第六十三話:友との再会
「……すっげぇ人だな……」
大会会場となる都市コールドルの巨大闘技場を見上げ、俺は思わず圧倒されて溜息を漏らした。
「そりゃあそうよ。アイスライト国内に存在する全ての貴族学校が集結するんだから」
アイスライト杯の開催地は毎年持ち回りで変わるらしく、今年はここ商業都市コールドルが舞台となっていた。
国中から集まった群衆の数は、今まで生きてきた中で見たこともないほどとなっていた。
出場校の生徒や関係者、応援の親族はもちろん、将来の有望な騎士候補を見繕おうと目を光らせる国のお偉いさん方や軍の関係者、果ては単に血湧き肉踊る戦いを観戦したいだけのお祭り好きまで目白押しだ。
これだけの人間が一か所に押し寄せれば、町全体が莫大な経済効果で潤う。大会期間中のコールドルの熱気は、まさに国を挙げた一大祭典そのものだった。
「ちなみに、今回のアイスライト杯って何校くらい参加してるんだ?」
「はぁ? あんた、出場の手続きをしておきながらそんな基本知識も知らなかったの……? 今回は私たちハンター代表を含めて全8校よ。トーナメント制だから、3回勝てば優勝。楽勝ね」
クレアが呆れ果てた顔で教えてくれた。知らないものは知らないんだから仕方ないじゃないか。
しかし8校か……。もっと何十校もひしめき合っているのかと思っていたが、意外と少なくて助かった。
「ちなみに、俺たちの1回戦の相手はどこなんだ?」
「それは会場内に入って、トーナメント表を見るまで分からないわ。……さあ、早く行きましょう! できれば初戦から、アイスライト学院と当たりたいわね」
うーん……。クレアは気合十分でアイスライト学院と戦いたがっているようだが、正直俺は乗り気じゃないな。
学院にはロクな思い出がないし、できれば決勝あたりまで当たりたくないのが本音なのだが——。
その時、背後から聞き覚えのある懐かしい声がかけられた。
「おい、レインじゃないか! 久しぶりだな!」
振り返ると、そこに立っていたのはグラッドだった。その両脇には、トールとリリーの姿もある。
学院を去ってからまだ一か月程度しか経っていないはずなのだが、怒涛の日々を過ごしていたせいか、何年も会っていなかったかのような錯覚を覚える。
俺たちにとってアイスライト学院は嫌な記憶ばかりの場所だったが、この三人だけは別だ。入学直後から、そしてあの事件が起きた後も、他の鼻持ちならない貴族生徒たちとは違って、いつも変わらず俺たちの側にいてくれた親友たち。彼らがいてくれなければ、俺はもっと早く学院を退学していただろう。
「あぁ、久しぶりだなグラッド! 三人とも元気にしてたか?」
「当たり前だろ! ……まあ、お前らがいなくなってからというもの、学院の生活が一気につまらなくなったけどな。……それにしても、なんでお前らがこんなところにいるんだ? まさかアイスライト学院の応援か?」
「まさか。俺たちも出場するんだよ。——ハンター代表としてな」
俺がそう答えた瞬間、トールが身を乗り出して話に割り込んできた。
「レイン、ハンターになったの!? そうか、そうだったのかぁ……! まぁ、二人の規格外な強さなら、ハンター稼業でも大活躍できるだろうね。……しかし困った。二人が出場するとなると、今年のアイスライト学院の優勝は絶望的だね! 残念だ!」
トールは残念と言いつつも、隠しきれない破顔の笑顔で軽口を叩いている。うん、相変わらず三人とも元気そうで本当に良かった。
「リリー、久しぶりね! 私がいなくなってからも元気にしていた?」
クレアも嬉しそうにリリーへ歩み寄った。クレアも学院では決して友達が多い方ではなかったので、親友との再会が心底嬉しいのだろう。
「うん……元気だよ、クレア。今はね、トールもすごく優しくしてくれてるから……」
リリーは頬をぽっと赤らめると、隣に立つトールの上着の袖をギュッと可憐に掴んでみせた。相変わらずの仲の良さというか、甘い雰囲気だ。羨ましい限りである。
急に照れくさくなったのか、トールが強引に話題を変えようと咳払いをした。
「と、ところで! そちらの可憐なお嬢さんはどなたかな……?」
トールたちの視線が、クレアの隣で今にも立ったまま熟睡しそうな勢いでゆらゆら揺れているシズへと向けられた。
「あぁ、紹介するよ。今俺たちとパーティを組んでいるシズだ。今回のアイスライト杯も、この三人パーティで出場するんだ」
俺が紹介すると、シズはまぶたを重そうに開け、ペコリと頭を下げた。それに応じてトールたちも「よろしくね!」と挨拶を交わす。
案の定、グラッドがシズの幼い容姿を見てシズちゃんと呼んでしまい、速攻で「……『シズさん』。私の方が年上」と訂正されていた。俺が初めて会った時と同じリアクションだ。やっぱり初見で彼女を年上だと見抜ける人間はいないらしい。
「あっ、二人ともそろそろ行くわよ! 受付の時間がなくなっちゃうわ!」
「あ、本当だ。……じゃあな三人とも! また後で!」
「あぁ、健闘を祈ってるぞ! ……まあ、お前たちのことだから大暴れしてくれるのを期待してるよ!」
グラッドたちの見送りを受けながら、俺たちは熱気渦巻く闘技場の中へと足を踏み入れた。
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