五話
そんなやり取りをしつつ、屋敷の敷地を出て市街地に向かう。
王都は、王城を中心に貴族や富裕層が暮らす貴族街とも言うべき第一区。
そして、庶民が暮らす、一般的に市街地と呼ばれている第二区とに分かれている。
基本的に王城に近いほど豊かで治安が良く、遠くなるほどその逆と言う訳だ。
実際、王都の端の方に行くとスラム街のような場所もある。
という説明を、マリーさん、ジャックさんから受けつつ第一区を歩いていると、ラズウェイ公爵家以外の貴族の屋敷が目に入って来る。
もちろん、どの屋敷も立派ではあるけど、公爵家の屋敷ほどのものは見当たらない。
さすが公爵家という感じ。玄関出てから門の外まで10分くらいかかるもんな……。
そして、建ち並ぶ屋敷を眺めつつ第一区を抜けると、その先が今日の目的地である第二区だ。
普段なら馬車を使うらしいが、私の市街地見学も兼ねているので、今回は徒歩で向かっている。
馬車の中からでも市街地見学が出来ない訳ではないが、やっぱり自分の足で歩いて空気を感じてみたいし。
王都は第二区でもスラム街に近付かない限りは治安が悪いということはない。
それでも念の為ということでジャックさんが護衛を買って出てくれたそうだ。
「ほら、ここを抜ければ第二区だ。
大丈夫だとは思うが、離れるなよ?」
第一区と第二区を隔てる門を抜けると、一気に景色が変わった。
第一区は貴族の邸宅が建ち並ぶだけあって、閑静な街並みだったが、さすがは王都の市街地と言うべきか。
きちんと舗装された道路の両側には多くの商店が並び、それらの商店へ荷物を届ける荷馬車がひっきりなしに行き交う。
道路の端にはきちんと歩道が設けられており、そこを歩く人々の表情も明るい。
「わぁ、やっぱり活気ありますねー!」
「今の国王陛下は名君と名高いからな。
王都は年々どんどん発展してる」
そう言うジャックさんの表情はどこか誇らしげ。
国王陛下のことを尊敬しているのが伝わって来る……が。
「お嬢様が提案された色々な施策も貢献してるはずなんだけどね……」
一方のマリーさんの表情は悲しげだ。
セリーナさんが考えた施策は国王陛下にこそ評価されているものの、何故か王太子殿下には逆に嫌われる結果になっていることを思い出しているんだと思う。
「お嬢様のことは、俺らがきちんと分かってればいいんだよ。
あんなクソ王太子なんか知ったこっちゃない」
「その通りではあるけど、あまり滅多なことは言うものじゃないわよ?
どこで誰が聞いてるかわからないんだから」
誰かに聞かれたら不敬罪は確実だろうジャックさんの言葉に、慌てて当たりを見渡す。
幸い?なことに、市街地の喧騒に紛れて誰にも聞き咎められることはなかったみたいだ。
「悔しいですよね。セリーナさんがせっかく頑張った成果なのに、それをわかってもらえないって」
まだ出会ってそんなに経っていないけど、セリーナさんの人柄はわかっているつもり。
何より、私にとっては恩人でもある。
そんな人が不当な評価をされているのは、やっぱり悔しい。
私でさえそうなのだから、もっと長くセリーナさんに仕えているマリーさんやジャックさんはもっと悔しいだろう。
もちろんセリーナさん本人も。
「そうね。お嬢様のお気持ちを考えるとね……」
そう呟いたきり、マリーさんも黙り込んでしまい、何となく重たい空気が流れる。
「まぁ、ここで俺らがうだうだ悩んでも仕方ない!
ほら、さっさとお嬢様に頼まれた買い物済ませちまおうぜ?
ミリの服も買うんだろ?」
雰囲気を変えるように、ジャックさんが明るく声をかけてくれる。
何とかしたいと思う問題ではあるけど、今ここで悩んですぐにどうにか出来ることでもないだろうし。
まずは今やるべきことをやらないとね!
「セリーナさんの買い物って何を頼まれたんですか?」
今更だけど、買い物を頼まれたってことで出掛けてるのに、何を頼まれたのか聞いてないことに気が付いた。
どうやら、外出することに思っていた以上に浮かれてたみたい。
「今日は本ねー。お嬢様が贔屓にしてる作家の新作が出たとかで」
「あー、あれか。お嬢様お気に入りのロマンス小説ってやつか」
前世ではゲーマーであり、ラノベも大好きだったと語るセリーナさん。
今世でもその趣味は継続中のようだ。
「そ。あまり貴族向けのものではないけど、お嬢様が楽しめるんならそれで良いのよ」
この世界の貴族が一般的に読む本は、難しい哲学書とか伝記とかが多いらしい。
セリーナさんくらいの年代のご令嬢だと、詩集とか……。
うーん、確かにそういった物を読むセリーナさんは想像出来ないかも。もちろん、私も無理だ。
本日ご所望のロマンス小説は、もっぱら庶民向けで貴族が読むことは滅多にないらしい。
セリーナさんは、そんなことお構いなしに自ら足を運んで買い漁っているらしいが、今日はどうしても予定が合わなかったとのことでマリーさんに頼んだそうだ。
「セリーナさん忙しいですもんね」
「まぁ、未来の王太子妃だもんなー。
あの王太子にはもったいないけど」
よっぽど王太子殿下が嫌いらしく、またまた毒づくジャックさんに、私とマリーさんは苦笑いするしかない。
そんなやり取りをしてる間に、お目当ての本屋に到着。
お目当ての本は人気作らしく、店内の一番目立つ場所に陳列されていたので、探すことなく買うことが出来た。
頼まれた本はあっさり買うことが出来て、ここまでは順調だった。
そう、ここまでは……。




