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剛剣の姫と、至高の魔〜いつか君を超えて、その手を掴むまで〜  作者: Kuran


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第三十六話:女子制服と、男子制服

「ところで……その服、いくらしたんだ?」


 純白のレースと濃紺のコルセットを基調に、白銀の軽装鎧と焦げ茶色の革装具を組み合わせた、華麗な騎士装束。胸元や肩、脚には金細工が施され、濃紺のスカートには金糸による細かな刺繍が広がっている。気品と実用性を兼ね備えた装備だ。


 どう見ても平民が買うような安物ではない。今まで超金持ちの貴族として贅沢に暮らしてきたクレアが、金銭感覚を間違えずに買い物できたのか急に不安になってきた。


「ん~? たしか店主は二十万ピアって言っていたかしら」


「ぶふっ……!? に、にじゅうまん!!?」


 あまりの桁違いな金額に変な悲鳴が飛び出した。


 俺たちのパーティの総資産は、最初の時点で五万ピア程度。そこから鉄の剣を三本買い、俺のレプリカ防具を買った時点で、すでに残金は二万ピア程度まで落ち込んでいるはずなのだ。そんな絶望的な経済状況の中、こいつはどうやって二十万ピアなんて大金を支払ったというのだ……!? まさか店主を暴力で脅してカツアゲしたんじゃ……!?


 ちなみに現在、パーティの財布はエミリーが厳重に管理している。最年長という理由もあるが、クレアに持たせたら一瞬で無駄遣いしそうだし、俺自身もこれまでエミリーに居候させてもらっていた身だ。満場一致でエミリーが金庫番に収まった経緯がある。


「何よ変な声出して。本当に頭がおかしくなったの?」


「頭がおかしいのはお前だろ!」と言いたいのを必死で呑み込んだ。それを口にしたら、クレアの容赦のない拳が飛んでくることは火を見るより明らかだからだ。


「い、いや……どうやってそんな大金を払ったのかなって……俺たち、いま全然お金ないし……」


「何よ、心配しなくても店員を脅したりなんてしてないわよ」


「そ、そうか、よかった……」


 本当にやりかねないから怖かったんだよ。


「お店の店主がね、私の着ていた学院の制服と、この防具を交換してくれたのよ」


 クレアはくるりと一回転し、純白のスカートの裾をひらひらと揺らしてみせた。相当お気に入りのようだ。


 ……だが、待て。あのいくらでも出回っていそうな学校の制服に、二十万ピアと同等の価値があるというのか……? もしかして、この店の店主にはそういった特殊な怪しい性癖があるんじゃ——。


 俺が店主の方へ疑念と軽蔑の混ざった視線を向けると、やり取りを見ていたエミリーが苦笑しながら助け舟を出してくれた。


「あのねレイン君、学院の制服ってもの凄くプレミアがついているのよ。あそこは基本的に選りすぐりの貴族令嬢しか入学できないでしょう? 平民の富裕層やコレクターの間では、喉から手が出るほど欲しいブランド品なの。デザインも飛び切り可愛らしいしね。他の都市ではコスプレ祭りなんてイベントもあるくらいだから」


「へぇ……コスプレ祭りかぁ。一度行ってみたいな……」


 思わず男としてのロマンに想いを馳せ……ハッと我に返った。


 待てよ……? じゃあ、俺が着ていた男子制服も高く売れるんじゃないか!?


「ちょっと待っててくれ!」と二人に伝え、俺は店主の元へダッシュで駆け寄った。


「あのっ! 俺がさっきまで着ていたこの男子制服も、買い取っていただけませんか!?」


「ん? 買取か。どれ、ちょっと見せてみな」


 店主は俺が差し出した男子制服を受け取り、まじまじと見始めた。期待に胸を膨らませる俺に対し、店主が提示した額は——


「うーむ……まあ、全部で五千ピアってところだな」


「えっ……!? た、たったの五千ピア!?」


 絶望的な格差に俺は叫んだ。なぜだ! クレアの女子制服には二十万ピアの価値がついたのに、俺のはたったの五千ピアだと!? やっぱりこの店主、男物の服には興味がない変態的な性癖なんじゃ——。


 俺の視線から溢れ出る疑惑を察したのか、店主は呆れたように肩をすくめて説明を始めた。


「あのなぁ坊主、価値があるのは女子生徒の制服だけなんだよ! 考えてもみろ、野郎が別の男が着た制服を有難がって着たいと思うか? 思わねぇだろ! その点、女の子の可愛い制服なら着てみたいって層が一定数いるんだよ。まあ、一番売れるのはコスプレ祭りの時期だがな。その時にカップルが『彼氏用』として男子制服をセットで買っていくくらいだ」


「なるほど……」


 ものすごく納得してしまった。


 確かに、どこの馬骨か分からない男が着た中古の制服なんて、俺だって金を払って買いたくはない。納得の理由に頷き、俺は店主から五千ピアを受け取って二人の元へと戻った。


「俺の制服も売ってきたんですけど……五千ピアにしかなりませんでした」


 受け取った紙幣をエミリーに手渡す。


「あはは、ありがとうレイン君。まあ、男子制服は需要が限られているからねぇ。先に教えてあげればよかったわね。……さあ! 装備も整ったことだし、あとは食料と最低限のアイテムを集めて、いざ初クエストへ出発しましょう!」


 落胆する俺の気持ちを察してくれたのか、エミリーは明るく声を張り上げ、俺の背中をポンと叩いたのだった。

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