第五十一話 :A級ハンターと、天使のほほえみ
「パーティーに入れて」というシズの言葉には、俺だけでなくクレアも目を見開いて驚いていた。
パーティーに入れて……? こんな華奢で小さな女の子が魔物と戦えるのか? いや、それ以前に彼女はハンターなのか?
頭の中に次々と疑問が浮かび上がるが、シズは俺の戸惑いを察したように、淡々と言葉を紡ぎ始めた。
「……私は、A級ハンター。魔法は得意。剣術は……あまり得意じゃない。絶対に、あなたたちの役に立てる」
人と話すのがあまり得意じゃないのかな……
それにしても、この見た目でA級ハンターだなんて。まさに人は見かけによらないとはこのことか。
俺が思わずまじまじと観察していると、シズは少しだけ頬を膨らませてジト目を向けてきた。
「……それと、私。こう見えて十七歳。敬語とかはいらないけど……『シズちゃん』みたいな子供扱いは、やめて」
「じっ……十七歳っ!????」
二度目の衝撃だった。まさか年上だったなんて……! 見た目が華奢で小柄なものだから、てっきり十二~十三歳くらいの幼い少女かと思い込んでいた。
見た目で判断できないな……。
しかし、パーティー加入か。
俺たちにとって初めてのBランククエストに臨むにあたり、実力あるA級ハンターが同行してくれるのはこれ以上なく心強い。
問題は、出会ったばかりの彼女をどこまで信用していいのかという点だ。一応宿で寝ているエミリーにも相談した方がいいだろうか。でも、今は猛烈な二日酔いで爆睡している最中だし……などと俺が一人で腕を組んで悩んでいると——。
「いいわよ! あなたを私たちのパーティーに歓迎してあげるわ!」
隣でクレアが、腕を組んでフンと胸を張った。
「強い仲間が増えるのは大歓迎よ! 私はクレア。よろしくね、シズ!」
「えぇっ!? 勝手に決めちゃっていいのかよ!?」
「いいのよ! A級なんて頼もしいじゃない!」
相変わらずの即断即決だ。まぁ、リーダー格のエミリーが不在の今、クレアがこうして引っ張ってくれるなら悪くはない。明確な反対理由があるなら俺も口を挟むが、何より俺自身、シズの真っ直ぐな瞳を見て信用できると感じていたのだ。
「……クレアがそう言うなら、断る理由もないな。俺はレイン。よろしくシズ。……ただ、今回はまずお試しで一緒に行こう。クエストが終わった後、エミリーにも改めて相談して、正式にパーティーを組むのはそれからでいいかな?」
「……うん。わかった。よろしく、レイン」
ずっと無表情だったシズが——その瞬間、ふっと口元を緩めて、花がほころぶようにニコッと微笑んだ。
……っ!?
心臓が跳ね上がった。
それはまるで、月光の下で降り咲く白百合のような、あまりにも透明感にあふれた『天使のほほえみ』だった。不覚にも一瞬、息を呑んで胸を撃ち抜かれそうになる。
危ない危ない危ない……っ! 落ち着け俺! 俺にはクレアがいるんだから……!
心の中で必死に警鐘を鳴らし、咳払いを一つ。
「じゃ、じゃあ……そうと決まれば、さっそく受付を済ませて出発しよう!」
俺たちは三人並んで、ギルドの受付カウンターへと向かった。
「すみません、このクエストの受注をお願いします」
「はい、お任せください。……Bランク『マッドベアの討伐』ですね。少々お待ちくださいね」
受付のお姉さんが紙に受領印を押して手続きを進めていると、ギルドの奥からバタバタと激しい足音が響いてきた。
額に汗を浮かべたマーシャルが、焦った様子で駆け込んでくる。
「おいシズっ! お前、こんなところで一体何やってるんだ!?」
「……何って。今からレインたちと、クエスト」
「仕事はどうするんだよ、仕事はっ!?」
「ギルドは辞める。……今日から、ハンター一本」
シズが淡々と言い放つと、マーシャルはガバッと頭を抱え、絶望したように首を大きく横に振った。
「はぁぁぁ……昨日言ってた『仲間に入れてもらおうかな』ってのは本気だったのかよ……。くそっ、一度言い出したら聞かないお前の性格じゃ、いくら説得しても無駄だろうな……」
「……今まで、ありがとう。お世話になりました」
相変わらず表情の変化は乏しいものの、シズはマーシャルに向かって深く、丁寧におじぎをした。
するとマーシャルはハッと顔を上げると、ギロリと猛烈に鋭い眼光で俺を睨みつけてきた。
「……おい、レイン」
「は、はいっ!?」
あまりの威圧感に思わず直立不動になる。
「シズに何かあったら……ただじゃおかねえからな。分かったな!?」
「は、はいっ! 全力でサポートします……っ!」
俺が慌てて答えると、マーシャルは一転してニカッと白い歯を見せて豪快に笑い飛ばした。
「ハッハッハ! まぁ、あのシズが自分の意思で選んだパーティーだ。間違いはねえだろ。……シズをよろしく頼んだぞ」
「ふふん! 私がいればどんなクエストだって楽勝よ! 安心して待っていなさい!」
腰に手を当て、ドヤ顔で言い放つクレア。
もう貴族でも何でもないのだから、もう少し謙虚さを覚えてほしいものだが……まぁ、この物怖じしない強気さこそが、クレアの頼もしい魅力でもあるのだが。
こうして、無表情なAランクハンター・シズを加えた俺たちの『マッドベア討伐クエスト』が、いよいよ幕を開けたのだった。




