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にゅーすぺーぱー


「私が浅はかでした……」


 モニカが悲痛な面持ちで言った。あたしをはさんで彼女とラナが両隣に座っている。ラナは両腕を組んでイライラした顔で見てくる。ニーナはたぶん寝室に逃げた……。


「私は自分が魔族なのもありますから……実は……学園ではマオ様にはできるだけ近づかない方がいいかと思っていました」


 ! そんなことないよ。そんな気持ちがあったなんて……。


「でも!」


 あたしがなんか言う前にモニカがずいっと前に出てくる。


「2日で連続して爆破事件をマオ様が起こすなんて流石に想像できませんでした! 最初にそれを知った時は頭の中が真っ白になって……なんでね? って口走ってました……あ、いやそれはどうでもいいのですが」


 なまり口調を少し恥ずかしそうにするモニカ。


「で、でもさ! あたしはモニカと一緒にいたいからそんなこと気にしなくていいよ。ぜんぜん」

「マオ様……」


 あいたっ。頭をぽんと叩かれた。ラナだ。


「それはそれ、あんたの噂とは別」


 うう、話を引き戻された……。


「とりあえずあんたの話では工房に着いた瞬間に工房自体がゴーレムとかいうのに壊されたって話だけど、結局工房破壊したのもゴーレムとかいうのをぶっこわしのもあんたってことになっているみたいね……あーーー」


 ラナが頭を両手で抑える。キッと見てくる。


「そういうのをマオは全然気にしないから今言っておくけどね! 人の噂なんてだいたい尾ひれとか尻尾とかがついているものなのよ。本当のことなんて基本どーでもいいの、おもしろおかしく言われ始めるとだんだん孤立するもんなの! それなのにあんたわー!」


 あたしの両肩を掴んでおもいっきり揺さぶってくる。ああーー。頭が全力で振られる。


「それにマオ様はゲオルグ先生を殴って喧嘩したり……リリス先生の借金を増やしたりしたって話も……」


 は? なにそれ。で、でたらめじゃん!


「そんなことしてないよ!」

「……そ、そうですよね。ほっとしました」

「モニカも少しやってそうって思ってたの!?」

「い、いえいえいえいえいえ」


 両手を前に出して首を振るモニカ。彼女は懐をごそごそと触って、一枚の紙を出した。それは少し大き目で分厚いものだった。表面には絵と文字がびっしりと書き込まれている。


『話題のFFランクのマオがまたやった!?


 数週間前に山奥からやってきた村娘マオがまたやった。王都を騒がすのは何回目だろうか……魔法陣の権威であるゲオルグ・フォン・ウォード氏をぶん殴ったのだ! ことの発端はこうだ。フェリックス学園の授業に出たマオはゲオルグ氏と口論になり、つかみ合いの喧嘩が勃発した。曰く、魔族をどうするのかという話題で意見が合わなかったというのだ。最終的に魔法での打ち合いにまでなり教室ごと炎の魔法により爆発! すさまじい勢いで教室すら吹き飛ばされることとなったのだ。


それが起こったのは昨日のことだが、今日もっと衝撃的な話題が飛び込んできた。フェリックス学園のマスターであるリリス・ガイコ氏の工房が鉄で作られた魔人に叩き壊され爆破されたというのだ。今確認中だがこれもマオがかかわっているという……リリス・ガイコ氏の「借金がぁあいつのせいでー」と泣きわめく姿を多くの人が見ているという』


 記事の下の方に高笑いする女の子と激昂する男の絵が描いてある。その横で泣き叫ぶ女の人もいる。た、たぶんこれあたしとゲオルグ先生とあとリリス先生だ。あたしはそれを見ながらわなわなと震えた。


「モニカ、な、なにこれ?」

「……お、王都のどこかで発行されているにゅ、ニュースペーパーです」

「にゅーすぺーぱー?」


 なにそれ! こんなのでたらめじゃん! ま、まあ少しほんとのことも書いてあるけど、でもラナの言う通り尾ひれつきまくりだよ! あたしは紙をばんと机に叩きつけた!


 ど、どういえばいいんだろう。確かにこれは困る。というかこんなのを書いた奴に文句を言ってやる!


「モニカ! これを作った人のところに行ってくる。どこにいるの!?」

「わ、わかりません」

「わからない……?」

「王都で起こる事件をおもしろおかしく書いたこのニュースペーパーは去年くらいから現れて……王都のお店で売ってあるのですが、誰が書いているのかわからないんです」

「お店って」

「いろんな普通の食料とか売っているお店とか出店とかに銅貨10 枚くらいで売ってます。あとギルドにも置いています」

「安! だ、だってさ。写本とかすごく大変でしょ? それに紙だって高いはずだし……こんなに文字とか書くなら」

「えっと、多分……ですが、魔鉱石による活版印刷をつかっていると思われます……。あと紙も安くなっていて。たぶん王都全域で数百枚くらいは出回っていると思われます」

「かっぱんいんさつ?」


 新しい技術なんだろうか、あたしの魔王だった時代は本と言えば高価だった。一冊一冊書き写すのが大変だったし。同じ本でもちょくちょく書き間違いとかがあったこともある。まあ、それはいいや!


「どっちにしてもこれをこのままにはできないよ。誤解されそうだし……」

「マオ様……実は……ですね」

「何?」

「言ってなかったんですが……Fランクの依頼を行っている時くらいからマオ様の『活躍記事」が出るようになって知らず知らずのうちにマオ様はもう、その有名人というか……」

「これが最初じゃないの!?」

「王都では結構……その、あの、マオ様の記事を待っている人が結構いてですね……あの、工事の仕事をしていた時も職人さんたちが笑って話してました……絵が描いてあるから、誰かが文字を読める人がいたら結構楽しんでる人もいて。Fランク依頼の小話みたいな感じで……ご、ごめんなさい。私も皆さんに読んで差し上げたことが何度かあります……」

「う、うう」


 ぜ、全然知らなかった。というかもしかしたらこれを書いてるやつがどこからか見ているってこと? そう考えるとむかむかしてきた。あたしは玄関まで走っていってばーんと開ける。夜の暗い道に視線を走らせる。誰もいない。


 はあ、そりゃあいないよね。まあもう気にしても仕方がない。とぼとぼ家の中に戻る。


 そういえば前にラナが水路の事件の時、ニュースペーパーを読んで怒っていた気がする。


「とりあえずこれ以上目立つのを抑えることよね。ああ、別に業績とかで目立つのはいいのよ。悪目立ちしないようにするべきね」 


 ラナがニュースペーパーを眺めながら言う。はあとあきれたような顔をしている。


「でも、あんたが目立つのはもう運命かもね……。明日はウルバン先生の武器の扱いに関する授業に出るんだっけ? ……魔銃を持っていくのやめておきなさいよ……ああ、いやでも、あんたわけわかんないことでトラブルに巻き込まれるから持ってた方がいいといえばそう。わからないように持って行った方がいいような、ああどうすればいいのかしら」


 魔銃は結構目立つから……。いや、その瞬間仮面の男との戦いと「イオス」のことが頭によぎる。何となく考えるのを後回しにしてしまったのだけど、魔銃を持つのをなんとなくやめてたのはある。どちらにせよあいつに聞くことはいっぱいありそうな気がする。


「安心してください。ラナ様。マオ様」


 モニカが言った。いや、立ち上がった。目には炎が燃えるような光がある。ど、どうしたの?


「明日のウルバン先生との授業は私も受ける予定でした」

「そうなんだ! じゃあ一緒じゃん。やった」

「……やった……?」


 モニカは少し呆けて、ちょっと嬉しそうな顔をしてすぐに頭を振る。


「いえ! 今回はマオ様には負けません! この授業では私が一番目立ちます! 安心してください」


 ……は、話が少し変な方向に転がり始めた気がする。



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