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剛剣の姫と、至高の魔〜いつか君を超えて、その手を掴むまで〜  作者: Kuran


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第三十一話:無職の三人と、新しい仕事

 俺たちはいつまでも更地の前で立ち話をしているわけにもいかず、平民街にあるこじんまりとした喫茶店へと向かった。この街には、一線を画す「貴族街」と「平民街」が存在し、貴族以外の市民のほとんどがこの平民街で生活を営んでいる。ちなみに、この二つの区画を合わせた都市名が「アイスライト」なのだが、国名もまったく同じ「アイスライト王国」なので非常に紛らわしい。


「私……こういう大衆的なお店に来るの、初めてだわ」


 案内された小さめの木製テーブルに腰を下ろすと、クレアはどこか物珍しそうに店内をキョロキョロと見回した。


 お世辞にも清潔で洗練されているとは言い難く、飾り気のない店内はまさに庶民の憩いの場という佇まいだ。高級品や美術品の類はひとつもなく、奥の厨房では年老いた老夫婦が二人で手際よく切り盛りしていた。


「ふふ、クレアさんもこれからは庶民の暮らしに少しずつ慣れていかないとね。今の私たちは平民なんですから」


「う……」


 エミリーさんにたしなめられ、クレアは不満そうに口を尖らせて横を向いた。


「それで、エミリーさん。さっき言っていたすっごく良い考えって一体何なんですか?」


 俺が尋ねると、エミリーさんはそれまでの柔らかい笑みを消し、真剣な表情へと切り替えた。両肘をガタつくテーブルにつき、組んだ手の上に顎を乗せる。まるで重大な作戦を告げる参謀のようなポーズだ。


「……あなたたち、今手元に現金はどれくらいあるかしら?」


「えっ……俺は、手持ち五千ピアくらいです」


「私も、実家と一緒に財産の大部分が差し押さえられてしまったので……二万ピアほどしか」


 エミリーさんはふむふむと深く頷きながら二人の懐事情に耳を傾けた。


「ちなみに、私の手持ちが三万ピア。つまり、三人合わせた総資産は五万五千ピアね。……さて、家を失い、爵位も肩書も剥奪された無職の三人組が、この都市で明日からどうやって生き延びていきましょうか?」


「あ……」


 提示された現実に、俺の背筋に冷や汗が流れた。


 そうだった。住む家を失ったダメージはあまりにも絶大だ。宿を借りるという選択肢もあるが、いくら平民街の安宿でも、まともな屋根のある部屋なら一晩で一部屋五千ピアは下らない。食事代や生活消耗品まで含めれば、一週間もしないうちに俺たちの資金は底をつき、路頭に迷うことになる。


 早急に、かつまとまった額の現金を稼ぎ出す手段を確保しなければ——そう思い焦って隣のクレアを見やると、彼女は至極平然とした顔で高級そうな紅茶を啜っていた。


 あ、これ……この危機的状況のやばさを全然理解してない顔だ……


 今までお金の苦労など一回もしたことがなさそうな元・超絶良家の令嬢である。現実感が湧いていないのも無理はない。


「ちなみにクレアさん、これまでに働いた経験や、人に誇れる特技なんかはあるかしら?」


 エミリーさんの問いかけに、クレアは途端に決まりの悪い顔をして身を縮めた。


「働いた経験は……ないわ。得意なこと……と言われても、相手を叩きのめすくらいしか……」


 それも無理はない話だ。このアイスライト王国において貴族とは何よりも強者であることを求められる存在だ。立ちふさがる敵や魔物を圧倒的な力で排撃することこそが彼らの仕事であり、それだけで潤沢な報酬が約束されていた。


 一方で、力を持たない平民たちは細々と育てた作物を売ったり、芸を見せたり、あるいは貴族の屋敷に雇われたりして日銭を稼いでいる。気位が高く、接客など想像もつかないクレアにそんな真似ができるはずもなかった。


「で、でもエミリーさん! 考えがあるんですよね!?」


 俺はすがるような思いでエミリーさんに身を乗り出した。


「ええ、もちろんあるわ。私たち三人組にこれ以上ないほどぴったりで、しかも桁違いに稼げるお仕事がね。きっとクレアさんにとっても、絶好の活躍の場になるはずよ」


 エミリーさんが不敵にニヤリと唇を歪めた。その笑みを見た瞬間、俺の脳裏にもひとつの職業が鮮烈に浮かび上がった。


「その仕事って……まさか」


「そう!——『ハンター』よ!」


 ハンター。


 その名の通り、荒野や密林を駆け巡り、狩りを生業とする人々だ。しかし彼らが狙うのは、単なる猪や熊といった野生動物ではない。彼らの主たる標的は——魔物である。


 動物に似た不気味な獣型から、知恵をつけ人に似た容姿を持つ人間型、さらには城塞ほどもある巨躯を誇るものまで、魔物の形態は多種多様だ。その凶暴性と異能は、通常の野生動物の比ではない。


 魔物は腕力や体力が圧倒的であるだけでなく、個体によっては高度な知性や魔法すら行使する。発生原因はいまだ解明されておらず、山深き森や地下洞窟から突如として湧き出し、放っておけば人間たちの食料となる家畜や作物を食い荒らし、最悪の場合は街や村を一夜にして灰に帰す悪夢の存在だ。


 その脅威から人々を守る防波堤こそが、ハンターという存在である。


 場合によっては王国の「騎士団」が出動することもあるが、彼らの本分はあくまで対人戦——他国との戦争や防衛だ。それゆえ、魔物退治の専門家として機能しているのがハンターであり、無事に大型の魔物を討伐・討滅できれば、一度の依頼で信じられないほどの巨額の報酬が転がり込んでくる。


 実力がありながら家柄や素行のせいで貴族になれなかった者や、一発逆転を狙う命知らずの猛者たちがこぞって集まるロマンの世界でもあった。


「ハンターはハンターズギルドという組織によって一括管理されているわ。ギルドで正式に登録すれば、自分の実力に見合ったクエストを受注できるようになるの。依頼のランクはFからSに分けられていて、Sランクに近づくほど魔物の危険度は跳ね上がるけれど、そのぶん報酬は村をひとつ買えるレベルで莫大になるわ。……アイスライト王国には現在三人の『Sランクハンター』が存在するらしいけれどね」


 エミリーさんの流れるような解説を聞きながら、俺は大きく頷いた。

 確かに、いまのクレアにとってこれ以上ない打ってつけの職種だ。彼女の性格からして、愛想笑いを振りまく接客業なんて逆立ちしても無理だし、誰かの下で指図を受けることなんて到底耐えられないだろう。


 その点、ハンターに求められるのは純粋な強さと結果だけだ。今はまだ怪我を負っているクレアだが、万全の状態に戻りさえすれば、並の魔物など蹴散らしてくれるに違いない。


 何より、元・騎士団であるエミリーさんという強力な前衛・指導者がいて、クレアという圧倒的な火力がいる。この三人でパーティを組めば、安全かつ効率的にお金を稼ぎ出せるはずだ。俺自身も、対人戦と違って本気で力を振るうことができる。


 ボルタをぶちのめすための力を蓄える意味でも、ハンターになるのは最高の選択肢だ……!


「……なぁ、クレア。どう思う?」


 俺が隣の少女に問いかけると、クレアはカップをテーブルに置き、勝ち誇ったような不敵な笑みを浮かべた。


「面白いじゃない! いいわ、やるからには生ぬるいランクなんて飛び越えて、一気にSランクまで駆け上がってやるわよ! 貴族の世界でもハンターの世界でも、私はトップに君臨して見せるんだから!」


 彼女の双眼にはメラメラと野心の炎が燃え盛っていた。


「ははっ、それでこそクレアだ。……エミリーさん、決まりました。俺たち、ハンターになります!」

お読みいただきありがとうございました!


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