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一話

それからあっという間に一週間が過ぎた。

私はと言うと、たまに買い物やらを頼まれて出掛けることはあるが、あれ以降は王太子とも遭遇することなく平和に過ごせた。


セリーナさんの方も、王太子と顔を合わせることはたまにあるみたいだけど、会話とかは全くしていないそうだ。

何か言いたげに見てくるのが鬱陶しいとは言ってたけど。


まぁ、ともかくそんなこんなで平和な日常を過ごし、いよいよ今日はセリーナさんがサーシャをお茶に招待した日だ。


これが公爵家とかでやる正式なお茶会なら準備が大変だったりするけど、今日はセリーナさんの寮の部屋にサーシャを招いての簡易的なもの。

もちろん、下手なお茶やお菓子は出せないから気を遣うことは間違いないんだけど、正直言ってかなり気楽ではある。


「お嬢様、そろそろ約束のお時間です。

いつまでも寝転がってるのはお辞め下さい」


「はーーい」


今日も今日とてゴロゴロしているセリーナさんをマリーさんが愛のムチで起こしている。

ゴロゴロしてたのに服はシワになってないのは奇跡だ。


そう、今日のセリーナさんはきちんとした令嬢の格好をしている。

いくら非公式な場とは言え、天下のラズウェイ公爵家のご令嬢がお客様をお招きしているのだ。

いい加減な服装で迎えることなんて出来るわけが無い。

セリーナさんが気にしなくても、マリーさんと私の侍女魂がそれを許さないのだ。


セリーナさんの服装や髪の乱れをチェックしていると、部屋の扉がノックされた。

約束の時間ピッタリ。


扉を開けた先にいたのは、今日のお客様。

私の大切な友達でもあるサーシャだった。


「サーシャ、いらっしゃい」


本来なら許されない事だけど、今日はセリーナさんとマリーさんしかいないから普段通りに気軽な挨拶でサーシャを迎える。


「ミリちゃん!こんにちは!」


満面の笑顔で応えてくれるサーシャは今日も絶好調に可愛い。


「セリーナお嬢様、フェルチェ伯爵令嬢様がおいでになりました」


さすがにセリーナさんに訪問を告げる時はきちんと言わないとだけど。


「よく来てくださいました、フェルチェ伯爵令嬢。

さぁ、お入りください」


セリーナさんも今日は令嬢モード。

さて、中のことはマリーさんに任せて大丈夫だろうから、私はお供の方々のおもてなしをしないと……ってあれ?


「サーシャ?お供の方々は?」


サーシャの後ろを見てもどこを見ても誰もいない。

寮の外に待たせているんだろうか?


「え?近いし1人で来ちゃったんだけど……やっぱりまずかったかな?」


例え近場であろうと、貴族のご令嬢が1人で出歩くことはまず有り得ない。

授業で校舎に行く時も各寮に配属されている警備兵が身辺警護してるくらいなのに……。


「えっと……。まだあんまり貴族のことに慣れてなくて。ごめんね?」


びっくりして思わず固まってしまっていた私に、サーシャが申し訳なさそうに謝る。


「え!?ううん、大丈夫だよ。ちょっとびっくりしただけだから」


「ミリ?いつまでもお客様を立たせたままではいけませんよ。

さぁ、どうぞお入りください」


「申し訳ありません!どうぞこちらへ!」


「あ!はい!!失礼致します!!」


私達のやり取りを見てクスクス笑っていたセリーナさんに促され、慌ててサーシャを中に案内する。

見られていたのが恥ずかしかったのか、サーシャの顔は赤くなっている。


「フェルチェ伯爵令嬢。今日はお忙しい中、こうして足を運んでくださってありがとうございます」


令嬢スマイル全開でサーシャを迎えるセリーナさん。

ほんの数分前までだらしなくゴロゴロしてた人とはとても思えない。


「ほ、本日はお招き頂きましてありがとうございます!

フェルチェ家のサーシャと申します。ラズウェイ公爵令嬢様におかれましては……」


マリーさんとお茶の用意をしつつ、セリーナさんに挨拶するサーシャの様子を見てみると、ものすごく緊張しているのが伝わってくる。

私から名前こそ出していないけど、セリーナさんのことは色々話したことはあるけど、やっぱり身分差とかあるから仕方ないのかな。


「そんなに緊張なさらなくても結構よ。どうぞ気楽にセリーナとお呼びくださいね」


「は、はい!では私のことも是非サーシャとお呼びください!」


セリーナさんは変わらず令嬢スマイル全開だけど、サーシャの方は緊張のせいなのか顔が真っ赤になってる……。大丈夫かな?


「今日は私達2人だけのお茶会ですし、のんびりと楽しんでくださいね?

あ、マリー、ミリ。2人もこっちに来てくれる?」


お茶やお菓子を出し終え、部屋の隅で待機している私とマリーさんを手招きするセリーナさん。

何だろう?

よくわからないけど、とりあえず呼ばれるままに近くまで行って待機。


「サーシャ。貴女はミリとお友達なのよね?マリーとも面識があると聞いています」


「あ、はい!ミリちゃんとはずっと仲良くしてもらってて。

マリーさんもお店に来てくださったことがあるので、その時に何回かお話させて頂きました!」


「そう。ありがとうね。2人は私にとっても大切な人だから……。

うん、それじゃあ……」


にっこり笑ってサーシャ、マリーさん、私と順に見渡すセリーナさん。


「今日は4人でお茶しましょうか」


「え!?いえ、ですが……」


セリーナさんの予想外の発言にどう答えたものか。

マリーさんの方を見ると、さすがに困ったような顔をしている。

そりゃそうだよね。誰もいない時ならまだしも、いくら私の友達とは言えサーシャっていうお客様がいるのに。


「大丈夫よ。さぁ、2人もお座りなさい」


一見穏やかにしか見えない令嬢スマイルなのに、何故か逆らえない迫力がある。

経験上、こういう時のセリーナさんはこちらが言うことを聞くまで絶対に折れない。


「わぁ!素敵ですね!ミリちゃんもマリーさんも是非ご一緒しましょ!」


サーシャはサーシャで嬉しそうににこにこしてるし……。

観念して座るしかなさそうだ。


「あぁ、2人の分もお茶が必要ね」


おずおずと座る私とマリーさんを横目に、セリーナさんがすっと立ち上がってお茶を淹れようとする。

さすがにそこまでさせる訳には!と私達が制しようとするよりも速く動き出す1つの影。


「セリーナ様!私が淹れます!」


いやいや、サーシャ……。貴女もダメよ。


「お嬢様もサーシャ様もお座りになってください。私が用意しますので」


すかさずマリーさんが立ち上がり、セリーナさんとサーシャを止めてくれた。

さすがです、マリーさん!

まぁ、本来は下っ端の私の仕事ですよねごめんなさい。


「それじゃあ、全員分揃いましたね。では、改めてお茶会を始めましょう」


お茶が行き渡るのを見ると、そこまで完璧な令嬢スマイルを浮かべていたセリーナさんが、ニヤッと笑いながら宣言する。

あ、嫌な予感。


「今日は無礼講ね」


あぁ、この人サーシャの前で素を出す気だわ……。

まぁ、ご本人が気にしないならいいけど。

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