二話
セリーナさんの様子が変わったことに気付いたのか、サーシャはキョトンとしている。
「別にいいでしょ?マリーやミリの前では今更だし、サーシャもミリの友達なら身内みたいなもんだし」
驚きのあまりなのか、固まっているサーシャに構うことなくセリーナさんのマシンガントークは続く。
「……てなこともあってねーって、サーシャ?どうしたの?」
「お嬢様、サーシャびっくりして固まってますよ」
「ちょっとミリ?無礼講だって言ってるのにお嬢様とかやめなさいよ」
「えぇ?」
無礼講とは言え、これはさすがにどうなんだ。
そう思ってマリーさんに助けを求める視線を送るも、返って来るのはにっこりという笑顔。
あぁ、諦めてる……。
「サーシャ?サーシャ大丈夫?」
とりあえずセリーナさんのことは放置して、固まっているサーシャを復活させないと。
「え!?あ、あぁ大丈夫……。ちょっとびっくりしちゃって」
「ずっと固まってたけどどうしたの?」
セリーナさんは自分のせいだと本当にわかってないのか、わからないフリをしているのか。
サーシャの顔の前で手をフリフリしている。
「申し訳ありません。大丈夫です。
その……なんて言うか、セリーナ様ってこんなに親しみやすい方だったのですね」
「まぁ、公の場ではお淑やかなフリもしないとね?
でも今日はいいでしょー。サーシャも、もっと気楽にしてね!」
サーシャがチラッとこちらを見てくる。
まぁ、気楽にと言われてはいそうですかとは中々出来ないよね。
「サーシャ、セリーナさんはこういう人だから大丈夫だよ。
本当に全然一切気を遣わなくて良いから」
「そうそう、大丈夫よーって、ちょっと酷い言われ方してるような?」
「気のせいです」
ぷくっとほっぺたを膨らませて拗ねるふりをしているセリーナさんを軽くスルー。
今度はマリーさんに「ミリが酷い!」とか言ってるけど、それも流されている。
「……ぷっ!あははは!」
驚いたように私達のやり取りを見ていたサーシャが堪えきれないと言うように笑い出した。
「ちょっとサーシャ!?笑うとか酷くない!?」
セリーナさんが抗議するが、サーシャはツボに入ったらしくずっと笑っている。
「も、申し訳ありません。皆さんのやり取りが本当に面白くて……。あははは!」
謝りながらも笑いは止まないみたい。
「もう……」
拗ねたような態度を取りながらも、セリーナさんも楽しそうだ。
「あぁ、面白かった……」
ひとしきり笑ってようやく落ち着いたサーシャが、ふと姿勢を正してセリーナさんに向き合う。
「あの、セリーナ様。どうしてもお伝えしたいことがあります」
「ん?なに?」
口調こそ変わらないが、サーシャの様子を見たセリーナさんもすっと姿勢を正す。
「はい。王太子殿下のことです」
あぁ、やっぱりその話題出るのか。
まぁ、そうだよねぇ。
「いいわ。聞きましょう」
王太子という言葉を聞き、セリーナさんの表情が固くなる。
サーシャも緊張しているのか、口をきゅっと結んで固い表情だ。
「えっと……」
「お茶のお替わりをお持ちしますね」
「あ、うん。お願い」
場の空気が固くなっていることに気付いたマリーさんが、穏やかな口調で告げる。
すぐに淹れてくれたお替わりを口にしたことで、サーシャの緊張も少し解けたみたい。
「本当に本当に!申し訳ございません!!」
ソファから立ち上がると、床に跪き深々と頭を下げるサーシャ。
これはあれだ。土下座ってやつだ。
「王太子殿下と私の噂で、セリーナ様のご気分を害しましたこと、心よりお詫び申し上げます!」
そしてさらに土下座……。
もう床に頭めり込むんじゃないかって言うくらいの勢いだ。
「頭を上げて?」
私もマリーさんまでもがサーシャのあまりに見事な土下座に呆気に取られている中、とても穏やかなセリーナさんの声が響く。
「いえ、そんな……」
「ほら、いいから。ね?」
中々頭を上げられずにいるサーシャに、セリーナさんが再び語り掛ける。
その声音は本当に穏やかで、幼子に言い聞かせるかのような優しさを含んでいた。
「あの、私……」
おずおずと頭を上げたサーシャの顔は、今にも泣き出してしまいそう。
サーシャにこんな顔させるなんて、やっぱり王太子許せん。
「勿論、噂のことは私も知ってる。
でもね、サーシャ。それが貴女のせいではない事も私は知ってる」
「セリーナ様……」
跪いたままのサーシャの元に寄ると、目線を合わせるようにかがみ込んでそっとサーシャの頭を撫でるセリーナさん。
「サーシャにこんなことまでさせて……。全ての元凶は……」
「セ、セリーナ様……?」
穏やかだった声音にいつの間にかドスが効いている。
表情こそはにこやかなままだけどこれは……。
サーシャも異変を感じて怯えてるよ……。
「全っっっ部!!あの馬鹿のせいよっ!!!!」
「別に私の事が嫌いだろうが、誰か他の子の事が好きになろうがどうでもいいのよ!
私だってあんな奴なんの興味もないし!
そもそもね?私や公爵家の希望で婚約したんじゃないっての!
王家から是非ともって言うから、逆らう訳にもいかずに仕方なく婚約したんじゃないの!!」
一気に捲し立てるセリーナさん。
呆然とするサーシャ。
始まったか、と心を無にする私とマリーさん。
「私への態度が悪いことは我慢してやるわよ!
変に構ってこられる方がよっぽど嫌だからね!
でもね?最低限弁えるべき事はあるでしょ?
仮にも王太子って身分で、一応は婚約者がいる人がよ?
人目も気にせず私以外の女の子に付き纏ってたら噂にもなるでしょうよ!
それでその相手……サーシャだけど!サーシャに迷惑かかるって事すらわからんのかあのアホ王太子はっ!!」
言い切った!とばかりに満足気に汗を拭っているセリーナさん。
あ、サーシャが固まってるから助けてあげないと。
「サーシャ?大丈夫?」
「……え?あ、ミリちゃん……。う、うん、大丈夫……」
よし、サーシャは復活したな。
「お嬢様、サーシャ様がびっくりされています。落ち着いてください」
私がサーシャを復活させている間に、セリーナさんの事はマリーさんが落ち着かせてくれたみたいだ。さすがです。




