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一話

……どうしてこうなったんだろう。

あれから数日後。


鏡の前に座らされた私は頭を抱えたいのをグッと堪えていた。

堪えているというより、動くと怒られるから動けないのが正解なんだけど……。


「ほーら、やっぱり。ミリはきちんとしたら絶対可愛いと思ってたのよー!」


そんな私を見ながら上機嫌な声を上げているのは、私が仕える主であるセリーナさん。


「仰る通りです。

ミリは仕事ではとても気が利くのに、自分の事には本当に無頓着ですからねぇ」


こちらも上機嫌でセリーナさんの声に頷くのはマリーさん。

そんなマリーさんは、今私の髪の毛をセットしてくれている。

侍女としての先輩でもあり、憧れでもあるマリーさんによるヘアメイク。

本来ならじっくり観察して勉強したい。その対象が私でさえなければ……。


そもそも、私がなんでこんな状況になっているかと言うと、それは数日前に遡る。

伯爵令嬢であり、私の友人でもあるサーシャから、お茶会の招待状。

それが貴族家として正式な形式を用いたもの、つまりサーシャ個人ではなくフェルチェ伯爵家からのものだった事が原因だ。


そうなると、当然私が持っているような庶民感全開の服を着ていく訳にもいかず、どうしようかと思っていた。

サーシャに掛け合って何とかするしかないと思っていたら、招待状の事がセリーナさんに知られてしまったのだ。


いやね、サーシャとお茶する事は事前に伝えていたし、許可も取っていた。

ただ、こんな形式で来るとは思ってなかった。


マリーさんからはセリーナさんに相談して力になってもらうように勧められたけど、迷惑かなって思ったから話さないで欲しいって頼んでおいたんだ。


それなのに、帰宅したセリーナさんは私が少し席を外して戻って来ると、全てを知っていた。

情報源はもちろんマリーさん。


「私言わないでくださいって言ったじゃないですか!?」


まさかあっさりバラされるとは思ってなかったからさすがにびっくりした。

そしたら……。


「あら、私は何も話してないわよ?ただ、ミリが置きっぱなしにしていた招待状をお嬢様にお見せしただけ」


と言われた。

そして、その横には何故かめちゃくちゃやる気満々な顔をしてるセリーナさん。


「マリー!当日はミリを最高に可愛く仕上げて!

服は……新しく作る時間はないわね。

私のから何か見繕ってくれる?あ、あと返礼品も用意してあげてね、お金は私が出すから」


「かしこまりました、お嬢様」


「セリーナさん!?何言ってるんですか!?」


私とマリーさんの声が響いたけど、セリーナさんは私の発言は聞こえない事にするようだ。


「今後に備えてミリの服を何着か作りましょう。あ、マリーも作る?」


とか何とか、マリーさんと楽しそうに話してる。


そして、このやり取りから数日後。

サーシャとのお茶会当日になり、私はセリーナさんのドレスを着せられ、鏡の前でマリーさんにヘアメイクされているという訳だ。


「うん、良い感じね!さすがはマリーだわ!」


「ミリは素材が良いですからね。私も満足でございます」


準備を終えた私を見て満足気に頷くセリーナさん。

マリーさんはマリーさんで、やり切ったと言うような顔をしている。

そして、私は精神的も肉体的にも疲れ切ってぐったりとしている。


「あら?どうしたのミリ?」


そんな私を見てセリーナさんは不思議そうにしている。

日本人の記憶があるとは言え、この世界では公爵家のご令嬢として育って来たセリーナさん。

そんなセリーナさんに、長年仕えて来たマリーさん。

そんな2人にとっては、ドレスも何もかも当たり前なのかも知れないけど、1年ちょっと前まではバリバリ日本の庶民として生きて来た私には色々しんどい。


ドレスはかなり簡易的なものではあるんだけど、それでも初めて付けられたコルセットはめちゃくちゃ苦しいし、アクセサリーはジャラジャラしてて落ち着かないし……。


「いえ、なんでもないです……」


「そーおー?」


あ、これニヤニヤしてるあたり、私の思ってること絶対分かってるわ……。


「ともかくっ!これなら伯爵家からの招待だろうが何だろうが全然問題ないわよ。

まぁ、後は気楽に楽しんでらっしゃいな」


あぁ、ものすごく楽しそうだな……。


「はい、行ってきます……」


いずれこの恨みは晴らす。


主に対して抱くものとしてはとてつもなく不敬な想いを抱きながら、私は人生初のお茶会に向かった……。

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