四話
「ミリちゃんがお慕いするのもわかるなぁ。
本当に素敵な方だったもんね、セリーナ様」
くすくすと笑うサーシャ。
この前のお茶会の事を思い出しているんだろうか。
「ミリちゃんから色々お話聞いて、素敵な方にお仕えしてるんだなって思ってたの」
喫茶店行くたびにセリーナさんの事話してたからなぁ。
ある意味惚気みたいなものだったかも知れない。
「どんな方なのかなって気になってたら、ここでミリちゃんに再会出来て、それでお仕えしてる方にもお会い出来る事になって。
まさかセリーナ様だとは思ってなかったからびっくりしたけど」
まぁ、友達が仕えてるのが、自分に付き纏ってる王太子の婚約者だったらびっくりするよね。うん。
「お会いするのは本当に楽しみだったけどね、私覚悟もしてたの」
そう言うサーシャの表情は真剣そのもの。
私は頷く事で先を促す。
「あの時には、もう王太子殿下との噂は広がってたからね。
招待はしてくださったけど、私には良い感情はお持ちじゃないと思ってたの。
厳しい言葉をかけられるのが当然だと思ってた」
確かにゲームの悪役令嬢セリーナだったらそうだったかも。
いや、そもそも招待すらしなかったかな?
「それなのに、セリーナ様ったら……。あははっ」
あの時のセリーナさんの様子を思い出したのか、堪えきれないといった様子で笑い出すサーシャ。
まぁ、あれは中々だったもんなぁ……。
「セリーナさんはああ言う方だから。だから会わせても大丈夫って思ったんだよ?」
「本当にびっくりしたけど。私すっかりセリーナ様のファンになっちゃった!」
心底楽しそうに笑うサーシャ。
どうなるか心配だったお茶会は、そのままセリーナさんを褒め称える会へと変化していった。
「問題はあの王太子をどうするかだよねぇ」
サーシャとのセリーナさん談義が楽しくて忘れかけていたけど、問題は何も解決してない。
とりあえず、サーシャに王太子への気持ちが全くないどころか、評価がかなりマイナスなのは好材料ではあるけど。
「そうだよねぇ。本当に困るんだけど、王太子殿下だから私としても強く言えないし……」
「だよねぇ……」
「……ぷっ」
どうしたものかと悩んでいたら、唐突にサーシャが吹き出した。
「え?どうしたの?」
突然笑い出すなんて何事?なんか変なこと言ったかな?
私が頭に疑問符をたくさん浮かべている間も、サーシャはずっと肩を震わせている。
「あ、ごめんね?ミリちゃん王太子殿下の呼び方があまりにも……。敬称付けなくなるくらい嫌ってるのかなって思ったら何だか面白くて」
「あ……。それは、その……」
しまった。
つい油断して敬称なしで王族を呼んでしまっていた。
相手が相手なら、これをそのまま報告されて不敬罪に問われても仕方ないレベルの失態だ。
「大丈夫だよ、誰にも言わないから」
うん、サーシャならそう言ってくれると思ってた。
でも、今度からは本当に気を付けないと。
「うん、ありがと。えっと、殿下をどうしようかって話だったよね?
やっぱりセリーナさんの力を借りるしかないかなぁ?」
「セリーナ様の?でもご迷惑じゃ……」
まぁ、確かにセリーナさんに頼んだら面倒くさい、王太子となんか話したくないって言われそうではあるけど。
「んー、でも立場的に王太子……殿下に何か言えるのはセリーナさんしかいないかなぁって」
公爵令嬢だし婚約者だし。
いくら仲が悪いって言っても、話くらいは聞いてくれるんじゃないだろうか。
そう思って、サーシャとのお茶会から帰るとその話をセリーナさんにしてみた……が。
「無理よ」
セリーナさんからの返答は無情なものだった。
「サーシャが困ってるのは感じてたし、今のミリの話からも良くわかったわ。
でもね、私が出張ると間違いなく逆効果よ」
「でも、婚約者のセリーナさんの話を全く聞かないなんて事は……」
「あるのよ」
「ない」と続けようとしたけど、セリーナさんにぶった切られてしまった。
「私が何か言っても、サーシャへの嫉妬だと思うだけでしょうね。
で、その結果、私への心象が更に悪くなる……と」
「王太子殿下はそこまでお花畑になられてますか」
丁寧な口調ながらも、思い切り毒を吐くのはマリーさん。
私の尊敬する優秀な侍女であるマリーさんは、もちろんセリーナさんが大好きなので、王太子の事は比例して嫌っている。
「そうよー。それにね、私への心象だけならまだいいのよ。もう今更だしね。
下手したら、私から守るとか言って、更にサーシャに付き纏うわよ」
終わってんな王太子……。
「サーシャが王太子殿下の事好きならそれでもいいけどねぇ」と呑気に言ってるセリーナさん。
一応まだ婚約者なのにそれでいいんだろうか。
まぁいっか。所詮相手は王太子だし。
「でも、サーシャが困ってるし何とかしてあげたいわねぇ」
どうしたものかと考え込むセリーナさん。
私とマリーさんも一緒になって色々考えたが、結局いい案は浮かばなかった。




