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# 第三話 えっ、なんで私が切り抜かれてるの!?

第三話です!  今回も頑張ったので読んでみてください


 翌日。


「…………」


 私は、パソコンの前で固まっていた。


 正確には、スマホを片手に持ったまま、ベッドの上で固まっていた。


 昨日のことを思い出す。


 配信を始めて。


 ゲームをして。


 知らない人に見られていることに気づいて。


 パソコンの電源ケーブルを引っこ抜いた。


「…………うわあああああああ!!」


 思い出しただけで恥ずかしい!!


 なんであんなことしたの!?


 いや、あのときは必死だったんだよ!


 配信を止めなきゃって思って、ほかの方法が思いつかなかったんだもん!


「…………はぁ」


 私は枕に顔を埋めた。


 もう忘れよう。


 そう、忘れるのが一番。


 昨日のことなんてなかった。


 私は配信なんてしていない。


 ……うん。これで解決。


「…………いや、無理だよね」


 現実逃避を諦め、私はスマホを手に取った。


 昨日の配信を見ていた人は、たった四人。


 そのうちの一人が、五百円もスーパーチャットを送ってくれた。


 そして、次の配信も楽しみにしている、と言ってくれた。


「…………」


 ……もう一回くらい、やってみようかな。


 そんなことを考えた自分に驚いた。


 昨日は二度と配信なんてしないと思ったのに。


 でも、あのメッセージは嬉しかった。


 私の配信を楽しんでくれた人がいた。


 それなら、もう一度くらい。


「……うん。まずは、ちょっと調べてみよう」


 私はスマホを操作し、VTubeを開いた。


 配信者のページから、自分のチャンネルを探す。


 チャンネル名は――猫野クロ。


 昨日、初配信をしたばかりの個人VTuberだ。


 検索欄に名前を入力する。


「……えーっと、猫野クロ……っと」


 検索結果が表示された。


 そこには、見慣れない動画があった。


『【新人発掘!?】悲鳴を上げながら敵を溶かす黒猫VTuber、初配信でまさかの結末www』


「…………え?」


 投稿者は、私でも知っている有名な切り抜きチャンネルだった。


 VTuberの面白い場面や、思わず笑ってしまうハプニングを紹介しているチャンネル。


 登録者数は、数十万人。


「…………え?」


 いや、待って。


 なんで?


 どうして?


 私、昨日一回しか配信してないんだけど?


 恐る恐る動画を開く。


 最初に映ったのは、ゲーム画面だった。


『うわぁぁぁ!? 待って待って!!』


「…………っ!?」


 私の声だ。


 間違いない。


 紛れもなく、私の声だった。


『なんでいるの!? さっきまでいなかったじゃん!!』


 字幕が表示される。


 ――悲鳴とエイムの温度差。


 敵が倒れる。


 また倒れる。


 さらに倒れる。


 そのたびに、私の悲鳴が響く。


 そして、戦闘終了後。


 画面の中の黒猫が、ちょっと得意げな顔をした。


 動画には大きく字幕が出ていた。


 ――本人、完全にドヤ顔。


「やめてえええええええ!!」


 私はスマホをベッドに投げ出した。


 いや、投げ出してない。


 ちゃんとクッションの上に置いた。


 危ないからね!


 でも、気持ち的には投げ出したかった!


 動画はまだ続いていた。


 最後には、昨日のあの場面。


『ご、ごめんなさいぃぃぃ!!』


 ぶちっ。


 画面が真っ暗になる。


 そして表示された字幕。


 ――配信終了ボタンを探せなかった結果。


「うわあああああああ!!」


 やめて!


 もうやめて!!


 私の黒歴史を全国に公開しないでぇぇぇ!!


 ……いや、公開されているのは私が配信したからなんだけど!


 動画のコメント欄も、恐る恐る確認してみた。


『何この子www』


『悲鳴すごいのにエイム正確すぎて草』


『初配信でこれは逸材では?』


『最後の物理切断で腹筋終わったwww』


『チャンネル登録した。次の配信待ってます』


「…………」


 ……登録?


 私は慌てて、自分のチャンネルに戻った。


 そして。


『チャンネル登録者数:50人』


「………………は?」


 五十人。


 五十人!?


 昨日まで、誰もいなかったのに!?


 いや、昨日は四人も見てくれたけど!


 でも、五十人って!


「な、なんでぇぇぇ……!?」


 私はスマホを握りしめたまま、ベッドの上を転がった。


 たった一回。


 しかも、配信を途中でぶった切っただけ。


 それなのに、五十人もの人が私のチャンネルを登録してくれた。


 ……どうしよう。


 嬉しい。


 でも、恥ずかしい。


 見てほしいような、見てほしくないような。


 いや、どっちなの!?


「…………はぁ」


 私はゆっくりと起き上がった。


 画面には、さっきの切り抜き動画が表示されている。


 コメント欄には、次の配信を楽しみにしているという声がいくつもあった。


 昨日、スーパーチャットをくれた人と同じように。


 私の配信を待ってくれている人がいる。


「…………」


 胸の奥が、ほんの少しだけ温かくなった。


「……もう一回、やってみよう」


 今度は、ちゃんと配信する。


 公開範囲を確認して。


 終了ボタンの場所を覚えて。


 電源ケーブルには絶対に触らない。


「……よし!」


 私は勢いよく立ち上がった。


 そして、三秒後。


「…………やっぱり怖いかも」


 ベッドに戻った。


 ……うん。


 準備は大事だよね。


     * * *


 それから一時間後。


 私はパソコンの前に座っていた。


「……公開範囲、確認」


 非公開ではない。


 今日はちゃんと公開する。


「……マイク、確認」


 問題なし。


「……ゲーム画面、確認」


 問題なし。


「……配信終了ボタン、確認」


 場所も覚えた。


「……電源ケーブル」


 触らない。


 絶対に。


「……よし」


 私は深呼吸した。


 チャンネル登録者数は、五十人。


 たった五十人。


 でも、昨日までの私にとっては、想像もできなかった人数だ。


 配信タイトルを入力する。


『【2回目】猫野クロです……!』


 ……ちょっと緊張しているのが伝わるタイトルになってしまった。


 でも、これでいい。


 私は配信開始ボタンを押した。


『ライブ配信を開始しました』


「……こ、こんばんは。猫野クロです……!」


 声が少し震えた。


 コメント欄を確認する。


『こんばんはー!』


『待ってました!』


『本当に来たwww』


『クロちゃんこんばんは!』


「…………え?」


 コメントが、流れている。


 昨日より、ずっと多い。


 画面の隅に表示された視聴者数は、二桁になっていた。


「えっ、えっ……!? な、なんでこんなに……!?」


 私は慌てて画面を見直した。


 ……あ。


 そうだった。


 切り抜き。


 あの動画を見て、来てくれた人たちなのかもしれない。


 どうしよう。


 何を話せばいいんだろう。


 えっと。


 まずは挨拶?


 それともゲーム?


「あ、あの……! きょ、今日は……NEXCを、やります……!」


『おおお!』


『待ってました!』


『悲鳴回避不可』


『今日はPC抜かないでねw』


「そ、それはもうしません!!」


 思わず即答してしまった。


 コメント欄が一気に流れる。


『宣言いただきましたwww』


『フラグかな?』


『今日も楽しみだw』


「ち、違いますからね!? 今日は普通に配信しますから!!」


 ……たぶん。


 私はゲームを起動した。


 いつものNEXC。


 いつものフィールド。


 いつもの操作。


 ゲームの中なら、私はいつもどおり動ける。


「……よし。行きます」


 キャラクターを走らせる。


 そして、建物の陰から敵が飛び出してきた。


「うわぁぁぁ!? 待って待って!!」


 銃声。


 敵が倒れる。


『出たwww』


『いつもの悲鳴』


『エイムは冷静なのほんと草』


「ちょ、ちょっとぉぉぉ!!」


 私は叫びながら、次の敵へ照準を合わせた。


 画面の中の黒猫が、必死に戦っている。


 コメント欄は、楽しそうに流れていた。


 ……まだ、怖い。


 人に見られるのは、やっぱり苦手だ。


 それでも。


「……生き残れたぁ」


 私は小さく息を吐いた。


 画面の向こうから、コメントが流れてくる。


『ナイス!』


『今のうまっ!』


『おつかれw』


 私は少しだけ、口元を緩めた。


「……あ、ありがとう、ございます……!」


 声は、まだ少し震えていた。


 でも。


 昨日より、ほんの少しだけ。


 配信が楽しいと思えた。


 ――そして、この日の配信をきっかけに。


 猫野クロの名前は、少しずつネットの片隅に広がっていくことになる。


 本人が、それを知るのはもう少し先の話だった。

お読みくださってありがとうございます! 今回は主人公がちゃんと配信するので、コミュ障発動してます! でも主人公も少しずつ(ほんのちょっと)成長してきてますので、今後ともどうぞよろしくお願いします

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