033 砂金神社攻防戦Ⅷ
AMI歴12年6月1日 砂金神社境内
石動太一郎
砂金神社に駆け込んだ俺は、そこで戦う二人の男達の姿を視界に捕らえた。
かつて良く見知った太刀筋を見紛う事は無い、俺は確認もせずにかつての「友」の名を叫んでいた。
『フィグニブ!!』
俺の声に反応してか、男の動きが止まる。
『ちっ、いい所で邪魔しやがって・・・』
対峙していた男は文句を言いながら一旦構えていた鉈を引いた、あれは一の奴に貸した鉈じゃないか。
ならばこいつが一が言っていた助っ人とやらなんだろうが・・・・
って、ひょっとしてこいつ『牛頭簒奪王』か??
「ありゃ、太一郎くん来ちゃったんだ・・・」
一の奴もいたか、しかし今は構っている場合じゃない。
『フィグニブ!!何故だ!!?雷神の勇者ともあろう者が婦女子を拐かすような真似をするなぞ!!』
俺の問いに男は振り返った。
『ボルバンなのか・・・』
『そうだ、俺だ!!』
俺と視線を合わせると、フィグニブは悲しそうなやるせなさそうな表情を見せ、何事か言いかけては口を閉ざし、数度の逡巡の後、重たそうに口を開いた。
『・・・・・俺は・・・・・これは、俺に与えられた任務だ・・・・』
そう言うと俺に背を向け、改めて目の前の男に剣を構えた。
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AMI歴12年6月1日 砂金神社境内
伏虎雷公子
『フィグニブ!!』
突然現れたかつて共に戦った戦友に、私は動揺を抑えきる事が出来なかった。
かつて誇り高く共に戦った友に、央華連邦の犬と成り下がった今の情けない自分の姿を見られたくは無かった。
私は友の声に背を向け、改めて牛頭簒奪王に斬りかかる。
だがそれは自分でも分かる程、気の抜けた攻撃にしかならなかった・・・
『ちっ・・・腑抜けやがって・・・』
当然私の気持ちの変化は相手に伝わり、大いに落胆させる結果となってしまったようだ。
それでも私は躍起になって気力と魔力を振り絞り、牛頭簒奪王と剣を交わし続けた。
『もういいぜ・・・終わりにしてやるっ!!』
私の放った渾身の剣戟が交差した鉈に受け止められ、そのまま力尽くで跳ねのけられると間合いが開いた状態でたたらを踏む事になった。
その瞬間牛頭簒奪王の身体に雷精が充満する気配を感じる、これは・・・この技はっ!!
かつて私が破った技「サンダーホーンラッシュ」!?
角の代わりに交差させた二丁の鉈を構えて身を低くした瞬間、雷精を纏った奴の身体が弾けたように加速する。
その技を放っても前世の決着の焼き直しだっ!!
カウンターを当てるべく剣を上段に構えたその時、不意に私の意識に、一人の少女の気配が入り込んで来た。
『小白竜?』
それは月のように美しい少女だった。
月明りも無く、幽かな外灯のみが照らす参道を一歩一歩近付いて来る銀色の少女。
薄暗い神社の中にあって、一人だけ浮世離れした雰囲気を纏い、儚げに照らし出された銀髪はそれでもうっすらと光り輝いて幻想的に見えた。
その美しさと、何よりその身にまとう気配がかつて対峙した純白の少女、小白竜その人をどうしようもない程に想起させた。
確か名は・・・秋月玲・・・・
その少女に意識を奪われたのはほんの刹那。
だがその一瞬の間に、牛頭簒奪王は私の眼前まで迫ろうとしていた。
私は構えた剣にありったけの雷精を込め、全力で振り下ろして宿敵を迎え撃つ。
幽かに外灯が照らす薄暗い宵闇の中、二筋の光が交差し、その一瞬で前世からの因縁を持つ私達二人の戦闘に決着が付けられた。
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AMI歴12年6月1日 砂金神社境内
十一
ギィィィィィィィィンンン
二人が激突すると、鈍い金属音が響き渡った。
雷神の勇者が振るった剣が、スキルが乗った阿波根さんの持つ鉈にへし折られたのだ。
そのままの勢いで鉈は雷神の勇者に襲い掛かり、その胴に深々と食い込んでいた。
「がはっ」
阿波根さんのスキルを受けて吹き飛ばされた雷神の勇者は、咥内に溢れた血液を吐き出している。
裂かれた胴からもとめどなく血が溢れ、これはどう見ても致命傷だと誰もが認識したと思う。
『ちっ・・・しまらねぇ結末だなてめぇオイ』
『カハッ・・すまんな・・新月の晩に突如現れた玲瓏たる月に一瞬見惚れてしまった・・・自分が手にしている武器が神剣で無い事すら失念してしまったようだ』
ちらりと玲の姉さんに視線を向ける雷神の勇者。
一番の原因は太一郎くんの姿に動揺したからだと傍目に明らかだけど、わざわざそれを指摘する人はいない。
崩れ落ちる雷神の勇者に太一郎くんが駆け寄り、その背を抱きかかえながら言葉にならない思いを口にする。
『馬鹿野郎・・・・それは、俺が鍛えた鉈だぞ・・・そんなナマクラ相手になるかよ・・・』
『そうか・・・お前が・・・・』
先程の雷神の勇者の言葉で思わず僕も自分が手にしている刀をじっと見つめてしまいます。
『神剣・・・か』
二人の戦いの最後は前世で雷神の勇者から聞いていたのと同じ流れだったのですが、武器の差がそのまま結末の差になったのでしょうか・・・・いいえ、違いますね。
雷神の勇者の心が、既に折れてしまっていたのでしょう。
致命傷を負い、太一郎くんに抱きかかえられた雷神の勇者に、奏姉さんが歩み寄ります。
『はじめてお目にかかります、雷神の勇者よ』
『月神の御子姫か・・・・弓といい魔術といい、見事なお手並みだったよ』
『はい、こんな形で出会う事になってしまい残念です』
『ハハハ・・・まったくだな、本当に残念だよ』
『大地の秘宝の奪還と、風の森の聖地奪還の折には大変なご尽力を頂きありがとうございました』
『今言う事か・・・いや、あの頃はそんな事はお互い様だろう』
『あなた程の方が、何故このような無法な真似に協力しているのですか?』
『・・・・どうせ最後か・・・・何、大した理由では無い、こっちに病気がちな妹がいるだけだ・・・まぁこのザマでは結局妹を救う事も叶わなかったが』
『病気の妹さんの為ですか・・・』
『妹だと!?お前・・・まさかこっちでも同じ運命に・・・』
首を捻る奏姉さんと対照的に、驚いた様子の太一郎くんが呻いています。
そう言えば前世で聞いた事があるような気がします、雷神の勇者が『大地の宝珠』を求めたのは妹さんを救う為だとか。
『日本は・・・・平和な・・・のんき国だな・・・これ程の力を持った転生者達が国からマークされるで無く放置され・・・自由に生きている・・・羨ましい事だ』
そう言う雷神の勇者の目から一筋の涙が零れました。
彼を抱き留める太一郎くんの瞳からも、同じように涙が零れ落ちて止まりません。
『それもいつまで続くか分かりませんがね・・・でもそんな自由に生きている者達を、あなた方は自分勝手な理由で捕らえたのですよね?その人達は一体どこに連れていかれたんです?』
『彼女達を救う気なのか・・?それで我々を生け捕りにしたか・・』
『そうですね、人質交換という形にでも出来れば』
『そうだな・・・さすがに我々全員を見殺しにしては央華連邦も釣り合いが取れまい』
『ご協力頂ければ、妹さんの事でお力になれるかも知れませんよ』
奏お姉ちゃんの言葉に一瞬目を見開いた雷神の勇者でしたが・・
『協力も何も・・・この身がもう長くは持たない事は承知しているだろうに』
雷神の勇者の自重気味な言葉を受け、奏姉さんは後ろの五十棲さんに振り返ります。
『五十棲くん・・・』
『本当にいいのか?君を狙った敵なのだぞ』
五十棲さんの質問に、奏姉さんは頷いて答えます。
『甘い事は承知してる、でも雷神の勇者は同胞たる風の森のエルフが故郷を取り戻す切っ掛けを与えてくれた恩人なのよ』
首を振りながら雷神の勇者の傍らにしゃがみこむ五十棲さん。
『なんだ・・?』
勇者の患部に手を当てると淡い光が二人を包みます。五十棲さんの額に魔力が集中するのを感じます。
『これは・・・まさか・・・癒しの力なのか・・?』
光に包まれた雷神の勇者を見て、太一郎くんの口から嗚咽が漏れます。
『おぉ・・・おぉ・・・・』
とめどなく続いていた腹部からの出血も止まり、傷跡もすっかり塞がったようです。
多くの血を流して生気を失って憔悴していた顔も、次第に生命力を取り戻してきました。
塞がった致命傷を見て、しばらく呆然としている雷神の勇者さん。
『私は・・・助かってしまったのか・・・助けられたのか』
『確約は出来ませんが、彼の力なら病の妹さんも助けられるかも知れません』
『・・・・・・』
信じられないものを見るような目で奏姉さんを見つめる雷神の勇者さん。
『拉致された方々を解放する為に手を貸してください』
『フィグニブ・・・・』
太一郎くんが勇者の肩を握る手に力を込めた事が伝わってきます。
『ふぅ、是非もなしだな・・・わかったよ』
ずっと張りつめていたものを感じさせていた雷神の勇者から、肩の力が抜けたのが分かります。
釣られて僕も肩の力が抜けるのを感じます、さすがに疲れました。
気が付くと大分空が明るんできましたね、スズメの鳴き声も聞こえてきたしそろそろ日の出も近い時間です。
「あのー・・」
皆が昇る朝日を無言で眺めていると、申し訳なさそうに師匠が声をあげました。
「さっきから全然会話の内容が分からなくて置いてけぼりなんだけど・・」
「あっ、そう言えば師匠達には前世の言葉が通じないんでした!?」
分からないなりに、空気を読んで今まで黙ってたんですね、さすが師匠です!!
「うん、それで僕達は朝の鍛錬があるから、そろそろおいとまさせて貰うね」
「お前達、この状況下でいきなり日常ルーティンに戻るのかよ・・すげぇな」
「いやだって、お爺ちゃんとの約束だし・・あふぅ・・・」
奏お姉ちゃんの覚醒の呪いも解けてしまったのか、師匠はとても眠たそうに欠伸をしています。
「そうね、もう時間になっちゃうから行きましょう、羽依はどうするの?」
「私は朝練はパス―」
「せっかく起きてるんだから久しぶりに朝練にも顔を出しなさいよ」
「えー、うーん仕方ないなぁ・・お姉ちゃんが言うなら、一息ついたら後で追いかけるよ」
「それじゃ皆お疲れ様ーまた後でー」
「あっ、うんありがとう二人ともー」
朝日が照らし始めた階段を慌ただしく駆け下りてゆく師匠と姉さん、何事も無かったかの如く日常へ戻ってゆくタフなお二人を見送り、砂金神社の長い夜がようやく終わった事を実感します。
『あの少女、竜なんだろう?』
一緒に二人を見ていた雷神の勇者が不意に問うてきました。
『・・・どうしてそう思うんです?』
『以前対峙した竜・・・小白竜と同等の圧を感じた・・・小白竜と対抗する為に、新たに同レベルの敵を作ってしまうとは央華連邦も愚かな選択をしたものだな・・・』
『まだ確定では無いのですが、貴方がそう思うって事はきっとそうなんでしょうね』
『一緒にいるあの少年は何者なんだ?』
『それは私達も知りたいです』
『え?聖銀竜王国の王子様と騎竜たる銀月の神代竜様ですよね?』
『『え?』』
『え?』
思わず答えた僕と顔を見合わせる他の面々。
え?いやわかるでしょ?あれ?この中で前世でじかに会った事あるの僕と雷神の勇者だけか?太一郎くんもあるか?
一瞬で場が変な空気に包まれた中、羽依ちゃんが呟く。
「一っちは抜けてるんだか鋭いんだか分かんないねー」
失敬な。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
砂金神社攻防戦はこれにて結末とあいなりました、群像劇であるとは言ってますが、それでもやっぱり主人公の影が薄すぎですかね。
雷神の勇者の話とか、そんなに深掘りする気も無かったのにどうしてこうなった・・・
次話・・・でまとまらなかったらもう二話使って後日譚と次章へのつなぎを書いたら2章の完結です。
繰り返しとなりますが、ここまでお付き合い頂きありがとうございます。
よろしければご感想などお聞かせ頂ければ幸いです。
何卒よろしくお願いいたします。




