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# 第七話 切り抜きと推しと、初めての雑談配信!?

今回は、いつもと少し違う一日のお話!


果たしてクロは、無事に配信を乗り切れるのか……!?


ぜひ最後までお楽しみください!



 配信を終えてから、数日。


 私は今日も、自分の部屋でパソコンの画面を眺めていた。


「……え?」


 VTubeを開いて、おすすめ欄を確認していたときのこと。


 見覚えのある黒猫のアバターが、画面に映っていた。


 黒い猫耳パーカー。ちょっと生意気そうな顔。


 間違いない。


 私だ。


「えっ、なんで……?」


 動画のタイトルには、こんな文字が並んでいた。


『【新人VTuber】悲鳴を上げながら敵を撃ち抜く黒猫スナイパーwww』


「…………」


 私はそっと画面を閉じた。


 見なかったことにしよう。


 うん。そうしよう。


 ……いや、待って。


 自分の配信が切り抜かれるって、どういうこと?


 気になって、もう一度画面を開く。


 サムネイルには、私のアバターが大きく映っていた。しかも、なぜかドヤ顔。


 あの顔、そんなに目立ってたの……?


 恐る恐る動画を再生する。


『うわああああっ!? ちょ、待って待って待って!!』


 画面の中で、私は盛大に叫んでいた。


 敵の攻撃を避け、岩陰に隠れ、狙いを定めて――。


『えっ、当たった!? うそ!?』


 敵が倒れる。


 そして画面の端に、小さく表示される黒猫のドヤ顔。


 動画には、そこへ大きなテロップが重ねられていた。


『本人が一番びっくりしてるの草』


「~~~~っ!!」


 私は机に突っ伏した。


 恥ずかしい。


 とにかく恥ずかしい。


 自分の悲鳴を、知らない人に何度も聞かれるなんて思っていなかった。


 しかも、コメント欄まである。


『叫び声とエイムの差がすごいw』

『本当に初心者なの?』

『最後のドヤ顔で腹筋やられた』

『黒猫スナイパーって呼び名好き』

『この子、もっと配信してほしい』


「も、もういいよぉ……」


 画面を閉じようとした。


 けれど。


『この人のチャンネルはこちら!』


 動画の概要欄に、自分のチャンネルへのリンクが貼られていた。


 恐る恐る確認すると、登録者数が目に入った。


「……ごひゃく?」


 五百人。


 前見たときは、まだ二百人台だったはず。


 私は目をこすった。


 もう一度見る。


 五百人。


「えええええっ!?」


 思わず声が出た。


 個人で活動している新人VTuberが、こんなに登録してもらえるなんて。


 もちろん、もっとたくさんの人に見てもらいたいとは思っていた。


 でも、実際に数字が増えていると、どうしていいのかわからない。


 私の配信を見てくれた人がいる。


 面白いと思ってくれた人がいる。


 また見たいと思ってくれた人がいる。


「……うれしい、けど……」


 胸のあたりが、なんだかむずむずする。


 うれしい。


 でも、恥ずかしい。


 それに、次も同じようにできるとは限らない。


 そもそも、私はそんなにすごい配信者じゃない。


 ただゲームをして、叫んで、たまたま敵を倒しているだけなのに。


「……うぅ」


 考え始めると、また頭がいっぱいになってしまった。


 こういうときは。


 そう。


 私には、心を落ち着かせる方法がある。


 パソコンの別のタブを開く。


 そこに表示されたのは、見慣れたチャンネル。


 月城ルナ。


 私の大好きなVTuberだ。


     ◇


『みんな、こんルナー! 今日も来てくれてありがとー!』


 画面から、明るくて優しい声が聞こえてくる。


「……っ!」


 かわいい。


 今日もかわいい。


 いつもかわいいけど、今日もかわいい。


 私は椅子に座り直し、姿勢を正した。


 別にルナが私を見ているわけではない。


 画面の向こうにいる大勢のリスナーの一人。


 それでも、ちゃんとした姿勢で見たい。


 配信が始まったばかりなので、コメント欄も挨拶でにぎわっていた。


 私は少し迷ってから、キーボードに指を置いた。


『こんルナー!』


 送信。


「…………っ!」


 送ってしまった。


 いや、挨拶なんだから普通だ。


 普通のことをしただけ。


 なのに、送信ボタンを押すだけで、なぜこんなに緊張するのだろう。


『みんな、こんルナー! 今日もゆっくりしていってね!』


「……っ、はい……!」


 思わず小さく返事をしてしまった。


 もちろん、私に向けられた言葉じゃない。


 わかっている。


 わかっているけど。


「……えへへ」


 口元が緩んでしまう。


 その後は、いつも通り静かに配信を楽しんだ。


 ルナが最近遊んだゲームの話をしたり、リスナーのコメントに笑ったり。


 私はほとんどコメントをしない。


 何を書けばいいかわからないし、変なことを書いて迷惑をかけたくない。


 だから、基本的には見る専門だ。


 ただ、質問コーナーが始まると、少しだけ事情が変わる。


『じゃあ、次のマシュマロいくねー!』


 ルナが画面に表示された質問を読み上げる。


『最近、落ち込んだときにしていることはありますか?』


「……!」


 私は画面を見つめた。


 気になる。


 ルナは、落ち込んだときに何をするんだろう。


『うーん、私は好きな音楽を聴いたり、おいしいものを食べたりするかな! あとは、みんなとお話しすると元気になる!』


「…………」


 そっか。


 好きな音楽を聴く。


 おいしいものを食べる。


 誰かと話す。


 私にとっても、配信を見ることは似たようなものなのかもしれない。


 ルナの声を聞いていると、さっきまで頭の中をぐるぐる回っていた不安が、少しずつ小さくなっていく。


『みんなも、無理しすぎないでね!』


「……はい」


 今度は、声に出して返事をした。


 今日も元気をもらってしまった。


 やっぱり、ルナはすごい。


 私もいつか、誰かにこんなふうに元気をあげられるようになるのかな。


 ……いや。


 今は考えるのをやめよう。


 せっかくの推しの配信なのだから。


 私は最後まで、ルナの配信を楽しんだ。


     ◇


 そして、その日の夜。


 私は自分の配信画面を前に、固まっていた。


「…………」


 配信タイトルは、すでに設定してある。


『【雑談】登録者500人ありがとうございます!』


 そう。


 登録者が五百人になったのだから、お礼を伝えたい。


 ゲーム配信では、プレイに集中していればなんとかなる。


 敵が来たら撃つ。


 攻撃されたら逃げる。


 危なくなったら叫ぶ。


 やることがはっきりしている。


 でも、雑談は違う。


 敵がいない。


 目的地もない。


 何をすればいいのか、自分で考えなければならない。


「……む、無理では?」


 いや、ここで逃げるわけにはいかない。


 せっかく応援してくれる人が増えたのだ。


 ちゃんと、お礼を言いたい。


 私は深呼吸をした。


 そして、配信開始ボタンを押した。


 画面が切り替わる。


 黒猫のアバターが表示された。


 コメント欄に、さっそく文字が流れる。


『こんばんはー!』

『クロちゃん、登録者500人おめでとう!』

『切り抜きから来ました!』

『黒猫スナイパーさんだ!』


「ひゃっ!?」


 コメントが来た。


 当たり前だ。


 雑談配信なのだから。


 でも、ゲームをしているときとは違う。


 私が話さなければ、配信が進まない。


「こ、こんばんは……! 猫野クロです……!」


『こんばんは!』

『声かわいい!』

『緊張してる?w』


「えっ、あ、あの……」


 何か話さなければ。


 そう思うほど、頭の中が真っ白になっていく。


「き、今日は……その……」


 沈黙。


 数秒。


 十数秒。


 長い。


 ものすごく長い。


 ゲーム中なら、敵を探している時間だと思えばいい。


 でも今は、何も起きていない。


「……ざ、雑談を……します……」


『雑談配信だからねwww』

『宣言かわいいw』

『ゆっくりでいいよー!』


「うぅ……」


 自分で始めたのに、もう帰りたい。


 いや、帰る場所はここだ。


 自分の部屋だけど。


 私は気を取り直して、用意していたメモを見た。


 そこには、話題が三つ書いてある。


 登録者五百人のお礼。


 最近遊んだゲームの話。


 次に遊びたいゲームの話。


 これだけあれば、なんとかなるはず。


「えっと……まずは、登録者……五百人、ありがとうございます……!」


『おめでとう!』

『これからも応援してる!』

『クロちゃんの配信、楽しいよ!』


「……っ」


 画面を見つめる。


 私の配信を、楽しいと思ってくれている人がいる。


 それが、うれしかった。


「……あ、ありがとう、ございます……!」


 今度は、さっきより少しだけ自然に言えた。


 その後も、私は一生懸命に話を続けた。


 最近遊んだゲームについて話そうとして、タイトルを言い間違えたり。


 質問を読んだあと、返事を考えすぎて数秒固まったり。


 話が終わったと思って安心したら、次の話題が見つからなくなったり。


 何度もパニックになった。


 それでも、コメント欄は優しかった。


『無理に話さなくても大丈夫だよ!』

『ゲームの話もっと聞きたい!』

『クロちゃんのペースでいいからね』

『今日もドヤ猫出る?w』


「ド、ドヤ猫は……出ません……!」


『出たwww』

『その反応がもうドヤ猫なんよw』


「ち、違いますぅ……!」


 思わず声が大きくなった。


 コメント欄が笑いで埋まる。


 ……あれ?


 今、ちょっとだけ会話できた?


 ほんの少し。


 ほんの少しだけど。


 ゲームをしていなくても、リスナーとやり取りができた気がした。


 もちろん、まだまだ緊張する。


 雑談配信が得意になったわけでもない。


 でも、始める前に想像していたほど、怖いだけの時間ではなかった。


 気づけば、予定していた配信時間が終わりに近づいていた。


「えっと……今日は、来てくれて、ありがとうございました……!」


『こちらこそ!』

『楽しかったよー!』

『また配信してね!』


「……は、はい! また……配信します!」


 最後まで緊張しっぱなしだった。


 それでも、配信を終える頃には、少しだけ達成感があった。


 配信終了ボタンを押す。


 静かになった部屋で、私は椅子の背もたれに寄りかかった。


「…………つ、疲れたぁ……」


 ゲームで敵に囲まれたときより疲れたかもしれない。


 いや、絶対に疲れた。


 私は机に突っ伏した。


「……雑談って、ゲームより難しくない……?」


 黒猫のアバターは、配信画面の中で今日も少しだけドヤ顔をしていた。


クロ、登録者500人おめでとう!

……なお、ゲームより雑談のほうが難しかった模様(笑)


少しずつ配信者として成長していくクロを、これからも見守っていただけると嬉しいです!

面白かった、続きが気になると思っていただけたら、感想やブックマークで応援していただけると嬉しいです!


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