032 砂金神社攻防戦Ⅶ
次話、砂金神社攻防戦の最後は夜には上げます。
AMI歴12年6月1日 砂金神社境内
十一
「これでラスト!」
最後の一人を峰打ちで叩き伏せ、これで正面から突入して来た央華連邦のゼンモン持ち達は雷神の勇者を除いて全員倒した。正直そんなに手応えは無かったと言うのが率直な感想だけど、奏お姉ちゃんの精霊結界があっての事だとは自覚している。決して調子に乗ってはいけない、師匠にも散々言われている事だしね!
「こっちは片付きましたよー?助太刀いりますかー?」
「ざけんなっ!!こっちは今盛り上がってるんだから水を差すんじゃねー!」
「・・・・」
阿波根さんと雷神の勇者は両者共に傷つき血を流しながらも勢いは衰えず、激しい剣戟を交わしている。見た所互角みたいだし、阿波根さんとの約束でもあるし野暮なマネはしないでおこうか。
まぁ、逃走だけはされないように気を配っておこう。
「それじゃあとりあえず、こいつらを捕縛してますねー」
既に大勢は決しているが、雷神の勇者は未だ諦めていないのか、真剣な面持ちで阿波根さんとの戦闘に集中している。
その様子を見た僕は気を引き締めなおし、取り急ぎ捕縛を済ませてしまおうと手を早めるのだった。
「おーやってるねー!」
「一くんおつかれさまー」
「あっ師匠!」
本堂の方から師匠と羽依ちゃんがやって来ました。当然両者とも無事のようですね、もとより心配とかは全くしてませんでしたが。
「僕の所と亮人くんの所ももう片付いて全員無事だよ、今捕まえた9人に対して奏ちゃんが昏睡を継続させる為の術式を組んでいる所で、亮人くん達もそっちの護衛に残ってる。作業が終われば皆こっちに来るよ」
「了解です!こっちもまぁ見ての通りですけど、すみませんけど手を貸して貰えますか?」
倒した相手を後ろ手に縛りあげながら答える。そして僕の言葉を無視して羽依ちゃんは阿波根さんと雷神の勇者の戦いを録画し始めていた・・・うん、君には期待してないよ。
「てめぇら真剣勝負の横で気の抜けるようなやり取りしてるんじゃねーよ!!」
「うーん、阿波根さんは空手やってる時より鉈を振り回している姿の方が生き生きしてるみたいだねぇ」
「さすがにこっち来てから始めた空手とは年季が違いますよ」
「なるほど」
「僕は前世での事もあるから慣れていますけど、師匠もさすがですね!」
「ん?」
「いや、武器を持った敵との立ち回りを演じてきたばかりとは思えない落ち着きっぷり、今も目の前で武器を持った者同士が真剣勝負しているのに全く動じた素振りも無いですし!さすが師匠心構えが違いますね」
「うっ・・・・」
僕が褒めると師匠は考え込んでしまいました、何か気になる事でもあったのでしょうか?
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AMI歴12年6月1日 砂金神社境内
阿波根達己
ちっ、マイペースな奴等だぜ・・・まぁいいさ、今はこいつとの戦いに集中だ。
わざわざこんな所までノコノコ呼ばれて来たのは、ただこの戦いの為なんだからな。
しかしこんな状況になったって言うのに、全く目が死んでねぇってのは嬉しいねぇ。
味方は全員のされている、後ろで守ってた伊織が来たって事は、別動隊も倒されたって事は察せるだろう。
勇者が人攫いの片棒を担いでいるなんて聞いた時は、てっきり腑抜けて権力の犬に成り下がったのかと思ったが、まだ少しは勇者としての矜持が残っているらしい。
それとも、今生でも何か守らなければならないモノでもあるのか。
やる気がなくなったこいつを叩きのめしても俺のリベンジは果たされねぇからな。
その昔と変わらない目をしてるお前だからこそ、この手でぶちのめす価値があるってモンだ。
俺が鉈を振るう、勇者が剣で受け流す。返す刀で勇者が反撃してくる、俺はもう一方の鉈で受け止める。
踊るように、舞うように、先程まであった周りの戦闘音も止み、周辺には俺達が交わす剣戟の音だけが響き渡っている。
『はははっ!いいぞ勇者!!こんな状況でも諦めずに勝利を求める、そうでなくてはな!!』
『・・・・・』
互いの獲物を交えていると、時折勇者は先ほど来た伊織と羽依の事を気にかけている事が分かる。
『一つ警告しておくが、今来たアイツを人質に取れないかとか考えているなら無駄だぞ?あいつは今の俺に勝った男だからなっ』
『・・・・』
何度となく語りかけているが、勇者は無言で剣を振るう。
『それにお前が狙っている奴の側には、俺達なんかより更に強い化け物がいやがるからな』
『化け物だと・・・?』
『そうさ、呆れる程の格の違いを見せつけてくれやがったぜ・・まぁお陰でもうちっと本気で自分を鍛えなおす気にさせてくれたがな。ククク・・信じられるか?風神の勇者なんかこいつらの中じゃ下っ端扱いなんだぜ?』
俺は追い打ちを掛けるように、勇者に対し絶望的な戦力差を語り聞かせてやる。
さあどうだ?お前は諦めるか?挫けるか?信じないか?ヤケになるか?
それとも・・・・
『・・・・・・した』
『おっ?なんだって』
『それがどうしたっ!!!』
雄叫びと共に斬りかかってくる、先程までと比べても一段と速く重い一撃だった。
俺は何とか鉈を交差させて受け止めたがそれでも押し込まれている。
『ならばその悉くを斬り伏せて押し通るまでだっ!!』
どうやら余計に火を付けちまったようだな。
ククククク・・・それでこそだ、これこそ俺の望む所だ。
先程までは先々の事を考えて恐らく精霊の力もセーブしていたのだろう、だがこの力、ようやく後先考えずにこの戦いに全力を出す気になってくれたようだ。
勇者の全身を包む雷光が輝きを増し、一合毎に痺れるような手応えを感じる。
次第に俺は守勢に立たされてゆき、防ぎきれずに身を削られる場面が増えて行った。
だがそんな状況で、俺の口元には今まで以上の歓喜の笑みが刻まれていた。
『そうだとも、仮にも俺様を倒した勇者様なんだからなっ!情けない姿は晒すんじゃねーぞ!!』
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AMI歴12年6月1日 砂金神社境内
伏虎雷公子
今更どこまであがこうと、状況が覆しようも無い事は百も承知している。
ここまで先の事を考えながら、魔力を温存して戦ってきたが、仮に目の前の相手を倒せたとしても、既に今の私には風神の勇者に抗するだけの魔力は残っていない。
更に加えて新たにここに現れた宮代伊織は、目の前の男より強いと言う。
自らの力に誇りを持つこの男が、そんな事で嘘をつくはずも無い、信じ難い事ではあるがそれは事実なのだろう。
小柄な風神の勇者と比べても尚小さく、女子にしか見えない容貌をしている為尚更信じ難いのだが。
そしてその上この男をして格の違う『化け物』と言わしめる存在がいるというのだ。それではまるで小白竜並みの強者と言う事では無かろうか。
私がここでどうあがこうと、既に捕らえられている部下たちと同様にこのまま敵の虜囚となるのだろう。
私はここまで、病に苦しむ妹を助ける為と、妹を言い訳にしながら幾多の悪を成して来た。
国家の為である、党の為であるなどと幾らお為ごかしを言われようと、それはどこまで行っても侵略者側の一方的な都合に過ぎなかった。
自らの行いがどうしようも無く悪であると自覚していても、今更引き返す道など有りはしなかった。
この地に転生してから、私が幾ら迷い苦しみ悶えながら神に訴えようとも、救いを、道標を求めようとも、決して神は前世のようには私を導いてはくれなかった。
そしてこの地は神に見放された世界だと悟った私は、流されるままに悪事に加担し続けた。
妹の為と覚悟を決めた筈なのに、どこまで行っても迷いは消えず、腹の奥底にドロドロとした想いが溜まり続ける。
広い意味での同郷の人間たち、転生者達を相手に戦わされ続け。挙句の果ては同郷の人間を部下として与えられ、私に敵対してるわけでも無い同郷の者を狩る日々だ。
いつまで経っても第二の故郷だと思う事が出来ない異郷の歪な帝国。
その異郷の帝国が成す覇業の為に走狗となって弱者を虐げ続ける、自分には既に前世で勇者であったなどと口にする資格も失っているだろう。
勇者としての矜持も誇りも汚泥にまみれ、ただ言われるがままに戦い続ける日々だった。
繰り返される虚しい戦いの日々の末、俺達はその少女に出会った。
小白竜・・・彼女との戦闘はおよそ戦いと呼べるようなものでは無い、圧倒的な力による一方的な蹂躙だった。
この魔力の乏しい世界において、それは信じられない程の圧倒的な力の奔流だ。
どうして彼女はここまで圧倒的な力を振るう事が出来るのだろう。
極僅かの魔力を振り絞るようにスキルや魔術を行使する我々に対し、お話にならないとばかりに圧倒的な魔力量の差と、それ以上の力の違いを見せつけてくる。
この圧倒的な力による蹂躙は、この世のどことも知れぬ異郷の地で、魔術も碌に扱えない野蛮で傲慢な夷狄の帝国の走狗と化した我々に対する天罰なのかも知れないとも思った。
そしてその少女と戦って私は確信した、彼女は神代竜の転生者だと。
前世の世界で私は一度だけ神代竜と敵対した事がある、それはエルフ族の住まう風の森を襲った混沌の勢力に属する黒竜だった。
風の森のエルフの聖地を取り戻す為の戦いにおいて、同じく神代竜の銀竜を駆る若き竜騎士の助力を得て、なんとかこれを退ける事に成功したのだが、神代竜同士の争いは、およそ人智の及ばぬ規模の魔力を駆使した争いであった。
神剣を携えた勇者でさえ、単独ではとても正面から戦いを挑む事さえ敵わないような神代竜とはそんな存在であった。
そして私は小白竜から、かつて出会った神代竜達と同レベルの力を感じていた。
それ程の存在が蟻を踏み潰すが如く一方的に央華連邦軍を蹂躙していく。
その戦いにおいて率いていた転生者部隊はただの一戦で半壊し、生き残りは私の独断で撤退させた。
指令にはとても敵わないと全軍撤退を進言したが、個人相手に撤退など出来るかと、私の言葉に耳を貸す事は無く手持ちの戦力での力押しを敢行し、あえなく全滅への道をたどって行った。
一瞬私もそこで殉死する事も考えたが、残された妹の行く末を思うとこんな所で朽ちるわけにもいかないと自分を奮い立たせて生き恥をさらした。
私は落ち延びて全てをありのままに報告する事にした。
このまま神代竜と思わしき彼女と敵対を続けるのなら、最悪央華連邦共和国は崩壊する事になるだろうと。
彼女と争う事の愚を悟り、どうかこの不毛な戦いから自分を解放して欲しいと切に願っていた。
侵攻軍の全滅と言う、筆舌にし難い多大な被害を出した央華連邦軍だったが。
私の想いも虚しく、三藏郷を放棄するという選択肢は無いようだった。
各地で大規模な徴兵と軍隊の再編成が行われ、私達の部隊には新たな命令が下された。
低下した戦力を補う為に、他国から転生者を攫ってこいという命令だ。
私の希望は叶う事など無く、更なる不毛で卑劣で誇りの欠片も無い任務を与えられる事となった。
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そんな任務の果てに、かつて前世で戦った相手と再び相まみえる事になるとは如何なる運命のいたずらか。
不本意な戦闘行為に従事していた転生後のこれまでの人生の中で、全てを忘れて牛頭簒奪王との一対一の決闘に集中している今この瞬間は、かつての真に勇者であった頃の自分に戻ったかのように錯覚する事が出来た。
何より自分と伍する実力の持ち主との戦いなど、久しく無い体験であった。
(小白竜との戦いは、自分の力不足で戦いと呼べるようなモノでは無かった。)
引き連れて来た部下達も全て倒され、自分の力一つ以外に頼るものは何もない。
この瞬間ばかりは、ここまで自分を縛り上げて来た様々なしがらみを忘却の彼方へと追いやり、目の前の男を倒す事のみに集中する。
それは幾久しく忘れていたかつての迷いの無い戦いの高揚を私に思い出させてくれた。
私の意識と手足が際限なく加速してゆく、それでも牛頭簒奪王は崩れない。
何度となくその身を斬りつけたが、致命傷には至らず衰えた様子は全く見せない。
斬りつけ、払われ、繰り返しながら変化し、体を入れ替えもつれるように剣戟が交わされる。
もっと、もっとだ、もっと疾く!強く!!この男を倒すために!!
例えそれが刹那の欺瞞であろうとも。
全てを忘れ目の前の男を倒す事に集中する、この戦いの瞬間自分は確かに幸せであった。
だが私がそんな目の前の戦いに没頭している最中に、背後から何者かが砂金神社の鳥居をくぐってやって来るのを感じた。
こんな時間に一体何者が・・・・?
疑念を抱く自分に、駆け込んできた男が叫ぶ。
『フィグニブ!!』
!?
それは前世の、正真正銘雷神の勇者であった頃の俺の名前・・・
その癖のある岩矮人訛りで俺の名で俺を呼ぶのは・・・
今回で20万文字をこえましたね!自分でもビックリです。
砂金神社攻防戦も最後のクライマックスです、この不毛な戦いはどのような結末を迎えるのでしょうか、最後までお付き合い頂ければ幸いです。
ここまで当作品をお読みいただきありがとうございます!
この作品を読んで少しでも
『楽しい』『続きが気になる』『この伏線ちゃんと回収されるの?』
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