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六話

「もう、勘弁してください……」


疲れ切って助けを求めるが、それに応じてくれる人はいない。

ジャックさんに助けてもらおうと姿を探すも、身の危険を感じたのだろうか。

早々に退散しており、見渡す範囲にその姿はない。

一体何のための護衛なのよっ!!


そんな八つ当たり気味の怒りを押し殺しつつ、この事態の元凶に目を向ける。


「なーに言ってるの!まだまだよ!

ほら、これも着てみて?」


そこにいるのは、可愛らしい服を手に持ったままニコニコとしているマリーさん。


その背後、そして私の周りには数え切れないほどの服と、満面の営業スマイルを浮かべた店員の皆さん。

よくよく見てみると、いつの間にか完全に包囲されていて逃げ場がなくなっている。


「私なんかの服をそんな頑張って選ばなくても……」


何とか慈悲を求めようと、マリーさんに懇願する。が、当然それは無視される。

もう1時間以上はずっと取っかえ引っ変え試着させられているので、どの服を試着してどれをしてないのかすらわからなくなって来た。


「ミリはせっかく魅力的な女の子なんだから!

もっと魅力を引き出してくれる服を着なきゃ!」


いや、私にそんな魅力なんてありません……。

私の心の叫びは誰にも届くことはなく、マリーさんが満足するまで服選びは続いた。


「帰る前にどこかでお茶でもして行かないか」


永遠に続くかとも思えた試着祭りからようやく解放され、ぐったりしている私にジャックさんが告げる。

お茶出来るのは嬉しいけど、1人で逃げたことは許さない。


「……あ、ほら、あの店とかどうだ?」


ジト目で睨んでる私に気付かないフリをしつつジャックさんが指したのは、こじんまりとした雰囲気のカフェだった。

あ、この店の雰囲気……。


「ジャックにしてはいいお店見つけたじゃない。」


さっそく店内に入り、席に着くと辺りを見渡しながらマリーさんが言う。


いくつかのテーブル席とカウンターのみのその小さなカフェは、こじんまりとした雰囲気ながら、センスの良い調度品がさりげなく置かれ、清掃も行き届いていてとても落ち着ける。

それに何より。


「懐かしいな、この感じ」


私が日本に居た時に働いていたお店もこんな雰囲気のお店だった。

カウンターの中にはいつも物静かな店長が居て。

店長元気にしてるかな……。

店長だけじゃない、それに……。


「ん?ミリ、何か思い出した?」


マリーさんの声に現実に引き戻される。

あ、そうだ。私記憶喪失ってことになってるんだ。


「いえ、そういう訳ではないんですけど。

でも、何だかこのお店の雰囲気が懐かしいような気がするんです」


「そっか……」


あぁ、マリーさんもジャックさんも心配そうに見てる……。

まずい、空気変えないと……。


「あ!いらっしゃいませ!ごめんなさい遅くなって!」


重くなりかけた空気に、私が1人で慌ててると店内に元気な声が響いた。


そちらに目をやると、エプロンを着た女の子がお店の奥から出て来ているところだった。


年齢は私と同じくらいだろうか。

亜麻色の髪に水色の瞳。

そして何より、めちゃくちゃ可愛い。


この世界に来て出会った中で1番の美少女はセリーナさんだったけど、この子はそれといい勝負かも。


セリーナさんが、キリッとした雰囲気の華やかな美少女なのに対し、この子は穏やかに包み込んでくれるような、そんな感じがする。


「ご注文は何になさいますか?今なら季節の紅茶がおすすめですよ!」


「では、それを。ミリも同じものでいい?」


にっこり微笑む店員さんに見とれていると、代わりにマリーさんが返事をしてくれた。


「あ、はい!ジャックさんはどうしますか……ってあれ?どうしたんですか?」


ジャックさんに目をやると、足を抑えて呻いている。

どうしたんだろう?


「おま……脛はダメだろ……。

あ、俺もそれで!」


何やらブツブツ言ってた思ったら、突然元気よく注文したジャックさんだが、何故か涙目だ。

店員さんの可愛さに感動でもしたのかな。よくわからん。






と、まあそんなこんながありつつ月日はあっという間に巡り、この世界に来てから数ヶ月が過ぎた。


侍女の仕事にも少しずつではあるけど確実に慣れて来て、いよいよ来月からに迫ったセリーナさんの貴族学校への入学にもお付きとして一緒に行っても大丈夫と、マリーさんからお墨付きも貰えた。


そんな中、私は休日を利用していつものカフェに来ている。

初めてマリーさん達と市街地に出かけた時に偶然立ち寄ったお店だけど、その雰囲気がすっかり気に入ってしまい、今では休日はほぼ毎回来ている。

店員の女の子、サーシャともすっかり仲良しになって、今では友達だ。


「こんにちは!」


挨拶をしながら店内に入ると、これまたすっかり顔馴染みになった店長さんが笑顔で迎えてくれた。


「いらっしゃいミリちゃん。いつものでいいかい?」


「はい!」


今日もいつものように、お気に入りのこのお店オリジナルの紅茶を頂く。

何か特別なことをしているのか、店長さんは企業秘密と言って教えてはくれないけど、どこか懐かしくて優しい味がするこの紅茶が大好きだ。


「あれ?今日はサーシャは休みですか?」


いつもなら私が来るとすぐに顔を出すサーシャの姿が見えない。

だから、てっきり休みなのかなと思って店長さんに聞いてみたんだけど。


「……あぁ。サーシャはね。お店を辞めてしまったんだよ」


「えぇ!?」


寂しそうに言う店長さんの言葉にびっくりする。

先日お店に来た時は何も言ってなかったし、そんな様子は全くなかったのに……。


「何でも家の都合で急遽ということでね。ミリちゃんに最後挨拶出来ないのが申し訳ないって言ってたよ」


「そうなんですね……」


せっかく出来た友達と突然のお別れは寂しいけど、家の都合なら仕方ないのかな……。


「王都を離れる訳ではないみたいだから、またきっと会えるよ」


私が明らかに落ち込んでるのがわかったのか、店長さんが慰めてくれる。


「王都にはいるんですね!じゃあ、きっとまた会えるって信じます」


私自身も来月からはセリーナさんやマリーさんと一緒に貴族学校の寮に入ってしまうけど、それも王都の中だ。

サーシャも王都にいるなら、きっとまた会えるはず。

と、そうだ。このことも店長さんに伝えておかないとな。


お店に来られなくなることはないと思うけど、今ほどは無理だろうし。


「……と、言う訳なんです」


「ほお、お嬢様のお付きで貴族学校の寮にね。

それは名誉な事じゃないか。よっぽど信用されてないと選ばれないだろうしね」


「選んで頂いたのはありがたいですけど、まだまだ下っ端なんで、そこまで信用されてるかは何とも……」


謙遜ではなく、実際そう思う。

セリーナさんの前世と同じ日本人という部分もあって選んでくれただけだろうって。

仕事はマリーさんはもちろん、他の先輩方にもとても敵わないし。


「これから数年間はお嬢様の近くにはミリちゃん達しか居なくなるわけだろう?

その役目に信用されてない人を選ぶことはないと思うよ。だから、自信を持って頑張って来なさい。

もし疲れたりしたら、いつでもここに来れば良いから」


穏やかに微笑みながらそう言ってくれる店長さんの言葉に、何だか頑張れそうな気がした。

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