第五十話:クエスト選びと、新メンバー?
早朝のハンターギルド。活気に溢れ始める館内で、俺とクレアは壁一面に貼られたクエスト掲示板の前に立ち、次の目的地を吟味していた。
「これにしましょう!」
クレアが勢いよく指差したのは、上段の目立つ位置に張られた一枚の紙だった。
【ロックスネークの討伐】
クエストランク:A
報酬:300万ピア
概要:タニア砂漠に出没するロックスネークの討伐。砂漠のオアシス付近にて出現を確認。体長は五メートルを超える危険な魔物。丸呑み、巻き付け、および致死性の毒に細心の注意を払うこと。
「だめっ!!」
「なんでよ! 今の私たちはB級なんだから、A級クエストまで受注できるルールでしょ!?」
目を輝かせるクレアに対し、俺は食い気味に即答した。クレアは本気の目だ。相変わらず何も考えていないな、こいつ……。
「確かにルール上は受注可能だけど、今はエミリーが休んでて二人しかいないだろ! いきなり初見のA級なんてリスクが高すぎる。魔物の特徴だって分からないのに!」
「何よ、弱気ねぇ。大丈夫よ、私のこのアストライアがあれば、ドラゴンだって一刀両断なんだから!」
腰の名剣を叩き、恐ろしいほどの自信を見せるクレア。確かに万全な状態の彼女が暴れ回れば勝てるのかもしれない。……あくまで万全ならだ。俺はまだ、彼女の傷が完全に癒えきっていないと疑っている。
それに何より、このクエストには決定的な問題があるのだ。
「……仮に実力が足りてたとしても駄目だ。クレア、そもそもタニア砂漠がどこにあるか知ってるのか?」
「えっ……?」
俺の問いに、クレアの口がピタリと止まった。目が泳ぎ始める。やはり知らなかったか。元貴族でお姫様育ちの彼女には、これからこの世界の地理や常識も少しずつ教えていかないとな……。
「タニア砂漠は、この街から馬車を乗り継いで早くても片道三日はかかる遠方だ。それに砂漠越え用の特別な装備や水、食料の大量買い出しも必須になる。……今の俺たちの全財産、覚えてるか? 五千ピアだぞ? 遠征費すら払えないから絶対に無理だ!」
「そ、そうなの……? じゃあ無理ね。他を探すわ……」
現実を突きつけられたクレアは、ショックで猫のように肩を落とし、再び渋々といった様子で掲示板に目を戻した。
その時——背後から、聞き覚えのある小さな声が響いた。
「……これはどう?」
俺とクレアは同時に振り返った。
そこに立っていたのは——昨日、マンティコアの魔石を一瞬で二百万ピアと見抜いてみせた、銀髪の女の子シズだった。
シズは相変わらずの無表情のまま、トコトコと歩み寄ると、一枚の依頼書を俺の胸元へ差し出してきた。
「これはどう……って、シズちゃん? クエストの提案か?」
俺はシズの手からその紙を受け取り、目を通す。
【マッドベアの討伐】
クエストランク:B
報酬:80万ピア
概要:パナナの森に出没するマッドベアの討伐。体長三メートルを超える、体毛が紫色の熊型魔物。鋭い鉤爪による打撃および強力な噛みつきに警戒すること。
パナナの森か……。確か街からの距離的には、この前行ったベラシーの森と大差ないはずだ。日帰りか、一泊程度で行って帰ってこられる。
報酬も80万ピアと破格だ。これだけあれば、手元に残る金額で当面の宿代や食費は余裕で確保できる。懸念点があるとすれば、俺たちにとって初めてのBランクモンスターという点だが……。
俺がまじまじと依頼書を熟読していると、何を思ったのか、シズが懸命に手を伸ばし、俺の手から依頼書を『さっ』と回収した。
「……どう?」
「ちょっと! 私まだちゃんと見てないんだけど!?」
「……あなたには聞いてない。どうせ理解できない」
「なっ……!?」
おぉ……子供のくせに、クレア相手にそんな毒舌を吐くなんて度胸がありすぎる……!
子供ゆえの無邪気な毒なのか、本心なのか。クレアも流石に幼い子供相手に暴力を振るうわけにもいかず、額に青筋を立てて顔を真っ赤にしながらプルプル震えている。
「どう……って言われてもなぁ。条件はすごく魅力的だけど、Bランクの魔物と直接戦ったことはないから、正直ちょっと不安かな……」
「……大丈夫。あなたなら、マッドベアくらい楽勝」
淡々としたトーンだが、迷いのない言葉。
俺の戦闘を直接見ているわけでもないのに、なぜそんな確信を持てるのか不思議だったが……彼女の瞳に見つめられると「大丈夫なのかも」と思えてしまう説得力があった。
「そうか……。シズちゃんがそこまで言ってくれるなら、このクエストを受けてみようかな。ありがとう!」
受注手続きのために受付カウンターへ向かおうと手を伸ばした。
……だが、シズは依頼書を握りしめたまま、微動だにしない。
俺が首を傾げると、シズは透明感のある瞳で俺をじっと見上げ、静かに口を開いた。
「……このクエストを受けたかったら。……私を、パーティーに入れて」
「「え……?」」
俺とクレアの声が、完璧に重なった——。




