Ep.11
ぺちぺちと、顔に柔らかい何かがぶつけられる感触がする。俺はそれに反応して、ゆっくりと目を開けた。
すると眼前には知らない天井。加えて、見知らぬ美少女の顔が目の前でこちらをじっと見つめている。
「うわっ!あっ、えっ...?だ、誰...?」
「...おーい、起きたよ。新入り。」
「あっ北島くん起きた?あれだねぇ...なんか、デジャブ?」
見知らぬ美少女の後に続いて、俺の眼前に飛び込んできたのは見知った美人。黒崎さんがこちらへとゆっくり近づいてきて、また前のように俺を触診する。
「見たところ、今回は命に別状のある怪我じゃないから、私の力は使わないよ。それでいいね?」
「...はい、特段痛む箇所も...!あっ痛い!黒崎さん!めちゃめちゃ痛いです!」
脳みその整理が追い着いてきたからか、戦闘時はアドレナリンで感じなかった分の痛みが、俺の四肢を襲う。
浅いとは言え、それでも植物の棘で肉を抉られたのだ。逆に、痛い程度で済んでいるのが奇跡なのだろう。
ただそれとは別に、痛いものは痛い。俺は苦痛に顔を歪ませながら、気を紛らわすため視界を広げて周囲を見回す。
黒崎さんの家ではない、中々に広めの独立した寝室。そうして俺が寝ている味気のないベッドの向こうには、ゲーム用のパソコンと美少女が座るゲーミングチェア。
「...あかね、わたしの自己紹介。して。」
「自己紹介は自分でやるものよ。恥ずかしがってないで、ほら。」
黒髪ロングの黒崎さんとは対照的な、白髪ショートの美少女がこちらを見つめている。年齢は大体、高校生ぐらいだろうか。
だるんとした部屋着のパーカーに身を包み、美少女は恥ずかしいのかフードの紐をキュッと引いて顔を隠す。
「...らめか。勿忘らめか。よろしく後輩。」
「北島です。北島白秋。お願いします先輩。」
先輩と呼ばれた事が余程嬉しかったのか、彼女は顔を隠している布の向こうで、ムフーと息を吐く。
そんな少女の自慢げな仕草にほっこり心を和ませていると、更に奥からゾロゾロと男二人が顔を出した。
「北島くん起きたって?良かったぁ〜無事で。」
「...はっ、あの程度の傷で人が死ぬかよ。」
熊倉くんと、それから火宮。その二人が空間に加わったことで、中々に広かったはずの寝室がやや手狭になる。
そうして最終的に、薄暗い寝室に集まったのは五人。見知った顔が三つと、さっき知った顔が一つ。
それぞれが顔を付き合わせて、少しの沈黙が生まれた。しかし一呼吸置いた後、黒崎さんがその静寂を打ち破る。
「はいはい、全員集まったから定例会議ね。じゃあ...まずは新入りの北島くん!一言挨拶を!」
「えっ?!きゅ、急〜。あーっと、北島です。趣味は...やっぱゲーム...とか?」
戸惑いながら俺が自己紹介をしている間、熊倉くんは小声で頑張れと俺のことを励ましてくれていた。
そんな風に、急な振りに若干の緊張を見せながら、俺は何とかつつがなく自己紹介を終わらせる。
ただ一つ、予想外だったのは火宮のことだ。俺はてっきり、また以前のように色々突っかかって来るのかと思っていた。
しかしそんな予想とは裏腹に、火宮は終始無言を貫き、最終的には何も言わずに不機嫌そうな顔で拍手をしていた。
「ってことで、北島くん。ようこそ!私たちのチーム、『ホール・アンブレラ』へ!」
『ホール・アンブレラ』、穴の空いた傘。黒崎さんが言うには、「あなたと一緒に濡れてあげられるように」という意味が込められているそうだ。
「もう聞いてるとは思うけど...一応僕からも説明するね。僕たちの目的と...それから、僕たちが何をするのか。」
最終目標は人喰いモルフ集団、『シャーデンフロイデ』の壊滅。その他にも、モルフに襲われている人を助けたり、人喰いを繰り返すモルフを撃退したりなど色々。
端的に言うなれば、正義のモルフ集団という訳だ。勧善懲悪、誰かのために力を使う。とても清廉で、聞こえのいい言葉たち。
そのはずなのに、どうしてか俺の手にはまだ人を殺した時の感触が残っていた。殺したのは、紛れもない悪人なのに。
「...後輩、先輩の言葉を聞けー。」
「...あ、はい!なんでしょう先輩。」
「モルフには強さに応じた、等級があるのだ〜。」
ぼーっとしていて心在らずな俺を咎めるように、先輩がモルフについての解説をくどくどと始める。
「下から順にー、六等星、五等星、四等星。みたいなー。」
六から一までの、星に準えた等級。それぞれ格が一つ上がる事に、強さは大体2.5倍上がるらしい。
「六等星はー...めっちゃ弱い。...わたし、六等星。」
「私と一緒で、らめかは戦闘向きの能力じゃないからね〜。あっ、ちなみに私も六等だよ。」
俺は受けた説明を、頭の中で再度反芻しながら整理する。要するに、等級は強さだけの格付けらしく、その物差しだけで能力の全体像は測れないようだ。
基本的に、六等星は完全に非戦闘用の能力。戦いにおいては、一般人と遜色のない程度の力しか持たない。
五等星は戦闘にも使えるが、それでもメインは非戦闘用のもの。大体、刀を持った普通の人間と同じぐらいのレベル。
四等星は戦闘向きではあるものの、比較的強くは無い力。拳銃を持った人間と同格レベルで、甲冑の男もこの辺りらしい。
三等星は戦闘において、概ね優位を取れるほどの力。人間だとプロの軍人がライフルや手榴弾などを持って、ようやく安心できるレベル。
「僕らが戦った花屋も、多分三等星ってところかな。野良のモルフだと、これ以上は中々見ないね。」
二等星はほぼ最上位。戦闘においても上澄みのモルフのみがここに位置し、『シャーデンフロイデ』の主要メンバーは殆どがこのランク。ここまで来ると人間個人では対処できないため、モルフ以外が討伐するためには軍隊の導入が必須になる。
そうして最後、最も輝く一等星。ここに配置されるモルフは、観測されている過去全てのモルフを含めてものべ十人に満たない。
「シャーデンフロイデ』の首領。今は亡き、かつての『ホール・アンブレラ』のボス。現在消息不明、野良の中でも最強と呼ばれた在野の伝説。
エトセトラ。他にも一等星のモルフは少数ながら、確かにその輝きを持って存在している。その強さは、最早常識で測ることを許さない。
超規格外のエクストラ。輝き褪せぬ一等星ともあいなれば、単一独力での日本征服すら可能となる。
ここまで頭の中を整理して、等級に関しての事柄は理解できた。しかし、俺の頭の中には一つの疑問が浮かび上がる。
「あの...この等級付けって、誰がどうやってやってるんですか?」
「...よく聞いた、後輩。その等級付けたの、わたし。」
「...マジすか。」
一気に、さっきまで整理していた事が馬鹿らしく思えてきた。もしかすると俺は、中二病少女の妄想語りを真面目に聞いていたのかもしれない。
「おい、一応コイツの言ってることは本当だ。昏腑で監視カメラとか、視界を接続出来んだよ。そんで、見たヤツの強さも大体分かる。」
前言撤回。やっぱり、先輩はすごい。火宮が入れてくれたフォローのおかげで、先輩の言っている事が能力に裏付けされた事実だと理解でき、ようやくすんなりと飲み込むことが出来た。
「...信じてなかったなー後輩。焼きそばパン買わすぞ、こら。」
「ういっす。ダッシュで買ってきますよ、先輩。」
何とか茶化して誤魔化すことに成功した俺は、そのまま会話を続けつつ事なきを得た。そうしてある程度会話に区切りが着いた時、先輩がまた口を開く。
「そういえばー、等級。ネットに公開してみた。面白いかと思って。」
「「「「えっ...?!?!」」」」
今日一番の爆弾が、寝室で静かに爆発した。




