一話
貴族学校に来てから数週間が過ぎた。
王太子はずっとヒロインに構いっぱなしらしく、セリーナさんとは全く顔を合わせていないそうだ。
たまに一緒にいるところは見掛けるらしいけど、ヒロインはまだ戸惑ってる様子らしい。
まぁ、王太子でしかも婚約者のいる相手だし、その婚約者のセリーナさんも身近にいるんだから、普通の感覚持ってればそうなるよね。
一方のセリーナさんは、授業には真面目に出てるけど、終わるとすぐに部屋に帰って来る。
そして、ずっとダラダラしている。
貴族学校に来るまでは、毎日のようにある王太子妃教育やらで忙しくしてたから、時間に余裕の出来た今はそれでも仕方ないのかなと思ってたけど、さすがにこれだけ毎日ずっとダラダラしてるのはどうなんだろう……。
「お嬢様、さすがにダラダラし過ぎです。
課題をされるなり、読書や刺繍をされるなり、何かやる事はないんですか?」
どうやらマリーさんも同じ事を考えていたみたいだ。
「えー?授業は真面目に受けてるんだから、部屋にいる時くらいはいいじゃないのよぉ……」
セリーナさんはマリーさんに抗議しつつも、ソファに寝転んだ体を起こす様子はない。
「そう言えば、もう少しでテストもあると聞きましたが?」
セリーナさんの抗議を完全にスルーしてマリーさんが告げる。
テストかぁ、一学期の中間テスト的なやつかな?
「なんでそれ知ってるのよ……。
はぁ……、わかりましたー。勉強すれば良いんでしょー」
完全に不貞腐れながらも机に向かったセリーナさんが、ペンも持ったところでピタッと止まる。
「あ、インク切れてる……。これじゃあ勉強出来ないよね?ね?」
満面の笑みで振り返り、こちらに同意を求めてくるが、マリーさんはそんなことでは折れなかった。
「学内に売っている場所がありましたよね?
そこで買ってくれば良いだけのことです。
ミリ、悪いんだけどお願いしてもいいかしら?」
「え!?
いや、買い物なら自分で行くから!ミリに行かせるなんて可哀想でしょ?」
2人から見詰められるが、私が誰に従うかなんて決まってる。
「わかりました。すぐに行って来ますね」
セリーナさんとは目を合わせないようにしつつ、マリーさんに笑顔で答える。
「裏切り者ぉ……」
何か言われた気がするけど、私には何も聞こえません。
「ありがとうね。私はお嬢様が逃げないように見張っておくから」
何やらセリーナさんが叫んでいたような気もしたけど、私は一礼してさっさと退室する。
セリーナさんごめんなさい。
あそこでマリーさんに逆らうと私の命が危ないんです。
貴族学校は、全ての生活が学内で完結出来るように作られている。
食事は部屋でとりたければ各寮に専属のシェフがいるし、友人同士でワイワイしたければ食堂もある。
学業や生活に何か必要なものがあるなら、それを買うための店舗まで敷地内に設置されているのだ。
それこそ、高級なドレスを買いたいとかでもない限りは、敷地外へ出る必要がない。
各店舗は学内の一角に集められているので、私は今そこに向かっているところ。
普段授業が行われたり、図書室があったりする校舎からは少し離れているので、私のようにお使いを頼まれているであろう使用人の姿がちらほら見えるくらいであまり人気はない。
まぁ、他の貴族家の子息令嬢の姿がないから気楽でいいんだけどね。
別に他の貴族が嫌とかではないけど、私はまだ公爵家以外の貴族と会った回数が少ないからすごく緊張してしまうのだ。
とりあえず、今は周りに姿がないとは言え、出くわさないとも限らないからはやく買い物を済ませてセリーナさんのところに戻らないと。
そう思って少し早足気味に歩いていると……。
「え!?うそ、ミリちゃん!?」
唐突に聞き覚えのある声に呼び掛けられた。




