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第九章② マクシミリアン隊

 食堂にはマクシミリアン・ブーケ隊の全員が揃っていた。疲労の色はあるものの、勝利の余韻と緊張の残る空気が混ざっている。

 マクシムは隊の中心に立ち、静かに皆の視線を集めた。

「皆さん。先ほどの戦闘について、経緯を話します」

 その声は低く重みを伴っていた。

「攫われた後、僕はブレスト港にいました。そこでフェルナンドと出会い、彼はエドガーと決裂した末に負傷しました」

 隊員たちは息を呑む。マクシムは続けた。

「その後、五鬼衆が動きました。彼らは最初からエドガーを討つために大掛かりな計画を立て、完全に計算した上で動いていたのです」

 静まり返る食堂。皆が言葉を飲み込む中、マクシムの目は隊員一人一人に向けられる。

「僕も彼らと一時的に協力しました。これは裏切りではありません。状況に応じた行動です。結果として、エドガーを討つことができました」

 隊員たちは互いに視線を交わす。驚きと安堵、そして複雑な感情が入り混じる。

「詳しい作戦の内容や五鬼衆の動き方は長くなりますが、僕たちが勝利できたのは皆の協力があったからです。全員に感謝します」

 マクシムの言葉に隊員たちは静かに頷き、拳を握る者もいる。戦いの重さとその結末が、ようやく心の中で整理され始めた瞬間だった。

 マクシムは隊員たちを見渡しながら声を落として語り始めた。

「僕が意識を取り戻した時、マストにぐるぐる巻きにされていました。気を失ったフリをしていたのですが、その間に彼らの会話から計画の全貌が少しずつ見えてきたのです」

 隊員たちの目が光る。重苦しい沈黙の中、息を呑む音があちこちで重なった。彼らの視線が、ひとしくマクシムの口元へと集まっていく。

 マクシムは一瞬言葉を切り、あえて緊張を引き延ばすかのように目を伏せ、それから再び顔を上げた。

「まず、大まかな計画を立てたのはニールです。彼はリー・ウェンに必要な情報を渡し、僕とエドガーが接触できる状況を作るため、白兵戦の仕掛けを緻密に考えました」

 リラが小さく息を呑む。

「攫った後、僕をどう動かしたか。エドガーの船から小型ガレオン船に乗り移り、ブレスト港へ向かうというものでした。操舵を担当したのはジャスパーです。あの操船技術があったからこそ、全てが滑らかに運んだ」

 シャルルも思わず前のめりになる。

「さらに、コリンは目眩し用にわざわざ白煙が出る爆弾を作っていました。あれがなければ、僕を取り巻く混乱はここまで完璧ではなかったでしょう」

 隊員たちは息を呑み、驚嘆の声を漏らす。

「マテオの動きについては、正直わかりません。何をしていたのか…それだけ謎です」

 そしてマクシムの目が遠くを見るように静かに語る。

「後になって分かったことですが、ルキフェルだけは他の四人と違う処遇を受けていたようです。彼は海賊船団で暴れ回り、文字通り戦場の中心で独自の役割を果たしていた」

 リラが息を飲み、シャルルが言葉を失う。その時、ジョルジュが驚きでつい声を上げる。

「あー! あの、後方の海賊船が次々と沈んでいった、あの謎現象!? まさか、全てルキフェルの仕業だったのですか?!」

 彼の言葉を発端に部隊全員がざわつき始める。

「……おかしいと思ってたんだ。突然、船同士が衝突したり、別の船団は爆発したり、誰があの混乱を招いているのか海軍側でも不可解な現象として映っていた」

 サミュエルが頭を抱えて苦悶しているのを受け、スザンヌも信じられないという顔で首を横に振る。

「だとしても、ルキフェル単独で行ってたというんですか? そんなの信じられません」

 ペネロペがスザンヌに続いて口を開く。

「……ごめん、やっぱ何も言えないや」

 ペネロペの声が途切れると、場には重たい沈黙が落ちた。その静寂を破ったのは、ダヴィットの拳が叩きつけられる鋭い音だった。

「だったら俺が言わせてもらう! あいつ……頭もやることもおかしすぎる!」

 沈黙の最中、ロザリーが一人つぶやく。

「……私たちが行った海賊撹乱作戦を、一人でやってのけたってことよね」

 彼女の隣で聞いていたアニータがテーブルに肘をつけてため息を吐く。

「じゃなかったら、その怪奇現象も説明がつかないわ」

 アニータの言葉に静まり返る食堂。その中で、マクシムは静かに結論づけた。

「つまり、五鬼衆全員がそれぞれの役割を最大限に活かし、僕とエドガーの接触機会を作るために完璧に連携していたということです。偶然など一切ありません。すべて計算され尽くした戦いだったのです」

 マクシムの説明が一段落すると、グウェナエルは顔を紅潮させて拳を握りしめた。

「それなら、この勝利は……五鬼衆の手の内にあったってことか? だったら、早くエドガーを仕留めてくれれば、こんな血は流れなかったのに!」

 彼が怒りの混じった声で叫ぶ。

 リラは視線を伏せて苦笑いを浮かべながらダヴィットに小声で囁く。

「白煙の爆弾って……まさかコリンお手製だったなんて。私たち、あんなので簡単に惑わされるなんて…恥ずかしい」

 ダヴィットも顔を赤らめ、思わず頭をかいた。

「そうだな……まんまと引っかかって、あれは反省だ」

 シャルルは口元に手をやって震えながら小声で呟いた。

「ニール……まさかあんな奇抜な策士だったとは……運まで視野に入れた計画性……。私には真似できない」

 それを聞いたダヴィットが少し興奮気味に補足した。

「ニールは言っていました。『自分たちがエドガーを殺すから』と」

 その言葉が投げ込まれた瞬間、食堂のざわめきがぴたりと止まった。

 誰もが言葉を失い、ただ互いの顔色を窺った。五鬼衆の本心に触れた気がして、背筋を冷たいものが這った。

 マクシムはそれぞれの反応を見渡し、静かに息を吐く。

 隊員たちは少しずつ落ち着きを取り戻しつつも、それぞれ胸の奥で戦場の記憶と恐怖を反芻していた。

 ソフィーとマクシムは隊員たちの前に何も言えなかった。

 マクシムは傷だらけの身体を少しでも休めようと肩を落とすが、表情は複雑で隊員たちの混乱と恐怖を前に言葉が出ない。それに勝利の喜びよりも犠牲と恐怖の重さが勝っていて、それが余計に彼を苦しめた。

 ソフィーもまた首に巻いた包帯を軽く押さえながら、医師として平静を装おうと努めていた。だが胸の奥でざわめく感情は収まらず、ただ静かに隊員たちの姿を見守るしかなかった。互いに目配せをするが、言葉は交わされない。共有された沈黙の中に、戦いの重みと勝利の裏に潜む複雑な現実が漂っていた。隊員たちはまだ心の整理がつかない。ソフィーもマクシムも、今は何も言わずにその場に立ち続けるしかなかった。

 沈黙が続く食堂の中、マクシムは静かに口を開いた。

「皆、今日は自室で休むように」

 隊員たちは少し驚いた表情を浮かべながらも頷き、疲れた足取りでそれぞれの部屋へと退散していった。廊下に足音が残るだけで、すぐに宿舎内は静寂を取り戻す。

 落ち着いたところでマクシムはグウェナエル、シャルル、リラに声をかけた。

「少し話がある。僕の執務室に来てほしい」

 三人が軽く頷くとマクシムはふとソフィーの方を振り返り、柔らかく言った。

「君も来るように」

 ソフィーは小さく微笑み、わずかに頭を下げる。疲れと複雑な思いを抱えたまま、四人は宿舎内の廊下を静かに進み、執務室へと向かった。


 廊下に残された静けさの中、戦いの痕跡と今後への思いがそれぞれの胸に重くのしかかる。

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