034 戦い終わって日が明けて
AMI歴12年6月1日 白銀楼市 河川敷
宮代伊織
「ふあぁぁ・・・・・」
「ふふ、伊織眠そうね」
「うん、もう奏ちゃんにかけてもらった覚醒の呪いも切れちゃったのかな?」
「伊織ちゃんはおこちゃまだから寝むらないとダメなのね」
二人で走っていると、後ろから追いついて来た羽依が語り掛けてきた。
「あ、羽依ちゃんと来たのね」
「なんで二人は平気なのさ・・・」
襲い掛かって来る倦怠感に世の不公平を嘆きながら、いつもの河原をランニングしながら道場へ向かう。
いつもは清々しい気持ちにさせてくれる朝日の輝きが、今日ばかりは恨めしい。
色々な事があった砂金神社の長い夜から、いつも通りの日常へ戻る朝のルーティン。
ちなみに父親は帰国してからこっち、朝練には欠かさず顔を出している。
まぁ所属している格闘ジムが開く時間になるとそっちへ行ってしまうのだけど。
徹夜明けの眠い目をこすりながら辿り着いた道場では、珍しく父親と祖父が向かい合って話をしていた、何事かと聞き耳を立てると思っても無い会話が聞こえてきた。
「親父、俺は美沙と再婚する事にした、美沙も受け入れてくれた」
「・・・そうか・・・わかった、おめでとう」
え?何て??
「わー!おめでとうおじさん!!これからはお父さん?」
「おめでとうございます、これからもよろしくお願いしますお父様」
まさか父さんてば僕達が砂金神社に外泊してる間に美沙母さんにプロポーズしてたの!?
「え?おっおめでとう??」
「おう、ありがとうな」
呆然としつつお祝いを述べる僕に対し、珍しくテンションが上がった玲ちゃんとある意味いつも通りな羽依がお父さんを質問責めにしていた。
父さんの気持ちは先日聞いていたけど、急な話の展開とテンションに付いて行けない僕は、徹夜明けの反動もあってその日は稽古に全然身が入らなかった。
普段なら祖父から叱責がありそうな出来だったと思うけど、父親の再婚にショックを受けていると受け止められたのか、祖父が珍しく優しく気遣ってくれた。
ゴメンよお爺ちゃん、今僕が腑抜けている理由の最たるものは単純に寝不足で頭がボーっとしてる事なんだ。
「おじさんやるねぇ!ははーんさては私達が留守なのを良い事に昨夜はお母さんとお楽しみでしたね!!」
「ぶっ、ちょっまっ、羽依!お前なんて事を!!」
羽依の言葉に珍しく慌てた様子の父さん。
お楽しみってなんだ?プロポーズの事??にしては言い方変じゃない?
僕が不思議そうな顔をしているとこちらを振り返った羽依がニヤリと笑みを浮かべる。
「あー、伊織ちゃんにはまだ早いね!大丈夫、今度じっくり教えてあげるから!!」
「大人をからかわないの」
ゴンッ
「あ痛っ!!・・・ぐぐぐぐぐ」
脳天に玲ちゃんの鉄拳制裁を受け、頭を抱えてうずくまる羽依だった。
うーん、頭がボーっとしてきて思考回路がちゃんと動いてくれないけど、要するにお父さんと美沙母さんが再婚して、僕と玲ちゃん達は乳姉妹から義姉妹になるって事なのか。
・・・何か今までと何がどう変わるのか分かんないや。
ふう、昨夜の剣呑な騒動からすると信じられ無い程随分と落差のある平和な展開だなぁ・・・
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AMI歴12年6月15日 19:00 央華連邦共和国 首都 央華京市
伏虎雷公子
「これより伏虎雷公子の査問会を始める」
「質問に対し事実のみを答えるように」
「この場での偽証は許されない、もし偽証が発覚した場合極刑も有りうると心得たまえ」
「承知しております」
「よろしい、では最初に・・・・」
私にとって心底うんざりするような不愉快な時間であった。
報告書にまとめて提出した内容を一つ一つ確認されてゆく。
尾行してきた犬上亮人との戦闘について、風神の勇者と遭遇したセーフハウスでの戦闘。
砂金神社への襲撃と、銃火器の暴発に狙撃班の全滅、砂金奏の弓と精霊魔術による反撃、風神の勇者や牛頭簒奪王をはじめとした強敵相手に、多勢で攻めながら全ての戦局で先手を取られて成すすべなく敗退した事実。
挙句の果てには転生者部隊全員が捕虜とされ、人質交換としてせっかく苦労して集めていた日本人の転生者達を全員解放する羽目に陥ってしまった。
小白竜相手に三藏郷方面軍が全滅の憂き目を見た時と同じだ、報告書が信じられず、いや報告書の内容を認めたく無いのだろう、語気を荒げて私に詰め寄るが何と言われようとこれは現実だ。
何より今はこのような茶番に時間を費やしている場合では無いだろうに。現在我が国でおこっている途轍もない問題どう対処するのかこそ真っ先に議論すべきだろうに。
「君らの言う所の魔力が少ない地球上で、砂金奏は何故これ程の魔術を行使出来たのだね?」
「その点に関しまして詳細は不明です、砂金奏は卓越した精霊魔術の使い手で彼女達には地の利があり、なんらかの方法で魔力を貯蓄するなどあらかじめ周到に準備を重ねていたのでしょう。更に言うと彼女達の仲間の一人秋月玲という少女からは小白竜と同種の力を感じました、恐らく小白竜と同種の存在・・・竜種であると思われます、彼女が何らかの形で力を貸していたのかも知れません」
私の言葉を受けて、彼らは一瞬に押し黙った後一斉に騒ぎ立てた。
「小白竜・・奴と同格の転生者が、日本にも存在すると言うのかね・・・!」
「そんな報告は受けていないぞ!?」
「竜種だと?あれ程の存在が何人もいるなど信じられない!」
「自分たちの失敗を敵の強大さの責任にしようとしてるのでは無いか?」
「そもそも君自身結局その秋月玲という少女と直接戦った訳では無いのだろう?」
「疑念を感じられるのも仕方ないと思います、秋月玲の事は明確な証拠があっての事ではありませんから、全て直接対峙した際に私が感じた印象です。内包する強大な魔力、周囲を圧する存在感、浮世離れした美しさ、一目で理解させられた戦えば死ぬという実感、それらが小白竜と対峙した時に感じたものと非常に似ていたという事です、言ってしまえばただの私の感想なので報告書には書かずにこの場で私の考えとしてお伝え致しました」
「仮に君の主張が正しかったとしたら、君達転生者部隊全員でも勝ち目は無いと・・・?」
「恐らく彼女が本気を出せば小白竜に挑んた時の再現になるかと思います」
「うぅむ・・・・にわかには信じがたい話だが、これで対日本工作は根本から見直す必要が出てきてしまった」
「日本政府がどれだけ鈍重だろうと、今回の件で日本の転生者の間で我々のこれまでの水面下での活動が明るみに出てしまった、もう今までのように拉致に頼った人材調達は難しくなるだろう」
「度し難い事に転生者のコミュニティ上で、捕虜となった君達転生者部隊は全員顔写真付きで前世のモンスターと能力が公開されてしまった・・・我々が抱える転生者の能力が世界中に明かされてしまったのだ!とんでもない大失態だ!」
「我々が欲していた転生者を見破る能力が、こんな形で我々に仇をなす結果になろうとはな・・」
「無謀な突撃のおかげでこの有様だ、君たちの今後の運用にも差し障りが出る為根本から見直す必要が生じてしまった、この責任をどう取るつもりかね?」
「私は狙撃班が無力化された時点で撤退を進言しました、突撃を強行しようとして大勢の負傷者を出し、援護が望めない状況で我々転生者のみで任務を続行しろと無茶な命令をしたのは司令官ですよ?」
「全軍撤退しようとした所、自分達だけで任務を遂行出来ると君自ら志願したと司令官からの報告書にはあるが?」
「なるほど・・・失敗したら我々の独断だと、実にあの方らしい、それであなた方は司令官の報告を本気で信じているのですか?それとも信じたフリをして私を追い込みたいだけですかね」
「なんだねその言い草は口を慎みたまえ!」
「上官侮辱罪とみなすぞ!」
「失礼しました、もしお望みとあらば司令官との会話を保存した動画をご覧にいれますよ?何が事実か猫でもわかるでしょう」
「くっ・・・」
「我々転生者部隊は何処へ行っても鬼子扱いされてきましたからね、不条理な扱いが多かったものでこんな場合の為の自衛手段ですよ、あぁ確かあの司令官はあなたの派閥の人間でしたね、どのみち最終的な判断の責任は司令官のものでしょうに」
「フンッ、まぁいいだろう責任追及は後回しにする」
「君の言う通りに日本にも小白竜に匹敵する化け物がいるのだとして・・・化け物同士が結託する可能性はあると思うか?」
「そこは何とも言えません、私の知る限り竜種と言っても同じ血族でも無い限り竜同士で殆ど交流も無いはずですし、ただ共通の敵を持つ者同士として共闘の可能性はあるかも知れませんね」
「共通の敵と言うのは・・・・」
「勿論我々央華連邦軍ですよ、日本の転生者に敵対的な行動を取ったのは早計だったかも知れませんね」
「日本政府は転生者の重要性に全く気付いていない、今の内に可能なだけ日本の転生者を確保する事が今後の戦略で必要な措置だった」
「それなら強硬策では無くまっとうな手段でスカウトすべきでしたね、今回の件が日本人の転生者の間で広まった結果、日本人の転生者同士のコミュニティが活発化しています、日本には我が国と比べてはるかに大勢の転生者がいるのです、彼らが結託すれば我々に勝ち目はありません」
「そしてもう今からまっとうな手段でスカウトしようにも、悪評が先に立ちすぎてしまったか・・」
「秋月玲がいた日本の白銀楼も、小白竜がいた三藏郷自治区も七つの月の欠片達が落下した場所です、彼女達はその月の欠片達の申し子なのかも知れません」
「なんだね、君はその日本人の他にも世界中に小白竜と同格の存在がいると言いたいのかね?」
「同じ条件の場所に特別な存在が現れた事が偶然とは思えません・・・」
「・・・・・たまたまでは無く必然だと?」
「これも根拠の無いただの勘ですが、ムーンインパクト自体が彼女らをこちらの世界へ送り込む為仕組まれたのかも知れません、他の転生者はそれに巻き込まれただけなのでは無いかと・・・」
「ムーンインパクトを仕組んだ何者かが、この途方もない馬鹿げた出来事を実行した何者かが、君らがいた異世界にいると言うのかね?そんな事が出来るなどまるで神の如き存在では無いか!!」
「まぁあなた方がどれだけその存在を否定しようとも、少なくともあちらの世界には神が実在していましたからね、私達の力がその根拠ですよ」
私がそう告げると、査問会の面々は何とも言えない表情を見せた。
白々しい空気か場を支配した一瞬の間。
「はっ!?」
その時私は、突如迫り来る強大な魔力のプレッシャーを感じ取った。
遠方からこちらへと近付いて来る魔力の塊に対し、壁越しに睨み付けるようにして意識を集中する。
「どうしたね急に?」
「伏せろっ!!」
そう叫ぶと危機感に従って私はその場に身を伏せた。
「は?」
「一体何を・・・」
ドンッ!!!
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ぎゃっ!」
強大な魔力の奔流を感じると同時に大地を揺るがす爆音が響き、衝撃で建物が激しく揺さぶられる。窓ガラスが内に向かって砕け散り、外気が凄い勢いで吹き込んでくると、合わせて身を差すような冷気が辺り一帯を白く染め上げてゆく。
査問会の面子は全員衝撃を受けて床に倒れ込み、それぞれうめき声をあげている。
「これは・・・小白竜の攻撃!?」
急激に室温が低下する中、身にまとう雷精を活性化させて冷気に対抗する。
衝撃から立ち直った私は何が起きたのか確認しようと窓の外を覗き込み、そこに信じられない光景を見る事となった。
「なぜここに・・・!?」
どうも先の戦いを書き終わって気合が抜け気味ですいません。
後日譚は1話で終わらせるには文字数が多めなので2話に分けます。
とりあえず明日のアップで2章も終わりでございまする。




