頼みごと
白のシフォンワンピースに、花柄のシフォンワンピース。形の綺麗なAラインのワンピース、チュニックのワンピースに、少し暑いかなと思わなくもないニットワンピ。
いろいろな洋服がクローゼットから引っ張り出されて、椅子の背もたれにかけられたり、ベッドの上に置かれている。置いたのは私なんだけどね。
「まだ決まらないの?」
姉は呆れ顔で私を見ていた。木原君のデートに合う洋服をと思ったが、姉がデートに行くという話を聞き、自分の洋服を貸してくれると言い出したのだ。お姉ちゃんが可愛い洋服を結構持っているのは知っていたので楽しみにしていたが、顔半分程違う身長と体型の差をすっかり忘れていた。その中で私が着れそうなのはこの辺りだ。
「これが一番似合うんじゃない? 私はサイズがきつかったんだよね。もう着ないからあげるよ」
彼女がそう言って取り出したのは花柄のシフォンワンピース。ワンピース全体にピンクの大きな花が描かれている。
「派手じゃないかな」
「お洒落したいのにそんなことを気にしてどうするの」
姉はそれを私に押し付けると、クローゼットから白い箱を取り出した。それを私に渡す。
「これ、買ったんだけどいまいちサイズが合わなかったからワンピースとセットであげるよ。次の誕生日プレゼントね」
その箱を開けると、ピンクのサンダルが入っていた。ピンクといってもほんのりとしたピンクで、白に近い感じだ。ワンピースが強いピンク色だからか、意外と調和しそうな気がする。その場で履いてみて、腰の辺りがもちあげられたような違和感がある。
「こんなヒールの高い靴を履いてこけないかな」
「大丈夫よ。これくらい慣れだって。ヒールがあるほうが足が長く見えていいんじゃない?」
私もサンダルを持っているが、見た目だけならこのサンダルの方が合う気がする。
私は姉から少し早い誕生日プレゼントをもらうことにした。
デートの日、リビングで待っていると、彼が暗い顔をしてやってきた。
「どうかしたの?」
「なんでもないよ。行こうか」
彼の様子はどこかおかしかったが、そのとき彼が笑ってくれたので、あまり気にしないことにする。
家を出ると明るいっ光が差し込んできた。
その光にほっと胸を和ませながら、歩を進める。
「君なら、人からもらうとき、どういうものがほしい?」
「どういうものって?」
まさか木原君が私に何かプレゼントをしてくれるというんだろうか。でも、誕生日はまだだし、それは考えられない。
木原君からなら、何でも嬉しい。だが、偏った考えを省くために姉辺りを想像する。
「バックとか、洋服とか。ぬいぐるみとか、マグカップでも何でも。人からもらえるなら何でもうれしいよ」
その言葉に木原君は顔を綻ばせていた。その爽やかな笑顔にドキッとする。
「君のそういうところってすごくいいね」
その言葉にドキッとし、目をそらした。そのとき、道端にしきりに目をこすっている子の気づいた。私の関心はその子に移る。
どうしたんだろう。
木原君とのデートなので、他の人のことを気にするのはあまりよくないかもしれない。
「ごめん。少しだけいい?」
彼は意味が分からなかったようだが、とりあえずうなずいていた。
私は白の半そでのシャツにピンクのフリルのスカートをはいた女の子に声をかける。
彼女は手で目元をぬぐいながら顔をあげていた。
「どうかしたの?」
彼女は首を横に振る。でも、何もないとは思えなかった。
「くうちゃんがどこかにいっちゃったの」
「くうちゃん? お友達?」
私は腰を落とすと、目線を合わせる。
少女はうなずいた。
彼女の後方を見ても、その手がかりもない。そのくうちゃんの名前が分かればいいんだけど。
「名前は分かる?」
「くうちゃん」
それしか言わない彼女から本名を聞きだすのは難しそうだった。
その子もどこかで迷子になって、目の前の子を探しているかもしれない。
そう考えると、ほうってはおけなかった。
「男の子? 女の子?」
「男の子」
女の子よりは危険な目にあう可能性も低いが、彼女の友達だと小学校にも行ってない可能性が高い。
「さっきまでどこにいたの?」
「公園」
彼女の靴を見ると、細かい砂が付着していた。砂場で遊んでいたんだろうか。
一番近くにある公園はここから歩いて五分ほどの場所にある。走れば数分で確認はできるだろう。だが、そこに彼が残っている可能性は極めて低いが。
私と少女の体に影がかかる。木原君が心配そうに私達を見比べていた。
「この子の友達が迷子になっちゃったんだって。探しに行っていいかな」
「いいよ。映画はまた今度でもいいから」
私達は彼女と一緒に公園まで行くことにした。無事にたどり着き、ほっとする。彼女と一緒に砂場まで行くが、男の子の姿はあるが、その「くうちゃん」はどこにもいないようだった。彼女の大きな瞳から涙がこぼれる。
警察に行って事情を説明したほうがいいんだろうかと思ったとき、ベンチにぬいぐるみが置かれているのに気づいた。ひらめくものがあり、そのぬいぐるみを抱きかかえ、彼女のそばに戻る。
「くうちゃん」
彼女はそう言うと、そのぬいぐるみを受け取ると、抱きしめていた。大きな目から涙がとまり、頬をほんのりと赤くさせている。
「だってあれってぬいぐるみじゃ」
「幼稚園のときのクラスメイトにぬいぐるみのことを名前で呼んでいる子がいたから、まさかと思ったの。でも、よかった」
「お姉ちゃん、お兄ちゃんありがとう」
彼女はそう言うと、頭を下げ、そのぬいぐるみを抱きかかえ、来た道を戻っていく。
私は時間を確認する。上映時間の十分前だった。おそらく今から行っても途中からしか見れないだろう。
「今からだと間に合わないね。ごめんね」
「次の上映時間でいいよ。昼過ぎだっけ」
私は彼の言葉にうなずく。時間をつぶすことを考えたが、まだお腹がすくには早い。
迷っている私に木原君が声をかける。
「一つ、頼みごとをしていい?」
「何?」
「プレゼントを探すのを手伝ってほしいんだ。君がほしいものでいいから」
「私がでいいんだよね。とりあえずいろいろ見て回ろうか」
彼から意外な大役を与えられてしまった。でも、頼られるのは悪い気がしない。
とりあえず映画館に向かいつつ、私のほしいものを探すことにした。




