんがずっと頭を撫でてくれていたのもあって、気持ちもかなり落ち着いた。
私の返事に「良かった」と言って微笑んでくれたセリーナさんだけど、ふぅっと息を一つ吐くとすっと表情を引き締める。
「それじゃあ、ラッセル卿と何があったのか聞かせて貰えるかしら?
あ、もちろんまだ辛かったら無理はしなくて良いんだけど……」
どこまでも私の事を気遣ってくれるのが本当に嬉しい。
でも、もう本当に落ち着いたし、何よりこれだけ心配をかけてしまった以上、きちんと話さないといけない。
「いえ、大丈夫です。きちんとお話します。
実は……」
ラッセル様がセリーナさんの悪い噂の事を口にした事。
この前の王太子との事もあり、それで怒りが抑えきれなくなってしまった事を伝える。
「それで、つい声を荒らげるという無礼を働いてしまいまして……って。あの、セリーナさん?」
最初は真剣な顔で話を聞いていてくれたセリーナさんだけど、途中から俯き気味になったと思ったら、今は何故か耳を赤くしてごにょごにょ言っている。
どうしたんだろう?
「えっ!?あ、いや……その。
あっ!ラッセル卿に声を荒らげたんだっけ!?
そ、それなら大丈夫よっ!先にあっちが私を侮辱したんでしょ?それなら、何も言えないはずだから!!」
「はぁ、それなら良かったですけど……」
ラッセル様への事が問題にならなそうなのは良かったけど、それなら何でセリーナさんはこんなに挙動不審なんだろう?
訳が分からず隣に座っているマリーさんの方を見ると、くすくすと笑っている。
なんで笑っているのかわからずきょとんとする私。
セリーナさんは相変わらず顔赤いし。
「ミリ、お嬢様はね、照れてらっしゃるのよ」
照れる?なんで?
くすくすと笑い続けながらマリーさんが説明してくれたけど、さっぱりわからない。
「マリー!余計な事言わなくて良いから!!」
更に顔を赤くして怒ってるセリーナさん。
「あら、ここは素直になったら宜しいじゃありませんか。
ミリが自分の為に怒ってくれたのが嬉しいって」
「ああああああああぁぁぁっ!!」
公爵令嬢に有るまじき奇声をあげると、クッションを掴み顔を覆ってしまった。
そんなセリーナさんを見ながらずっと笑顔のマリーさん。
楽しそうと言うよりは、すごく嬉しそうだ。
「お嬢様は昔から感情を素直に相手に伝えるのが苦手でしたものね。
5歳くらいでしたか?その時を境いに突然少しは素直になられたと思ってましたけど、やっぱりまだまだですねぇ」
「ちょっとさすがに酷過ぎない!?私一応主人なんですけど!?」
顔を真っ赤にしたままギャーギャーと叫き立てるセリーナさんと、それをくすくすと笑いながらあしらっているマリーさん。
そんなお2人の様子からは、長年に渡る信頼関係が伝わって来るけど……。
5歳くらいの時に突然素直になったって言うのは、セリーナさんが前世の記憶取り戻したからだよね。
マリーさんはその事知らないんだよなぁ。
お2人が本当に信頼し合っているのが見ててわかるだけに何だか複雑な気分。




