表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/69

第七章⑤ ???

 潮の匂いと木の軋みが漂う、寂れた桟橋。

 戦場の喧騒は遠く、ここだけが異様な静けさに包まれていた。


 波間がざわめくその瞬間、桟橋の縁から濡れた両手がヌルリと現れ、音もなく木板を握りしめる。

 海面が割れ、泡立つ水の中から、ずぶ濡れの男がゆっくりと這い上がってくる。

 陽光が容赦なく照らし出したその顔は、傷だらけだった。

 額から頬へと斜めに走る深い裂傷はまるで顔を断ち割ったかのようで、癒えた皮膚は白く盛り上がり、他の細かな切創や鞭痕と入り乱れていた。

 どの傷が古く、どの傷が新しいのか判別できず、元の顔立ちは想像すらできない。

 そして——翡翠色の瞳が、陽光を受けて異様な輝きを放った。

 澄んだ海の底を覗き込むような冷たさと、その奥底に潜む獰猛さが見る者の背筋を凍らせる。

 濡れた暗褐色の髪から滴る水が桟橋の木板にぽたぽたと落ちるたび、乾いた音が昼の静寂に響く。


 ルキフェルは言葉を発さず、一歩、また一歩と桟橋を進む。

 その足取りは遅いが、確実に獲物との距離を詰める獣のそれだった。


 陽光に照らされ、すべての傷と表情が曝されてもなお……

 いや、曝されたがゆえにその姿は恐ろしく、人間離れして見えた。


 海軍の誰もが恐れを込めて呼ぶ異名——「鬼」。

 それが今、白昼の下に現れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ