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四話

怒れるマリーさんをなんとか宥め、身支度を終えたセリーナさんは1人でパーティへと出掛けて行った。


ややキツめの印象を与えがちではあるものの、紫色のドレスに身を包んだセリーナさんは本当に美しかった。

私と同じ16歳のはずだけど、とても大人っぽいし……。

前世は社会人だったらしいから、その辺の人生経験の差が外見にも出てるんだろうか。いや、そんな訳ないか……。


「 はぁ……」


完全に自分の世界に入ってあれこれ考えていたけど、マリーさんの溜め息に現実に引き戻される。

とりあえずの怒りは収まったみたいだけど、全然納得はしてないみたいだ。

まぁ私だってゲームの展開だからどうしようもないって聞いていても納得出来ないし。


「悔しいですよね。お嬢様にとっても大切なパーティなのに」


「そうね……。社交界デビューって言ってもいいこのパーティでこれはあんまりだわ。

お嬢様に何の罪があってこんな扱いをされないといけないのよ……!」


「マリーさん……」


セリーナさんの幼少期からずっと近くにいたマリーさんの悔しさは、きっと私なんかとは比べものにならない。

それでもギリギリのところで堪えてたのは、セリーナさんが何も言わないから。


「お嬢様はずっとずっと努力されてきたわ。

王太子妃としての教育だけじゃない。国の事も考えて色々な施策を提案されたりね。

その辺はミリも聞いてるよね?」


「はい。お嬢様の考案された施策で民の生活もかなり良くなったと聞いています」


セリーナさん本人は、単に自分の心象を良くしたかっただけだから褒められる様なことはしてないって言ってたけど、それで救われた人が大勢いるのは事実だ。


「ええ。王太子妃教育だけでも大変なのにね。

そもそも、あれって並のご令嬢じゃとても耐えられないくらい大変らしいの」


マリーさん曰く。

王太子妃はすなわち未来の王妃、国母だ。

その役割は国内の諸々の行事や儀式全般に渡る。

それらの知識や作法を覚えるのはもちろん、王族として国の成り立ちからなんやらまでの歴史全般の知識も必要。

さらに、それは国内だけにとどまらない。

外交等で来た各国要人の接待も王妃、王太子妃のお役目になる。

そうなれば、交流のある各国の言語の習得は必須になるらしい……。


「そんなに……」


ざっと聞いただけで確信した。

私には絶対無理だ。

て言うか、それだけの勉強を毎日しながら国の為の施策も考えてたとか、セリーナさんのスペックがやばすぎる……。


「お嬢様が素晴らしいお人だって言うのは分かってたつもりだったんですけど、なんかもう思ってた以上に偉大な方だったんだなって……」


心の底からそう思う。

しかも超絶美少女とか完璧超人だ。


「普段のお嬢様からは想像出来ないからね」


屋敷でマリーさんや私といった一部の人にだけ見せてくれるセリーナさんのダラケた姿。

それを思い出しているのか、笑いながら言うマリーさんに釣られて、私も思わず笑ってしまう。


「確かにあのお姿からは想像出来ませんねー」


「でもね」


そこで言葉を切ると、笑っていたマリーさんがすっと真面目な顔付きになる。


「そうやって、お嬢様が心から寛げる場所を守るのが私達の仕事だと思ってるの。

ミリが来てくれてからは、今まで以上によくお笑いになってるし」


「そんな、私なんて全然何も……。

セリーナさんは……。お嬢様は私にとって命の恩人ですから」


これは心の底から思ってる。

あの日、あの森でセリーナさんに助けてもらえていなければ、今私はどうなっていたかわからない。

少なくとも、今みたいに衣食住になんの不自由もなく過ごせてはいなかったんじゃないかな。


だからこそ。


「私達が今やるべき事は決まってますね」


私の言葉にマリーさんも頷く。


「そうね。お嬢様が最悪なパーティからお戻りになった後、最高に寛げて嫌な事は全て忘れることが出来るようにお迎えの準備をしないとね」


まずは湯浴みかな。それから美味しいお茶にお菓子に……。

マリーさんと2人、頷き合うと、それぞれに準備を始める。

大切な主に、今夜も最高にだらけて寛いで貰う為に。



「あ~、疲れた……」


パーティは夕方からだったので、帰りはそれなりに遅いかなと思っていたけど、セリーナさんは比較的早い時間に戻って来た。

理由は私もマリーさんも察してはいるけど、とても口には出来ない。


「お疲れ様でした」


労いの言葉と共に、お茶を差し出す。

帰って来るなり無言でドレスを脱ぎ捨てたセリーナさんは、今はソファの上で絶賛だらけ中。


「いやー、居心地悪いのなんの。

元々不仲は知られてたけどさ、みんなして私の方見ながらヒソヒソしちゃって。

会場内では囁き以外は禁止なのかと思うくらいよ」


やはりと言うかなんと言うか、王太子がエスコートしなかったことについて周りからコソコソと言われたらしい。


「お相手の令嬢も可哀想だったわよ。そこら中から睨まれてたし、ものすごく居心地悪そうだったわね。

王太子のエスコートにもかなり戸惑ってる感じだったし」


「王太子殿下にも困ったものですね」


にこやかに答えているマリーさんではあるけど、絶対怒ってるなぁ、あれ。


「本当にね。さて、今日はもう休むからマリーは下がっていいわよ。

あ、ミリは少し残ってね」


「かしこまりました。それではお嬢様、おやすみなさいませ」


一礼して下がって行くマリーさんを見送っていると、セリーナさんから手招きをされて隣に座るように促される。


「お相手の令嬢ってのはヒロインね。

すごい可愛かったわよ」


私が座るや否や、セリーナさんが口を開く。


「王太子殿下とパーティに参加したって事は、もうそのヒロインと王太子殿下は良い感じなんですか?」


乙女ゲームの詳しい流れまでは私は把握してない。

入学式直後だから早すぎる気もするけど、一緒にパーティに参加するくらいだから、もしかしたらと思って聞いてみたけど。


「いえ、それはまだね。今日も戸惑ってる感じだったし、ゲームでもそうだからね。

まぁ、今日のパーティがきっかけで親しくなっていくのは間違いないんだけど」


とりあえずはまだ大丈夫ということで一安心。

まぁ、さっさとくっ付いてもらってセリーナさんを解放して欲しいとも思うけど。


「前にも言ったけど、私は虐めたり邪魔するつもりはないから、これから順調に仲良くなるんじゃない?

それで、円満に婚約解消出来れば万々歳よ」


そう上手く行くかは何とも言えないけどねぇと言いながら、ソファから立ち上がりベッドへと向かって行くセリーナさん。


「よし、それじゃ寝るから、ミリも休んでね。

今日もお疲れ様。おやすみ!」


「はい、おやすみなさいませ」


部屋の灯りを消し、一礼して退室する。


セリーナさんも婚約解消を望んでるから、今更王太子と上手くいって欲しいとは思わない。

会った事はないけど王太子嫌いだし。


ただ、婚約解消をするにしても、セリーナさんが断罪されたり傷付いたりするのは絶対に嫌だ。

私に何か出来ることはないんだろうか。

自室でベッドに入っても、ずっとそのことを考えていた。

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