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第八章③ マクシムと五鬼衆

 マクシムは二刀を構え、ルキフェルと並ぶ。背後には海賊たちが隊列を整え、

 フェルナンドは膝に手をつき、血を滴らせながらもソフィーに治療されている。

「大丈夫、少しだけ我慢して」

 ソフィーが手際よく傷を押さえ、布で止血する。

「……ああ、ありがとな」

 フェルナンドの声には痛みと安堵が混ざる。傷つきながらも彼は戦闘を見据える目を逸らさない。

 夕陽が低く傾き、石畳に長い影を落とす。

 エドガーが一歩踏み出すその瞬間、空気が引き締まった。彼らの背後の波音すら止まったかのように、世界は一瞬、静止する。

「てめえら、ここまでか?」

 エドガーの言葉には特に反応を示さず、ルキフェルの瞳が翡翠色に光る。

 マクシムは二刀を軽く振り、戦闘態勢に入る。

 刹那、港全体の音が戦場の呼吸と同期するかのように緊張が走った。

 フェルナンドの治療を終えたソフィーは、彼の傍で小刻みに震える手を握る。心の中で祈る。

「お願い、無事で……」

 だが、その視線の先には迫りくるエドガーの影、まるで戦場を支配する悪魔のようだ。港の石畳は血と砂煙で濡れ、戦場の匂いが空気を支配する。

 エドガーは背中の傷をものともせず剣を握り直す。その瞳は冷酷で、全ての動きを見通している。

 対するはマクシムと五鬼衆──ルキフェル、マテオ、ジャスパー、コリン、ニール。

 彼らの構えはまるで一枚の生きた絵画。瞬間、全員の視線と呼吸が戦場に同調する。

 小柄なコリンが石畳を滑るように前へ。刃が火花を散らし、エドガーの防御をかすめる。

「ぐっ!」

 エドガーの手元に刃の振動が伝わり、わずかな隙間が生まれる。

 その隙を見逃さず、ニールが横から斬り込む。剣が光を受けて弧を描き、エドガーの身体がわずかに反応する。

 マテオが片手に銃、片手に剣。太ももに放たれた弾丸がかすかに弾ける音を立てるが、エドガーは微動だにせず立つ。

 ソフィーは息を飲み、「え……なんで動けるの……?」と思わず呟いた。

 ジャスパーの連結剣が宙を舞い、エドガーの腕や足元を牽制。だがエドガーは俊敏に躱しつつ反撃。

 ルキフェルの翡翠色の瞳が光り、東洋武術特有の柔軟かつ鋭い動きで斬撃を浴びせる。

 マクシムは二刀流で正面と側面から攻め、圧力を増幅。斬撃が交錯するたびに火花が散り、石畳の擦れる音が鳴り響く。汗と血が入り混じる濃密な空気が港全体を支配。

 エドガーの瞳に初めて焦りが滲む。

「……動きが読まれる……!」

 マクシムの二刀が交差し、ルキフェルの斬撃がエドガーの背後から迫る。

 怒りに震えるエドガーも反撃するが、ルキフェルが角度を変えながら背後から斬り込み、マクシムが正面から切り込む。二人の呼吸は完全に同期し、もはやエドガーに逃げ場はない。

 港の端まで追い詰められるエドガー。背後は海、正面はマクシムとルキフェル。後退は不可能。

「これで最後!」

 マクシムの声が波止場全体に響く。

 ルキフェルが瞬間的に踏み込み、二人の連携が交差する斬撃がエドガーの胸を貫く。

 エドガーは苦悶の声をあげ、石畳に膝をつく。

 ルキフェルとマクシムは絶妙な間合いを保ち、斬撃の圧力を維持。

 最後にルキフェルの剣が胸を貫く瞬間、エドガーの目が虚ろに揺れ、やがて力尽きた。

 港に一瞬の静寂が訪れる。砕ける波の音だけが戦いの痕跡を静かに刻む。

 マクシムは剣を下ろし、荒い息をつきながらルキフェルを見つめる。

「……終わった」

 ルキフェルは静かに頷き、濡れた髪を払って海を見つめる。遠くで揺れる帆影だけが戦闘の痕跡を告げていた。

 マクシムは深く息をつき、剣をしっかりと握ったまま立ち尽くす。

 二人の瞳に、勝利の達成感と戦いの激しさに染まった疲労が混じっていた。

 フェルナンドが血で濡れた腕や衣服をソフィーに支えられながら、やっと安堵の表情を見せる。

 ルキフェルは戦場を見渡して言った。

「……これで、一旦は終わりだ」

 波止場の上ではジャスパー、マテオ、コリン、ニールもそれぞれ剣を下ろし、互いに顔を見合わせる。笑みは浮かべずとも緊張の糸がほどけ、胸を撫で下ろす瞬間だった。

 ジャスパーが連結剣を脇に置き、少し照れくさそうに呟く。

「……あー、これ難しいよ……」

 ニールが頷き、軽く剣を掲げる。

「いや、逆によく使おうと思ったね」

 マテオはふうと息を吐きながらも、ルキフェルの方に目を向ける。

「ルカ、これで満足か?」

 ルキフェルは軽く笑みを返し、肩で水を払いながら答える。

「ああ、計画は成功だな」

 コリンも感心混じりに声を上げる。

「ここまでやるなんて……ぼくたち、本当に鬼って言われるわけだ」

 ソフィーは小さくうなずき、傷ついた身体を休めながらも仲間たちの顔を見渡す。波止場の向こうには砕ける波と空に反射する光が戦いの影を少しずつ溶かしていく。夜明け前の海のように静かで、確かな再生の気配が漂っていた。

 ルキフェルは静かに剣を手に持ち、東洋の武士のように袖で血を拭った。

 その動作は無駄がなく、かつ凛としていて波止場のざわめきを一瞬止めたかのように見えた。

「……さて」

 突如、ルキフェルは切先をマクシムに向けた。彼の声には単なる命令ではなく、重みと緊張が混じっている。

「お前に話がある。他ならぬ、ベルナルド・シルバのことだ」

 マクシムの瞳が一瞬、鋭く光る。彼の体が無意識に構え直され、二人は鍔迫り合いに突入する。

 二振りの剣がぶつかり、火花は散らずとも緊張の空気が波止場を震わせた。だが、軽く弾き返された瞬間、マクシムは周囲を警戒し、五鬼衆に囲まれる。

 ソフィーとフェルナンドはその光景を目にして困惑と不安が交錯する。

「やはり、あなた方は覚えていたのですか」

 マクシムの声は怒りと悲しみを含んでいた。

「三年前の、あの日のことを——」

 マクシムの脳裏に記憶の断片が鮮明に甦る。

 

 フランソワ海賊団が私掠免状を剥奪され、サン・マロを追い出されたあの日。

 混乱の中、マクシムが己の手でベルナルド・シルバの命を奪った瞬間。

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