第六十話:精霊の声と、アイスライトという国
「ええっ?? すぴりっつますたー……?」
聞き覚えのない単語を、俺はそのままオウム返しにした。
「……異常な魔力。……魔法の威力……。間違いない……」
シズは視線を下に向けると、一人でぶつぶつと早口で呟き始めた。
彼女はやがてゆっくりと顔を上げると、俺の瞳をまっすぐに見つめ直した。
「……スピリッツマスター。自らの魔力を消費するのではなく、周囲に存在する精霊の力を借りて魔法を行使する者のこと」
「えっと……ちょっと言っている意味がよく分からないんですけど……」
「ごめん、シズ……私もさっぱり……」
クレアも眉間にシワを寄せ、首を傾げている。
精霊……確かに言葉自体は聞いたことがある。幼い頃に読んだおとぎ話や絵本に出てくる、手のひらサイズの小さな妖精のような存在だ。背中に羽を生やした女の子が宙を舞い、主人公のピンチを助けてくれる幻想的な存在——。
それが実在し、あろうことか俺がその精霊の力を借りて魔法をぶっ放していると、シズはそう主張したいのだろうか。
「……レインには、精霊の姿は見えない?」
「見えない見えない! これまでの人生で霊だの精霊だの、そういった類のものを見たことなんて一度もないぞ」
だが——言われてみれば、一つだけ心当たりがあった。
「姿は見えないけど……声なら、聞こえたことがある。その声が、俺を助けてくれたことも……」
最近、危険な局面になると頭の中に直接響いてくる、可憐な少女の声。
最初は危機的状況による幻聴かとも思ったが、あのマンティコアとの死闘の際、俺が独学では到底扱えなかったはずの究極魔法を起動できたのは、間違いなくあの声の手助けがあったからだった。
本当に……あの声の主が精霊で、俺に力を貸してくれているとでも言うのだろうか?
「……声……。やっぱり、間違いないかも。……スピリッツマスターは、精霊との意思疎通で魔法の出力を決める。もしレインがまだ精霊と正しく疎通できていないのだとしたら、どれだけ努力しても魔法の大きさを調整できない理由も説明がつく……」
再びシズが、一人の世界に入り込んでぶつぶつと分析を始めた。お願いだから、もう少し大きな声で説明してほしい。聞き取るのに必死なんだ。
「……ちょっと待ってくれ。意思疎通? もしかして、俺がこの二週間必死にやってたコップ一杯の水とかのイメージトレーニングは、何の意味もなかったってことか……!?」
「……うん。レインがスピリッツマスターなら、どれだけ脳内でイメージしても、それが精霊に伝わって協力を得られないと何の意味もない」
なんということだ……っ!!
俺の血のにじむような二週間の努力は一体何だったんだ!
ひたすらコップやスプーンを脳内に思い浮かべ、呪文を唱える日々。シズのアドバイス通り「ポヨンとフワッ」を繰り返しても一向に進歩しなかったのは、ハナから方向性が間違っていたからなのか……!
……だが、もしここでクレアが無理をして魔法を使ってみせ、魔力切れで倒れてくれなかったら、シズがこの事実に気づくこともなかったはずだ。そう考えれば、無駄な二週間ではなかったのかもしれない。
「……学校の授業では、教わらない?」
「あぁ、聞いたこともなかったよ。学校ではとにかく『己の魔力を練り上げ、脳内で強くイメージしろ!』としか教えられなかったしな」
「……アイスライトだから、仕方ないか……」
呆れたように溜息をつくシズ。
アイスライトだから仕方ない? そういえば以前も、シズはクレアを見て「アイスライトを地で行く人」なんて評していた気がする。
もしかして……もしかすると、なのだが。
「……なぁ、シズ。もしかしてアイスライトって……魔法に関しては、とんでもない後進国なのか……?」
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