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二話

この声は……と思って振り返ると、そこにいたのは街で行き付けになった喫茶店の店員だったサーシャだった。

亜麻色の髪に水色の瞳が綺麗な美少女で、この世界での私の初めての友達でもある。


初めて街に行った時に偶然入ったそのお店で働いていたサーシャとは、歳も同じだったことがありすぐに打ち解けて仲良くなった。

家の都合で急遽お店を辞めることになったと聞いていて寂しく思ってたけど、まさかここに居るなんて……。


「え?うそ、サーシャ?」


驚きのあまり普通に答えてしまったけど、サーシャの服装を見てはっと気が付く。

今のサーシャは貴族学校の制服を着ている。

と言うことは、サーシャは貴族だったと言うことだ。

これはまずい。使用人で平民に過ぎない私が呼び捨てで呼んで良い相手ではない。


「あ!申し訳ございません。大変失礼致しました」


慌てて姿勢を正して深く頭を下げる。

平民が貴族に無礼を働いたら、それだけで罪に問われるのはもちろん、私が使用人である以上はラズウェイ公爵家にまで迷惑がかかるかも……。


せめて私が罪に問われるだけで済んでくれれば。

そう思っていた私にかけられたのは、前と全然変わらないサーシャの声だった。


「もう、やめてよミリちゃん。私達友達なんだから、そんな頭下げられたりしたら悲しくなっちゃうよ」


「いえ、ですが……」


そう言われて少し嬉しかったのは事実だけど、はいそうですかと簡単に頭を上げられる訳もなく……。


「ね?お願いだから、前と同じように接して欲しいの」


そう言いながら、ぎゅっと私の手を握って来る。

そのサーシャの手は、しっかりとした手入れをされて多少はよくなっているけど、やっぱりまだ少し荒れている働き者の手で。

元から貴族だったのか、何か理由があって貴族になったのかはわからないけど、サーシャはサーシャのままなんだなと感じることが出来た。


「うん、わかった」


そう答えながら顔を上げると、サーシャの綺麗な水色の瞳がまっすぐ私を見詰めていた。

嬉しそうに微笑むサーシャはやっぱりものすごい美少女で、同性の私でも思わず見蕩れてしまう。


「まさかここでミリちゃんに会えるなんて思わなかった!

あ、そうか。貴族のお家で働いてるって言ってたもんね!もしかして、そのお家の方の付き添いで来てるの?」


「うん、そう。お仕えしてるお嬢様がご入学されたから、それで私も一緒に」


「そうなんだ!?じゃあ、これからもまた会えるね!

私急にお店辞めないといけなくなって、ミリちゃんに挨拶も出来なかったから……。

でも、まさかここでまた会えるなんて!

すっごく嬉しい!!」


「私もサーシャにまた会えて嬉しいよ」


はぁ、サーシャ可愛い癒される。

しかし、良かったのはここまで。

久しぶりの友達との再会に浮かれていた私の心は、サーシャの後ろから姿を見せた人物によって一気にどん底に落とされることになる。


「サーシャ?友人と再会出来て嬉しいのはわかるが、そろそろ私もいることを思い出して欲しいのだが」


やばい、他にも誰かいたのか。

サーシャに夢中で全然気づかなかった。


サーシャの後ろから姿を現したのは、輝くような美しい金髪に、サーシャと同じ水色の瞳の青年。

こっちもものすごいイケメンで、サーシャと並ぶ様子の絵になること……。ってそうじゃなくて。


「申し訳ございません。大変失礼致しました」


お詫びと共に再び深く頭を下げる。

さっきはサーシャだから大丈夫だったけど、今度は本格的にやばい。


「あ、殿下。申し訳ございません。

この子はミリちゃんていって、私が今のお家に引き取られる前に働いていたお店で出来た大切なお友達なんです。

まさかここで会えるとは思ってなかったから嬉しくなってしまって……」


あ、なるほど。サーシャは何処かの貴族家に引き取られたのか。それでお店辞めたんだぁ……ってちょっと待って。

今殿下って言った!?

っていうことはこのイケメンがセリーナさんの婚約者の王太子?

それと一緒にいるってことはもしかしてサーシャは……。


「なるほどね。それは喜ばしいことだ。

あぁ、君もそんなに畏まらなくていいよ。楽にしてくれ」


ぐるぐると考えていた私にかけられたのは、予想外に穏やかな王太子の声。

セリーナさんの話から相当気難しい人をイメージしてたけど、そうでもないのかな?

それとも、サーシャの前だからそう装ってるのか。


「王太子殿下の御前とは知らず、無礼な振る舞い大変申し訳ございませんでした」


もうここはひたすらに謝り倒す。

私がラズウェイ公爵家の侍女って知られたら、セリーナさんにどんないちゃもん付けられるか……。

サーシャと再会出来たのは嬉しいけど、何とか早くここから離れたい……。

あ、買い物も行かないとだ。


「そんなに畏まらなくていいと言ったろう?

ましてサーシャの友人だと言うなら尚更だ。そんなに頭を下げる必要もないから、顔を上げなさい」


「そうだよミリちゃん。殿下はお優しい方だから大丈夫!」


王太子だけでなく、サーシャにまで言われたのでおずおずと顔を上げる。

でも、王太子が優しい?それはサーシャに対してだからなんじゃ……。


「ところで、君はどちらの家に仕えているのかな?

偶然とは言えサーシャの友人を連れて来てくれたとは、私としてもとてもありがたい話だからね。礼のひとつも言わせて貰いたいんだ」


どんだけサーシャが好きなんだこの王太子は。

あんたにはセリーナさんがいるだろうがと言いたかったけど、王太子に聞かれたら答えない訳にはいかない。

ラズウェイ公爵家の侍女って知られたくなかったんだけどなぁ。


「ラズウェイ公爵家のご息女、セリーナ様にお仕えしております」


「セリーナに……?」


私の答えを聞いた瞬間、王太子の眉間に皺が寄る。

あぁ、やっぱりこうなるか。

それになんだろう?王太子の瞳から一瞬光が消えたような?

何か違和感を感じたけど、さすがに王太子の顔をそんなにジロジロ見る訳にもいかないか。


「そうか……。その、なんだ」


セリーナさんの侍女である私の前で別の女性と仲睦まじくしているのを見られたのが気まずいのか、王太子は何やら言いにくそうにしている。

そりゃそうだよね、反省しろ。


「君は何か嫌な想いをしたりはしていないか?

無理難題を言われたり、虐め……その暴力とか」


は?何言ってんのこいつ。

セリーナさんが私にそんな事する訳ないでしょうが。

私だけじゃなくて使用人みんなにすごく優しい人なのに。


「お気遣いありがとうございます。

セリーナお嬢様は私ども使用人にとても良くしてくださっています。

あのような素晴らしい方にお仕えさせて頂き、日々感謝の思いしかございません」


「え……?そ、そうか……」


わざと「素晴らしい方」の部分を強調して答えた私に王太子は戸惑っている様子。

正直無礼だったなとは思うけど、これくらいは許して欲しい。


「ミリちゃんがお仕えしてるのってラズウェイ公爵令嬢様だったのね!

すごく優しい方でとても大切にして下さってるっていつも言ってたものね!」


あ、サーシャには誰にお仕えしてるかまでは話してなかったんだっけ。

そうよサーシャ。セリーナさんは本当に素晴らしい方なのよ。


「ミリちゃんがそんなにお慕いしてる方なら、私も一度お会いしてみたいなぁ。あ、ところでそう言えば」


何やら考え込んでしまった王太子の代わりに、元気に喋っていたサーシャが何かを思い出しように手をぽんと叩く。


「それならお嬢様にお話してみようかって、ん?どうしたの?」


「あのね、つい嬉しくて話し込んじゃったけど、ここに居たって言うことはミリちゃん何か買い物に来てたんじゃないのかなって」


「あ……」


まずい。完全に忘れてた。


「やば……。お嬢様に頼まれてお使いに来てたんだった」


「あー!やっぱり!?ごめんね私のせいで」


「いやいや、サーシャのせいじゃないから大丈夫だよ」


これは完全にやらかしました。

セリーナさんは怒らないだろうけど、マリーさんのお説教は確定だ……。


「もし公爵令嬢様がお怒りだったら、私のせいにしていいからね?」


「大丈夫よ、ありがとうね。それじゃ私そろそろ行かないと」


「うん!またねミリちゃん!今度もっとゆっくりお話しよう!」


「うん、そうしよ。

それでは殿下、私は失礼させて頂きます」


ずっと考え込んだままの王太子にも一応挨拶する。

嫌いだけど、王太子だからね。


「あ、あぁ。長々と引き止めてしまってすまなかった」


2人に一礼すると、私は早足で買い物に向かった。

王太子の様子が少し気になったけど、マリーさんのお説教を少しでも短くする為に急ぐ方が私には大事だ。

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