三話
「うん、ミリちゃんも気になるよね……」
少し悲しそうに微笑むサーシャ。
「ごめんね、こんな事聞いて気分悪くするのは当然だと思うけど」
それでも聞かずにはいられなかった。
全てを諦めたように振る舞いつつも、私の将来の事まで案じてくれているセリーナさん。
ゲームどおりに進めば、王太子により断罪され破滅してしまう運命が待っている心の優しい私の大切な主。
サーシャが王太子に惹かれていないなら、セリーナさんが破滅を回避する為に力になってくれないだろうか。
いや、もし惹かれていたとしても、セリーナさんの人柄はゲームの悪役令嬢とは違う。
サーシャに嫌がらせなんか全くしてないし、するつもりだってないはず。
別の人が嫌がらせしたのをセリーナさんの仕業と見せかけようとしても、サーシャもセリーナさんの人柄はこの前でわかったと思うから、濡れ衣だと信じてくれないだろうか。
そう思って、それなら先ずはサーシャの気持ちをきちんと知りたい。
それできちんと話したいと思ってこの場を設けてもらった訳だけど……。
どうしよう、沈黙が気まずい。
「あのね、ミリちゃん」
私が沈黙に耐え切れなくなる前に口を開いたのはサーシャだった。
「私、王太子殿下が色々気にかけてくださって、あれこれとお世話してくれるのね。
最初は本当に恐れ多いし、すごい戸惑ったよ」
ゆっくりと一つ一つ言葉を選ぶように話すサーシャ。
「でもね、私が貴族社会にまだ慣れてないのを心配してくださって、純粋に善意からしてくださってるのがわかったから嬉しかったの」
俯いたままそう言うサーシャの頬は僅かに赤く色付いている。
これはサーシャも王太子に惹かれているということなんだろうか。
それじゃセリーナさんは……。
もし本当にサーシャが王太子と惹かれ合ったなら、その時私はどうすれば……。
「でもね!?」
そこで言葉を切り、ガバッと顔を上げるサーシャ。
その頬はさっきよりさらに赤く色付いている。
でもこれは……。
「この前、セリーナ様とお話させて頂いてね!?
あんな素敵な方が婚約者なのに、おかしいと思うの!!」
カッと目を見開くサーシャ。
ちょっとこれは貴族のご令嬢としてアウトだと思う。
鼻の穴膨らんでるもん。
「そりゃ、私の事心配してくださるのはありがたいよ?でもね?
変な噂まで出始めてるのに、それを放置してるのは間違ってると思う!」
王太子を慕う気持ちからではなく、王太子への怒りで頬を赤く染めたサーシャの勢いは止まらない。
「小耳に挟んだんだけど、王太子殿下って学校入ってから一度もセリーナ様と会話らしい会話してないみたいじゃない!?
そんなんじゃ私が何言っても噂なんか消える訳ないじゃない!」
あまりの剣幕に圧倒されて、私はこくこくと頷く事しか出来ない。
「優しくて紳士的な方だと思ってたのに、そんなに不誠実な方だったなんて……。
この前のセリーナ様のお怒りも当然よっ!!」
最後は仁王立ちで叫んだサーシャ。
それでもまだ怒りは収まらないのか、ふーふーと鼻で荒く息をしている。
「サーシャ、気持ちはよくわかったから、先ずはお茶飲んで落ち着こう?ね?」
その後も「あれは浮気よ」とか「セリーナ様の爪の垢を煎じて飲むべきよ」とかブツブツ言っているサーシャを宥めるのに、私は小一時間を要した。
「どう?落ち着いた?」
「うん……。ごめんね、ちょっと興奮し過ぎちゃったみたい」
ちょっとではなかった気がするし、伯爵令嬢としては色々とアウトな姿も見た気はするけど、もっと上の身分の某公爵令嬢の人には見せられない日々の姿を見ている私からしてみれば許容範囲だ。
「大丈夫大丈夫。サーシャもずいぶんと色々溜まってたんだなって」
ずっとセリーナさんの事ばかり考えていたけど、よく良く考えればサーシャだってストレスが溜まらないはずはないんだ。
王太子との事であれこれと噂されて、それでもサーシャが王太子に惹かれていれば愛の力?とかで気にならないのかもだけど、そう言う気持ちはないみたいだし。
そう思うと、ますます王太子に腹が立って来た。
セリーナさんにサーシャ。
私のとても大切な人達にどんだけ負担かけてくれてたんのよ。
「ミリちゃんに吐き出せてすっきりしたよ。
それに……」
そこで言葉を切ると、ニヤッと笑うサーシャ。
ん?どうしたんだろ。
「ミリちゃんて、本当にセリーナ様の事が好きなんだなぁって。
ちょっと嫉妬しちゃうくらい」
「ちょっ!?」
にひひっと笑うサーシャ。
それは伯爵令嬢としてのサーシャではなくて、街の喫茶店で働いていた頃のサーシャの、少し懐かしい笑顔。
いや、そうじゃなくて!
「いや、セリーナさんの事は尊敬してるし、恩人だし、確かに好き……だけど……」
なんか段々と恥ずかしくなってもごもごしてしまう。
そして、そんな私を見てずっとニヤニヤしているサーシャ。
くそぉ、からかわれてる……。




