第五十五話:揺れる馬車と、からかわれる俺
「お願いだから、いい加減仲直りしてくれ……」
ガタゴトと絶え間なく揺れる帰りの馬車内。アイスライトの街へ向けて街道を進む車内で、俺は頭を抱えて深々と溜息をついた。
クレアとシズの二人は、森の中で起こった「お互いのスカートめくり合戦」のせいで完全に冷戦状態へ突入していた。お互いに真逆の窓の外を向いたまま腕を組み、一言もしゃべろうとしない。車内に充満する重苦しい緊張感に、俺の胃はきりきりと痛んでいた。
「……クレアが先に謝ったら、仲直りしてあげる」
シズは外の風景を見つめたまま、ぽつりと呟く。
「……フンッ! シズが謝ったら、仲直りしてあげなくもないわね!」
クレアもプイッと窓の外を向いたまま、負けじと言い返す。
ほんと頼むからいい加減にしてくれ……
二人とも子供じゃないんだから、スカートを捲られたくらいでいつまでも意地を張らないでほしい。……まあ、俺は男だから下着を見られる恥ずかしさというものを本当の意味で理解できているわけではないが。それにしても……昨日今日と連続してこんなラッキーな体験ができるなんて。今までツイていなかった分の幸運が一気に押し寄せてきているのかもしれない——。
「……レイン。また変なこと考えてる」
「ほんとね。すっごく気持ち悪い顔してるわよ、あんた」
「……ッ!????」
いつの間にか、窓の外を見ていたはずのふたりの視線が、同時に俺の顔面へ突き刺さっていた。しまった、完全に油断していた……!
「べ、別に何も考えてないよ!? ただ、どうやったら二人が仲直りできるかなぁって……」
「……嘘」
「……絶対嘘ね」
さっきまでバチバチに険悪だったくせに、こういう時だけ息がピッタリなのは何なんだ。
それに、脳内でやましい妄想をしていたのは紛れもない事実なので、強く否定することもできない。かといって肯定すれば命がない。
俺が言葉に詰まって冷や汗を流していると、シズが決定的な一言を放った。
「……私の眼は、人のつく嘘まで完全に見抜けるから」
「なっ……!?」
ま、マジか……!!
身体の具合や傷の程度まで寸分違わず見破ったシズの目だ。二日間の付き合いとはいえ、彼女の能力の異常な高さは痛いほど分かっている。嘘がバレているなら、下手に足掻くより素直に謝罪した方が生存率は高いはずだ……!
「……変なこと考えてて、本当にすみませんでしたっっ!!」
俺は座席の上で、勢いよく頭を下げた。その直後——頭頂部に隕石でも落とされたかのような凄まじい衝撃が走った。
「……痛ってぇぇぇぇぇっ!?」
何が起きたのか分からないまま、激痛に耐えかねて頭を両手で押さえ込む。
「ふんっ! 今日はこれくらいで勘弁してあげるわ!」
涙目で顔をあげると、そこには湯気を立てた拳を握りしめるクレアの姿があった。やっぱりお前の攻撃かよ……!
「正直に謝っただろ……!?」
「謝って済むなら、騎士団なんていらないのよ!」
「……確かに、その通り」
シズまでクレアの言い分に深く頷いている。
冷戦中じゃなかったのかよ!? いつの間にかタッグを組んで俺を攻撃しやがって……!
「まあ、これに懲りたら二度と私やシズの下着を覗こうなんて邪念を起こさないことね!」
クレアは顔を真っ赤にしながら、ツンと胸を張って言い放つ。恥ずかしいならわざわざ言葉に出さなきゃいいのに。
「……私は、お金さえ貰えたら見せてあげてもいいけど」
「「……え?」」
俺とクレアの声が重なった。
シズ、今なんて言った……? お金さえ払えば見せてあげる、って言ったのか……!?
冗談なのか? 本気なのか? 相変わらずのポーカーフェイスすぎて全く判別がつかない。
「ば、ばか! シズ、あんた女の子の口から何言ってるのよっ!?」
「……ふふ。冗談」
「じ、冗談でそんな恐ろしいこと言うなよ……!」
「……レイン、顔真っ赤。かわいい」
「なっ……!!?」
直球すぎるからかいに耐えきれず、俺は真っ赤になった顔を思わず両手で覆い隠してしまった。ちくしょう……シズが仲間になってから、ペースを乱されっぱなしだ。完全に手のひらの上で転がされている……!
「……ちなみに。嘘を見抜けるっていうのも、全部冗談」
「それも嘘かよっっ!!」
思わず車内に響き渡る大声で突っ込んでしまった。
本当に弄ばれっぱなしだ……だが、内心では心底ホッとしていた。他人の嘘を百発百中で見抜く目なんて、物騒すぎて一緒にいるだけで胃が痛くなってしまう。
「……ふふっ。面白い。……やっぱり、あなたたちのパーティに入って良かった」
「俺は……ちょっとだけ後悔し始めてるかも……」
「じゃあ、本気で後悔されないように、頑張る」
シズは上機嫌そうに、口元へ可憐な微笑みを浮かべた。
華やかで美しいクレアとは全くタイプが違うけれど、こうして素直に笑うシズの姿は——正直、反則的なほど可愛らしかった。
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