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剛剣の姫と、至高の魔〜いつか君を超えて、その手を掴むまで〜  作者: Kuran


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第四十四話 :小金持ちパーティと、シズの選択

「おいシズ! 起きろ! 頼むから仕事中に寝るな!」


 マーシャルがシズの両肩を掴み、ガクガクと激しく揺さぶり始めた。華奢で小さな身体が今にも壊れてしまいそうな勢いだ。


 揺すられること数秒——シズは億劫そうに、ゆっくりと重い瞼を押し上げた。


「……ん。仕事……がんばる……」


 ぼんやりとした声で呟くシズに、マーシャルが身を乗り出す。


「よし、起きたな! どうだ、シズ? この魔石は本物か!?」


 シズはまだ眠たそうに半目で自分の小さな手を擦りながら、カウンターに鎮座する深紅の魔石を凝視した。その瞬間、彼女の透明感のある瞳が、うっすらと神秘的な魔力の輝きを帯びる。


「……うん。本物。……マンティコアの魔石。純度、極上。価値は……二百万ピア。……おやすみ」


 査定結果を淡々と告げるやいなや、シズはコテンと首を傾げ、再び立ったままスースーと規則正しい呼吸を始め直した。


 ……いま、なんて言った? 価値は……に、二百万ピア……!?


 やっ…………やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!


 俺の脳内で歓喜の鐘が鳴り響く。二百万ピア! 二百万ピアだぞ!!


 これで明日の宿と食費に頭を悩ませる極貧生活とは完全におさらばだ! 肉だ! 温かいスープだ! ふかふかのベッドだ!


「やはり本物か……。しかも新人のお前たちが、あのマンティコアを仕留めてくるなんてな……。おいお前たち、一体何者なんだ……?」


 マーシャルが絶句し、額の汗を拭いながら俺たちを凝視する。クレアは待ってましたと言わんばかりに胸を張り、腕を組んで勝ち誇った笑みを浮かべた。


「ふふん! 私たちは、未来の『S級ハンター』よ!」


「はっはっは! そうかもしれないな。まだF級だがな。しかしマンティコア討伐となれば話は変わってくる。確かマンティコアの討伐ポイントは……」


 マーシャルはカウンターの下から図鑑のように分厚いギルド規定集を取り出し、ページをペラペラと素早く捲った。


「あった! マンティコア一頭討伐で8000ポイントだ! これを当てはめると……おいおい、お前たち、F級から一気にB級まで飛び級昇格だぞ!」


「えぇっ!? そんなことってありなんですか!?」


 いきなりの飛び級に俺が驚いて声をあげると、マーシャルはニッと不敵に笑った。


「普通はな、新人が無茶をして簡単に死なれちゃ困るから自分より一つ上のランクのクエストまでしか受注できない仕組みになっている。だが……お前たちのように圧倒的な実力を示せば、ギルドマスターの裁量権限でランクを引き上げることができるのさ。……それと、これが魔石買取金の二百万ピアだ。受け取れ!」


 見たこともない分厚さの紙幣の束が、カウンターに並べられた。


 俺には今、黄金のように神々しい輝きを放つ札束に見えている。俺とクレアは吸い寄せられるように、同時にその札束へ両手を伸ばした——その瞬間!


 恐るべき速度で横から飛んできた影が、札束を一瞬でかっさらった。エミリーだ!


「子供にはまだこんな大金は早いわね。事故の元だわ♪ お金の管理は年長者の私がしっかり預かっておいてあげる。……あとで皆で一緒に、お買い物しましょ?」


 エミリーは天使のような清らかな笑顔を浮かべつつ、手慣れた手つきで二百万ピアの札束を懐へと滑り込ませた。


 ……この人、まさか独り占めしてトンズラする気じゃないだろうな……!?


 俺とクレアは、示し合わせたかのように同時に疑いの眼差しをエミリーへ向けた。


 ……いやいや、あのお節介で優しいエミリーに限って、そんな悪質な持ち逃げなんてするはずがない。信じよう。


 それにしても……お金って、一瞬で人を疑心暗鬼にさせる一番恐ろしい魔物かもしれない。


 こうして、一夜にして小金持ちとなった俺たちは、大満足でハンターギルドを後にしたのだった。


* * *


 レインたちが賑やかにギルドの扉を押し開けて去っていった後——。


 カウンターの陰でスースーと寝息を立てていた銀髪の少女・シズが、静かにその瞳を開いた。


「……あの人たち、何者……?」


「おぉっ、シズ! 起きてたのかよ。……まぁ俺も昨日会ったばかりだから詳しいことは知らんが、なんでも訳ありの元貴族らしいぞ。どうして爵位を失ったまでは知らんがな」


「……そう」


 シズはレインたちが出て行った扉をじっと見つめ、消え入りそうな小さな声で呟いた。


「……私も、仲間にいれてもらおうかな……」


「えっ? いま何か言ったか?」


「……おやすみ」


 シズは再びコテンと首を傾げ、完璧な姿勢で立ったまま目を閉じた。


「ったく、相変わらずマイペースなやつだな……」


 マーシャルは困ったように苦笑すると、シズの小さな身体を優しく抱きかかえ、奥の執務室のベッドへと運んでいくのだった。

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