第五十六話 :お金持ちと、唐突な知らせ
すっかり変態として悪者にされてしまった俺を完全に無視し、いつの間にかすっかり打ち解けた二人が楽しそうにトークを交わしているうちに、馬車は無事にアイスライトの街へと到着した。
……まぁ、ガールズトークと言っても、クレアが私の剣のキレが~と誇り、シズがあの時の魔物の弱点は~と淡々と応じるような武勇伝の語り合いばかりで、およそ女の子らしい話題ではなかったが。
「とりあえずギルドに行こう。今日泊まる宿代すら無いからな」
「そうね! それに、今回はかなりの報酬が期待できるわよ!」
クレアが自慢気に、持っていたバッグの口を広げて見せてくる。そこには、森で倒した数十体の魔物から回収した、色とりどりの魔石がぎっしりと詰まっていた。
相手はE~Dランクの雑魚中心だったため、個々の単価は高くはないはずだが、これだけの数があればなかなかの金額になるはずだ。
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「お疲れ様でした! 今回の報酬ですが、Bランク『マッドベア』の討伐報酬で80万ピア。回収された魔石の買い取りで60万ピア。合計で140万ピアになります」
「「おぉ……!」」
ギルドの受付で、札束を受け取る。
予想以上の大金だ。今回は昨日の二の舞にならないよう、計画的に大事に使わなければ。毎日毎日「今夜の宿代がない!」なんて綱渡り生活を続けるのはごめんだ。俺は切実に、平和で安定した生活を送りたいのだ。
「じゃあ、これはクレアとシズの取り分な」
俺は札束を取り分け、クレアとシズにそれぞれ30万ピアずつ手渡した。残りの80万ピアはパーティーの運営費と俺の分だ。
「えっ……? お金、エミリーに預けなくていいの?」
クレアが不思議そうな顔で首を傾げてきた。
「あぁ。昨日の散財を見て、お金は俺が責任を持って管理したほうが良いと痛感したからな。エミリーに預けて、また一晩で全部使われたら目も当てられない」
もはや、エミリーの金庫番としての信用は完全にゼロである!さすがの彼女も、昨日の今日で文句は言えまい。
「あー……確かにそうね! じゃあ遠慮なく頂くわ!」
「……ちゃんと考えながら使うんだぞ? 無くなったからって、俺に泣きついても知らないからな」
「えぇぇっ!? その時は貸してよ!」
「むりっ!」
「ケチッ!」
クレアにも、一市民としての金銭感覚を身につけてもらわないと困る。いつまでも元貴族のお姫様気分でポンポン使われたら、いくらピアがあっても足りやしない。
「よし、懐も温かくなったことだし、宿で寝てるエミリーに報告しに行こうか。シズのことも紹介して、正式にパーティへ迎える許可も取らないとだしね」
「……うん。よろしく」
ギルドの出口へ向けて歩き出したその時——壁の掲示板に新しく張り出された、大きなポスターが俺の目に飛び込んできた。
そこに躍っていた文字は、どこか懐かしさを覚えるフレーズだった。
『アイスライト杯——ギルド代表メンバー急募!』
「……ん? レイン、急に立ち止まってどうしたのよ?」
「いや……あれを見てみろよ」
俺が壁のポスターを指差すと、クレアもそこに書かれた文字に気づいたのか、一目散に駆け寄ってかぶりつくように熟読し始めた。
その様子を見て、後ろからシズがぽつりと呟く。
「……あぁ。アイスライト杯」
「ギルド代表って……アイスライト杯って、元々は学校同士が競う大会じゃなかったのか?」
「……うん。基本はそう。でも毎年、ギルドからも15歳から18歳の若手ハンターを集めて、代表チームとして特例で参加することが認められているの」
「へぇ、そうだったのか……」
まったく知らなかった。……だが、こんな面白そうなイベントがあることを知ってしまったら、あいつは間違いなく——。
「レインッ!! 私、これに出るわよっ!!」
やっぱりな……!
目をギラギラと輝かせながら振り返るクレアを見て、俺は深く溜息をつきつつも、これから始まる新しい波乱に思わず苦笑してしまうのだった。
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