第五十七話:破格の参加賞と、金男
「……で、ポスターにはなんて書いてあったんだ?」
掲示板の前から戻ってきたクレアに尋ねると、彼女はふんと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
「はぁ? そんなの自分で読みにいきなさいよ。めんどくさい」
「別にそれくらい教えてくれたっていいじゃん。……あっ、さては書いてある文字や難しい単語が理解できなかったんじゃないのか~?」
「なっ……!?」
クレアが鋭い目つきで俺を睨みつけてくる。やばい、煽りすぎた……!速やかに前言撤回して自分で見に行こうとした、その時——。
「お前ら、アイスライト杯に興味があるのか? 出場したいのか?」
低く重厚な声とともに現れたのは、ギルドマスターのマーシャルだった。この人、いつ見てもギルドのフロアにいる気がする。仕事暇なのかな……。
「いえ、以前通っていた学院で、出るかもしれなかった大会だったのでちょっと目に入っただけです。俺たちが出場するつもりなんてないですよ」
「何言ってるのよ! 絶対に出るのよ! 出たい出たい出たぁぁぁい!」
横でギャーギャーと騒ぐクレアを、俺は華麗にスルーした。
「……で、どっちなんだよ。だがな、俺個人としても、お前たちには是非ともギルド代表として出場してほしいんだ。ちょうど説明しようと思ってたところでな」
マーシャルの表情が、いつになく真剣なものへと変わる。何か深い事情があるのだろうか。
「うーん……じゃあとりあえず、話だけ聞かせてもらえますか」
「あぁ、助かる。実はな……」
腕を組んだマーシャルの長話を、俺なりに頭の中で要約すると以下の通りだった。
ギルド代表の成り立ちー本来は金銭的な事情で学校へ通えず、若くしてハンターになった者の同年代での力試しとして枠が設けられた。
圧倒的黒歴史ーアイスライト杯において、ギルド代表チームはこれまで一度も一回戦を突破したことがない。
慢性的な人材難ーそもそも現在は有望な若手ハンター自体が少なく、参加者枠すら埋まらない。
煽ってくる騎士団ーギルドはロクな若手もいない雑魚集団と騎士団の連中から公然と見下されている。
貴族の嫌みー「騎士団養成学校の圧倒的強さを見せつける噛ませ犬として、ギルド代表の参加を認めてやっている」と、最近ある貴族に面と向かって煽られた。
ギルドマスターの意地:ギルドマスターの誇りにかけて、その貴族の鼻を明かして見返してやりたい。
最大の勝算ーあのマンティコアを討伐した俺たちなら、間違いなく優勝できるはず。
……なるほど。最後の方はかなり個人的な私怨が混ざっている気がするが……
「ほらっ! マーシャルさんもこんなに困ってるじゃない! 助けてあげましょうよ!」
お前はただ合法的に暴れて自分の腕前を披露したいだけだろう……。
「いや、でも俺たちはクエストでお金を稼がないといけないですし……下手に怪我でもしたら元も子もないですし……それに、リーダーのエミリーさんにも許可をもらわないと……」
正直なところ、俺はできれば出場したくない。今さら学院の大会に出る意味も感じないし、そんな時間があるならクエストをこなすか、シズに魔法の制御を教わっていたいのだ。それに……あの学校には、できれば二度と会いたくない連中だっている。
「……分かった」
俺の渋る態度を見て、マーシャルが何かを覚悟したように力強く口を開いた。
「——報酬を出そう」
「えっ?」
参加賞:50万ピア
勝利ボーナス:一回戦突破ごとに20万ピア
優勝賞金:さらに追加で100万ピア
「……これなら、クエストとして考えても申し分ない報酬だろう!?」
マーシャルの顔面が引きつっている。完全に無理をしている顔だ……間違いなくギルドの金ではなく、彼のポケットマネーから出すつもりなのだろう。ギルドマスターも大変だな……。
だが、無一文だった俺たちをハンターとして受け入れてくれたマーシャルには恩がある。それに、俺が出ないと言っても、クレアは一人で暴走してエントリーし兼ねない。何より……出番ごとに金が湧いてくるなら話は別だ。
「……分かりましたよ。そこまで言ってくださるなら、参加します」
「本当かッ!? いやぁ助かった、ありがとう!!」
マーシャルは満面の笑みを浮かべ、俺に向かって深々と頭を下げた。
ギルドマスターなんだから、そんな簡単に若造へ頭を下げちゃダメでしょ……。周りのハンターたちが「なんだなんだ?」と不審そうな目で見ている。
「……もはや金の亡者ね」
「……金男」
沈黙を守っていたクレアとシズが、冷ややかなゴミを見るような眼差しで吐き捨ててきた。
こいつら……っ! 特にクレア、お前は計画性もなく金を使い込むくせに! 文句があるならその100万ピアの剣を売って生活費にしろと言いたい! あとシズ……『金男』ってなんだよ! 初めて聞いたぞ、そんな敬称!!
「うるさいっ! 参加するからにはエミリーに話をつけに行かないとな。シズをパーティに迎える件もあるし」
「あぁ、それなら大丈夫だぞ」
「えっ……どういうことですか?」
マーシャルの意外な一言に、俺は首をかしげるのだった。
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