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影森ゆらは今日も死ぬ ――死後も無理やり働かされます  作者: 勇者ヨシ君
第二章 花嫁候補とか、聞いてない(春~夏)

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配信35回目 AIスピーカーが答えを知っている

 私は、今日もクズイケメンといつもの超低賃金・重労働バイトだ。


そんなある日、夜見(よみ)よろず相談事務所の棚の上に、見慣れないものが鎮座(ちんざ)していた。


 丸くて白くて、()()()()()()()()()と書いてある小箱。リビングに置くやつだ。いかにも家電量販店の特売コーナーにありそうな、どこにでもある機械。


「とうとう来ましたよコレ! 配信アシスト用に買ってきました!」


 真琴(まこと)さんがリモート画面の向こうで満面の笑みを見せた。親指を立てている。


「視聴者のコメントを読み上げてくれるんです! 天気とかレシピも調べられますし、BGMも流せますよ!」


 夜見(よみ)朔夜(さくや)は机の前に座ったまま、スピーカーの方をちらと見た。何も言わない。ただ視線を向けるだけで「余計なことをした」という圧が出るのはどうなっているのか。


朔夜(さくや)、許可したの?」


「求めていません!」


 朔夜が答える前に、真琴(まこと)さんが元気よく即答した。(きも)()わっていることか。あの守銭奴が、こんな浪費を許すはずがない。


 ぬいが棚の端からのそりと顔を出して、スピーカーをまじまじと眺めた。そして、話しかけた。


「おぬし、何者じゃ」


 沈黙。


「聞こえとるか? おぬし?」


 スピーカーが、ぴ、と短く鳴った。


「ご相談内容(そうだんないよう)(うけたまわ)ります。保全申請(ほぜんしんせい)でしたら担当窓口(たんとうまどぐち)へおつなぎします」


 全員が止まった。


 私はゆっくり真琴(まこと)さんを見た。


「設定……ミスってる?」


「し、してません!! そんな設定ないです!!」


―――――


 ぬいが尻尾(しっぽ)をぶわっと立てて、スピーカーに詰め寄った。


「わしを窓口送りにする気か! 何者じゃ、答えろ!」


霊体識別番号れいたいしきべつばんごう:未登録(とうろく)分類(ぶんるい):非登録式神(とうろくしきがみ)保全適用外(ほぜんてきようがい)


「式神言うな! わしは精霊(せいれい)じゃ!」


「ご登録(とうろく)担当窓口(たんとうまどぐち)まで」


「窓口が何処(どこ)にあるか言え!」


「お近くの担当者(たんとうしゃ)がご案内します」


「担当者とはどこの誰じゃ!!」


 完全に()み合っていない。私はそのやりとりを眺めながら、じわじわと笑いそうになるのをこらえた。朔夜(さくや)(ほお)に手を当てて、遠い目をしている。


「ぬい、もういいって」私が言う。


「まだじゃ! こいつに謝らせてから終わりにする!」


「謝る機能はたぶんない」


「じゃあ壊す」


「待って」


 私は気を取り直して、スピーカーに話しかけてみた。


「今日の天気は?」


仮保全(かりほぜん)段階(だんかい)の確認が完了しています。正式取得(しゅとく)のご案内を――」


「天気を聞いてるんだけど」


候補登録(こうほとうろく)を確認しました。影森(かげもり)ゆら様の、現在の――」


 ぬいが反射的に飛びかかって口を(ふさ)いだ。


「名前を呼ばせるな!」


「なんで!?」


「こういうのは名前から本体に(つな)ぐんじゃ! 経路(けいろ)を作るんじゃ!」



 朔夜(さくや)が静かに立ち上がった。


「……話が変わった」


―――――


 さっきまでの空気じゃなくなった。


向こう側(むこうがわ)経路(けいろ)を見つけて、音声応答(おんせいおうとう)媒体(ばいたい)にした。名前を引き出して本体へ(つな)ぐ仕組みだ」


「つまり……最初から蒐集(しゅうしゅう)の機械ってこと?」


「違う。ただの量販品だ。ただし、やつらに使われた」


「どこから入って……もしかして、真琴(まこと)さんがオンラインで設定した時に?」


経路(けいろ)()()だろうな」


 ぬいがスピーカーから距離を取った。


「コードを抜けば終わりじゃないか?」


「俺がやる」


 朔夜(さくや)が一歩踏み出したのと、私が手を伸ばしたのは、ほぼ同時だった。


 早い方がいい、と思ったのは本当だ。それが盛大(せいだい)な判断(あやま)りだった。


 コードに触れた瞬間(しゅんかん)、青白い光が走った。


「あっ――」


 声はそこまでだった。


 体が後ろへ()ねた。脚がもつれた。椅子の脚に引っかかって、背中から床に叩きつけられた。スカートが盛大(せいだい)にめくれた。


 ごん、と後頭部が床を叩く音。


 天井の汚れたシミが、ゆっくりと視界に映った。


「…………」


 死んだ。また、死んだ。

 しかも今回は格別(かくべつ)にみっともない倒れ方をした気がする。


―――――


 目を開けたら、また天井だった。


 ぬいが胸元に乗っていた。蘇生(そせい)後の、体の重さ。


「生きとるか」


「……生きてる」


 体を起こした。朔夜(さくや)が椅子に座って、こちらを見ていた。


 ふと、さっきのことを思い出した。倒れた瞬間(しゅんかん)の、あの感触を。


 私はゆっくり朔夜(さくや)を見た。


「……見ただろ」


「何を」


 とぼけた顔で言った。とぼけた顔が(さま)になっているのがまた腹立たしい。


「とぼけるな。さっき倒れた時、見ただろ!」


「スピーカーの封印(ふういん)処理をしていた」


「距離的に絶対見えてるだろ!」


呪符(じゅふ)に集中していた」


「言い訳が細かすぎる!」


 朔夜(さくや)(まゆ)一つ動かさずに言った。


「コードを俺より先に抜こうとするから、そういうことになる」


「話を()らすな!!」


「事実を言っている」


「事実より先に謝れ!!」


「見ていないと言っている」


「じゃあ見てたら謝るつもりだったのか!!」


 ぬいが棚の上でお茶をすすりながら(つぶや)いた。


「人として正しい反応じゃな」


「お前は黙ってろ!」


 朔夜(さくや)が短く息を吐いた。


「次から、コードに触れる前に声をかけろ」


「そっちの話をするな!!」


―――――


 そこへ、モニターの向こうから真琴(まこと)さんの声が戻ってきた。


「お疲れさまです! あの、スピーカーはどうなりましたか? 活躍しましたか?」


 全員が同時に静止した。


 朔夜(さくや)呪符(じゅふ)を三重に巻きつけて押さえ込んだスピーカーを、無言のまま廃棄(はいき)ボックスへ放り込んだ。


「壊れた」


「え!? なんで!?」


「コードが劣化(れっか)していた」


「さっきまで動いてたじゃないですか!?」


「残念だな」


 全然残念そうじゃない声だった。


 私は廃棄(はいき)ボックスの中のスピーカーを見て、一つ息を吐いた。


「……なんで蒐集(しゅうしゅう)の言葉、知ってたんだろ」


 朔夜(さくや)は何も言わなかった。


 でも、少しだけ目が動いた。


「また考えてる顔してる」


「……ああ」


「どっちか分からないって言ったほうがまだましだよ」


「……そうかもしれない」


 それだけだった。物足りない。でも、今日はここまでだ、という気がした。


 ぬいが棚の上で丸くなりながら、小さく(つぶや)いた。


「次は真琴(まこと)に許可を取ってから買わせよ」


「……給料から引いておく」


 朔夜(さくや)が一言で終わらせた。


 続く。



■ 今回の登場人物


影森(かげもり)ゆら

 本作の主人公。「早い方がいい」という判断が今回も裏目に出た。感電して倒れ、みっともない死に方をしたうえ、蘇生(そせい)後の第一声が「見ただろ」だった。ツッコミ役として、今回も優先順位がブレていない。


夜見(よみ)朔夜(さくや)

 怪異相談屋。見た・見ていないについては最後まで肯定(こうてい)しなかった。呪符(じゅふ)に集中していたかどうかは本人のみ知る。


・ぬい

 半寄生霊獣(きせいれいじゅう)。「非登録式神(とうろくしきがみ)」という分類(ぶんるい)に本気でキレていた。お茶をどこから出したかは不明。


真琴(まこと)(今回はリモート参加)

 配信サポート担当。スピーカーの「劣化(れっか)」説明を信じたかどうかは定かではない。


■ 今回の話について


 全力コメディ回。

 第三章以降へ向けた④AI・ディープフェイクトレンドの最初の導線として機能する回ですが、今回は本筋よりコメディを優先しています。音声応答(おんせいおうとう)媒体(ばいたい)になるという仕組みは、今後、「何かが成り代わる」恐怖へ(つな)がる布石(ふせき)です。

 朔夜(さくや)の末尾の沈黙は、34話「知ってることを隠すのはやめる」という約束の直後であることを踏まえています。まだ答えが出せない、でも誤魔化(ごまか)しもしない、という距離感を意識しました。


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異世界最強の節約勇者
異世界ゲームバー転生おじさん(42)
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