第三十五話:レプリカと、天使の姿
慌ただしく朝食を済ませると、俺たちは街で冒険の装備とアイテムを整えることにした。
と言っても、いまの俺たちには先立つものがない。平民街の武具店へ足を運び、ドラゴンの鱗や希少金属でできた眩しい武器・杖を羨望の眼差しで眺めつつ、棚の隅に置かれた一番安価なただの鉄で作られた無骨な剣を三本買った。
俺自身は剣にするか魔法用の杖にするか少し迷ったのだが、エミリーから、
「あなたの圧倒的な魔力量からしたら、この程度の市販の安物の杖なんて装備したところで何の意味もなさないわよ」
とバッサリ切り捨てられたため、おとなしく剣を選ぶことにした。まあ、男として剣を身に着ける格好良さには憧れがあったので、後悔はない。
「あーあ、まさかこの私がこんな安物の鉄剣で戦う羽目になるなんてねぇ」
エミリーが鉄の剣を軽く片手で振るう。
ヒュッと空気を切り裂く鋭い風切り音が響き、彼女の確かな実力を物語っていた。いつか俺も、あんな鋭い一閃を放てるようになりたいものだ。
「あとは、あなたたちの服をどうにかしないとね。退学になった以上、いつまでも王立学院の制服を着ているわけにはいかないもの。好きなものを選びなさい。……と言っても、貧乏パーティの私たちにはごく普通の平民用の防具しか買えないけれどね」
確かに、学園を追放された俺たちがいつまでもあの目立つ制服を着ているのはリスクが高すぎる。
店内には武器だけでなく、様々な防具や旅装が並んでいた。同じような見た目の防具でも、付与されている特殊効果によって性能はピンキリだ。耐火、耐冷、耐刃など数十種類にも及び、付与効果の数や効果量が大きくなるほど跳ね上がる仕組みになっている。
店内を見て回っていた俺の目は、ある一着の防具に釘付けになった。
シックな黒で統一された上下の布地に、同色のスタイリッシュなマントがセットになった防具。文句なしに格好いい! 「これだ!」とテンションを上げて値札を確認する。
【ブラックミラージュベストセット】
効果:魔法防御力(微)アップ
価格:五万ピア
「なっ……!?」
たった一つの『微アップ』という効果で五万ピア……! 俺たちの全財産を越えているじゃないか。折角気に入った装備を見つけたのに、到底手の届かない金額だと知ってガックリと肩を落としていると、奥から店主が気さくに声をかけてきた。
「なんだい坊主、その服が気に入ったのかい? もし見た目だけが気に入ったってんなら、レプリカもあるぜ?」
「レプリカ……ですか?」
「おう。デザインや生地感は寸分違わんが、効果が一切付与されていないただの服だな」
店主が奥から出してきたのは、俺がひと目惚れしたあのブラックミラージュベストとまったく同じ見た目の服だった。値札を確認すると——なんと五千ピア。実に十分の一の価格だ。
「これにします! ありがとうございます!」
「へい毎度! レプリカは性能重視のハンターには売れ残りがちだからな、買い手がついて助かったよ」
さっそく購入したブラックミラージュベスト【レプリカ】に着替えてみる。サイズもあつらえたようにピッタリだ。姿鏡に映る自分の姿を見つめ、思わずキリッとした表情を作ってポーズを決めてみる。うん、なかなか似合っているんじゃないか?
「はぁ……あんたって、実は相当なナルシストだったのね。鏡の前でわざわざカッコつけて表情なんて作っちゃって……」
「~~~っ!?」
横から冷ややかな声が聞こえ、俺は跳ね上がった。しまった! あまりの格好良さに自分の世界へ入り込んでしまっていた!
赤面しながら言い訳をしようとクレアの方へ振り返ると——そこにいたのは、純白の衣装に身を包んだ一人の天使……いや、クレアだった。
白を基調とした洗練されたデザインの旅装。軽やかな裾が揺れ、彼女の凛とした佇まいと美しい金髪をこれ以上なく引き立てている。
「な、何よジロジロ見て! この変態! ナルシストで変態だなんて最悪の組み合わせね!」
「誰がナルシストで変態だ! 両方とも断固として否定するぞ!」
見た目は天使でも中身は相変わらずだ。……だが、不覚にもその可憐な姿に見とれてしまったのは事実だった。
「いや……すごく似合ってると思ってさ」
俺が素直な感想を口にすると、クレアは一瞬目を見開いた。
「ば、バカ! 急に何言ってるのよ! 本当に頭までおかしくなったんじゃないの!?」
いつもの強気な口調こそ崩さなかったが、彼女の白い頬が朱に染まるのを、俺は見逃さなかった。……ふん、案外チョロいところもあるじゃないか。
お読みいただきありがとうございました!
少しでも「面白い」「次も読みたい」と感じていただけたら、下の「★」評価やブックマーク登録をしていただけると泣いて喜びます!




