三話
その後はセリーナさんも何とか落ち着き、お茶会は和やかに終わった。
最初はかなり緊張していたサーシャだけど、最後の方はセリーナさんとも普通に会話出来ていたし、かなり好感触と言っていい結果になったと思う。
ゲームのヒロインであるらしいサーシャとこれだけ良い関係が築けたなら、セリーナさんが言っている破滅とやらも回避出来てしまうのでは?
そう思ってちょうどマリーさんが席を外したタイミングで聞いてみたんだけど……。
「そうなると嬉しいんだけどね」
セリーナさんは少し寂しそうにそう答えるだけだった。
なんでだろう?
「前にも話したかもだけど。ヒロインは……サーシャはゲームでも最後まで悪役令嬢を庇うのよ。
でも、殿下はそれを押し切って私を断罪するの。だから……ね」
「そんな……。でも、サーシャと良い関係を築けば結末は変わるかも知れないじゃないですか?
だから今日サーシャとお茶会したんじゃないんですか?」
私はセリーナさんが完全にそのつもりで今日のお茶会を開いたと思っていた。
恩人であるセリーナさんに悲しい結末を迎えて欲しくない。
だから喜んで協力したのに。違うんだろうか?
「確かにそうなってくれたら嬉しいわよ。
でも、それよりもさ。私がどうなっても悪役令嬢の事すら哀れんでくれるヒロインだもの。
なら、私が大切にしてた人達の面倒を見てくれるかなって」
え?何言ってるの?自分の方が大変なのに、そんな状況でも他の人の心配……?
「ほら、マリーも戻って来るわよ。この話はもうお終い」
私が反論するよりも早く会話を打ち切るセリーナさん。
マリーさんも戻って来たので、それ以上何も言うことが出来なかった。
翌日になっても、私の心はもやもやしたままだった。
原因はもちろん昨日のセリーナさんとの会話。
自分の事よりも私や他の人の事を考えてくれているのは本当にありがたいと思うし、嬉しいとも思う。
でも、自分自身の事も同じように、いや、それ以上に考えて欲しいと思ってしまう。
前々から少し気にはなっていたけど、セリーナさんは自分自身が破滅してしまう事については諦めてしまっているように感じる。
今でも破滅と言うゲームの結末に対して何もしていない訳ではないけど、それは全て自分以外の誰かの為。
自分自身は破滅してしまう前提で、その時に周りの人を如何にして守るか。全ての基準がそれになっている気がする。
前世の記憶を取り戻した幼少の頃から今日まで、何とか破滅を回避出来ないかと色々な事をして来たと言ってた。
でも、何をしても王太子との関係は改善される気配すらなくて、その結果として今のような心境になったんだろうという事はわかる。
まだ出会って1年程度の私があれこれ言うのも違うかも知れない。
それでも、だからと言ってセリーナさんが悲しい結末を迎えるのを黙って見ているなんて出来るわけが無い。
私に出来る事は……。
「一度サーシャと話してみようかな……」
私が話したところで何が変わる訳ではないかも知れないけど、何もしないよりはずっといいはず。
そうと決まればサーシャとどうやって話す機会を作るか考えないと。
貴族のサーシャと一介の使用人に過ぎない私は本来なら気安く話せる関係ではないから、なるべくなら人目に付きたくないしなぁ……。
どうしたもんか。
その日の午後。
私は学内をどこに行くでもなくウロウロと歩いていた。
別に不審者になった訳では無い。
朝セリーナさんを学校へと見送った後、いつものようにマリーさんと仕事をしていたんだけど、どうしても昨日の事が頭から離れず、色々と考えてしまった。
それが心ここに在らずに見えたみたいで、仕事の邪魔になるから散歩でもして気分転換して来いと追い出されてしましたのだ。
本当に邪魔だと思ったんじゃなくて、マリーさんの気遣いなんだと思う。きっとたぶん。
ずっと無駄に歩き回っていたので、さすがに少し疲れたなと思って、近場にあったベンチに腰を降ろす。
季節は徐々に夏に近付いていて、暑いというほどではないけど、とてもぽかぽかしていていい陽気だ。
こうやってぼーっとベンチに座っていると、段々と眠くなって……。
「……ミリちゃん?」
「!?」
突然呼び掛けられてビクッとする。
「こんなところでどうしたの?具合悪い?」
声に振り返ると、そこにいたのはサーシャ。
私が具合が悪くて座り込んでいると思ったのか、とても心配そうな顔をしている。
「ううん、大丈夫。散歩してて疲れたから少し休んでただけ……って、サーシャこそどうしたの?学校は?」
「そう?それなら良いけど。今日の授業はもう終わったから、寮に帰るとこだよ」
私の言葉に安心してくれたのか、にっこり笑うサーシャ。うん、最高に可愛い。
ん?待って、授業終わったって?
サーシャの言葉に驚きながらも空を見上げる。
さっきまでは確かにほぼ真上にあったはずの太陽が西に傾いて来ている。
うん、これは完全にやらかしました。
どうやら、私はいつの間にかベンチで居眠りをしていたようだ。
絶対マリーさんに怒られる……。




