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未来の話は食卓にて


 疲れた……


 夕日に照らされる帰り道を歩いている。今日はいろんなことがあってどっと疲れた。あーそれにおなか減った……お風呂も入りたいし、眠りたい。


 ぐぅっとおなかが鳴る。隣にいるニーナがふっと笑った。


「明日は何があるんだろうな……」


 そして遠くを見るような眼をしている。それ! 今日の朝もやったよね!


「き、きっと明日は普通だよ、ふつー!」

「そうかな……お前といると予測不能なことがおこるから……」


 王都の道は石造り。かつかつ歩くたびに音が鳴る。夜に近づいているけど、道を歩く人は多い。


 帰り道ってさどこからかいいにおいがしてくる。そろそろ食事を出すお店がお肉をじゅーって焼いたりする音もする。それはあたしが見たこともないどこかの料理をつくったりしているんだろうな……。


 ……あーやめよう! おなかが減る。今はお金もないし。


「あ、マオとニーナじゃん」


 振り向くと赤い髪の女の子が紙袋を手に立っていた。ラナだ。紙袋からはイモの頭が少しだけ見えている。ラナはいつものフェリックス学園の制服じゃなくて、白いブラウスを着ている。


「なに? あんたたちも今帰り? ちょうどよかったね」

「……今日も大変だった」

「あはは、ニーナが疲れている顔をしているわね…………あ? 大変だった?」


 じろりとラナがあたしを見てくる。びくっ。


「何かしたのあんた?」

「な、なにもしてないよ」


 じとーっとラナが見てくる。別に嘘はついてないもん。あたしは何もしてない。むしろなんかいろいろしたのはリリス先生だ。た、たしかにゴーレムを爆破したけどあれは不可抗力だよ。仕方ない。うん!


「ま、いいわ。流石に初日みたいに教室を爆破するようなことはないでしょ」


 ゴーレムは爆破したけどね。言わないけど。


 ラナはそんなあたしの背中を押した。


「とりあえず帰って夕食を作るわよ。あ、ニーナも手伝ってくれるなら食べていっていいわ。どうする?」


 ニーナが少し迷っているような顔をしたからあたしが言った。


「ニーナも一緒に帰ろう?」

「そうそう、寝るときはてきとうに部屋のどっかに場所くらいあるから。なんならマオを床に寝かせたっていいし」

「ひどい!」


 抗議しようとしてもあたしの頭にラナが手を当ててぐいっと笑いながら押してくる。それを見てニーナもくすりとした。


「……ああ。それじゃあ」


 あ、いつの間にか暗くなってきた。3人で帰ろう。


 ☆


 家に帰るととりあえず台所に行く。


 ラナが水の魔法で軽く掃除して、その間にニーナと一緒に制服の上着を脱いでくる。ベッドの上にとりあえず脱いで腕まくりをした。そして台所に行く。おなかは減ったけど、ラナの料理を楽しみにすれば耐えられる。


「ラナ。今日何作るの?」

「ん? 簡単のよ。そうだ……マオとニーナはこれの皮をむいて」


 ラナが袋から出したのは見たこともない野菜……かな。なんかぱりぱりの皮をつけた丸いもの。


「なにこれ?」

「オニオーンよ」

「なにそれ?」

「まあまあ、とりあえず皮をむいてくれたらいいわ」


 ラナはかまどに火をつける。ふんふーんと鼻歌を唄いながら無詠唱で火の魔法を普通に使っているけど、ラナの魔法の能力はやっぱり高い。


 まあ、とりあえずこのオニオーンとかいうのの皮を剥こう! ぱりぱりー、っとはがしていく。簡単に……ひぐ……皮が……ひぐ……なんにも悲しくないのに涙があふれてくる。


「お、お前なんで泣いているんだ!?」


 ニーナぁ、なんであたし泣いているの? これの皮を剥いてってラナが……。


「なんだこれ」

「おにおーん」

「なんだそれ」


 同じこと言ってる……。ああ、涙が止まらないんだけど……。ニーナも皮を剥き始めた、するとだんだんと泣き顔になっていく。


「なんだ……これ……」


 ニーナが手で目元をこする。


「目が!」


 そのままニーナが顔をそむける。わかった!! この野菜……なんか泣くような魔法がかかっているんだ。……ラナ! 


 振り向くとラナが両手を口もとにあててくくくと笑っている。


「あはは。あんたら……めっちゃ泣いてる……」


 おなかを抑えて笑うラナ。あたしとニーナは顔を見合わせてそれから二人でオニオーンを手に持つ。


「ちょ、あんたら! それをもって追いかけてくるんじゃないわよ!」


「わー、悪かった! 悪かったってば。ああ」


「ひぐ、うわーん。目が痛い!マオあんた、覚えておきなさいよ!」


☆☆


 オニオーンとお肉をフライパンで油と調味料で混ぜ合わせるとじゅーといいにおいがしてくる。ラナがそれを3人それぞれの皿に分けてくれる。3人で食卓に座る。あと、朝に残したパンもある。


「まー、本当に簡単なものだけどね」


 オニオーンをフォークで食べてみるとシャキシャキしておいしい。お肉もおいしい……ああ、幸せ。


「マオ。あんたさ。おいしそうに食べるわよね。ほんと」

「ラナの料理おいしいからね」

「はっ」


 ラナは鼻で笑ったけど、そっぽを向いて少し笑っている。照れてるときこういう風にするってわかってる。


「まあ、ラナはいろんなことができるな」


 ニーナもほめる。ラナがあきれたような顔をしてみてくる。


「大したことしてないのにほめても意味ないわよ。……そんなのいいからさっさと食べてお風呂にでも入ってきなさい」

「お母さんみたい」

「ああ?」


 あたしの言葉にラナがぎろりと睨みつけてくる。な、なんにも言ってないよ。あたしはパンを食べながら目を背ける。……ううじーとみてくる。なんか話題を探そう。


「それにしてもさ、このオニオーンとかいう野菜ってへんてこだよね。泣きたくなるなんてさ」

「……王都では結構流通しているけど、地方にはないかもね。これ、もともと海の向こうから誰かが持ってきたって話らしいから」

「海の向こう?」

「そう、すごく遠く。広い土地が広がっているって話だけど、本当かしらね」

「そうなんだ」


 確かにあたしの時代にはこんなのなかった。ラナは話を続ける。


「なんでも昔Sランクの冒険者が海を渡って持ってきたって話よ。海の向こうは竜の住処っていうくらい怖い場所だって言われているけど、そんなところにもすすんで行って野菜持って帰ってくるのもどうなのかって思わないでもないけど」

「ふーん」


 お肉とオニオーンを絡めて食べる。おいしい。


 海は広い。この世界の果ては水がまっかさまに落ちていく崖になっているっていうけどどうなんだろう。そう考えれば――


「でもさ、本当に海の向こうに行った人がいるなら会ってみたいかも」

「会えばいいじゃない」

「そ、そんな簡単に」

「簡単も何も明日会うでしょ」

「え?」

 

 ラナはパンを食べながら言う。


「だから、あんたの受けた授業のウルバン先生がその冒険者のひとりよ。歳を取った先生だけど、昔は『剣聖』なんて言われていたらしいわ」


 そうなんだ! じゃあちょっと楽しみかも。


 そんなことをおもっているとドンドンドンとドアを叩く音がした。ラナとあたしが顔を見合わせる。ニーナも訝し気だ。だってもう結構遅い。


「マオ様! マオ様いますか!?」


 あ! これはモニカだ。あたしははいはーいと言いながらドアを開けると、はあはあと息を切らせたワインレッドの髪の少女が入ってくる。魔族である彼女が肩で息をするほど走ってきたとすれば相当なことがあったはずだ。


「どうしたのモニカ! 何かあったの?」


 モニカはあたしを見ていう。両手を掴まれた。


「ま、マオ様……あ、あの。先生の工房を爆破したって本当ですか!?」


 その瞬間だった。ラナが後ろで立ち上がった音がした。からんからーんとフォークだと思うけど床に落ちた音がした。ああ、やばい。本気で怒っている。


「ラナ! ご、誤解だよ」

「初日は教室で2日目は工房~?」


 かつかつと近づいてくるラナ。モニカはえっ?えっ?と困惑している。


 肩が掴まれた!


「私は、おとなしくしてなさいって言ったわよね!?」


 ひ、ひえぇ。ニーナ助け――いないし!!




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