031 砂金神社攻防戦Ⅵ
AMI歴12年6月1日 砂金神社境内
砂金奏
後方の戦闘も何とか終わったわね。五十棲くんが倒れそうになった時は気が気じゃ無かったけど、彼の癒しの力があれば大抵のダメージは回復出来るわよね。
と、息をついた私の横で、ハッとした様子の玲さんが右側面、竹藪の方に顔を向けたと思ったら、御神木から飛び降りて、右側面の竹藪の方へ向かって走り出した。
「え?」
急な状況の変化について行けず私が思考停止していると、玲さんが駆けて行った方向から結界内に侵入してきた敵の気配を捉えた。
「うそ?もう一組いたの!?」
結界に侵入してくるまで気付けなかったけど、もう一組の敵ゼンモン持ちが居たのだ。
私の探査を完璧にすり抜けてきた、後方の隠蔽スキル持ちより格段に腕の立つ強敵だ。精霊結界のおかげで進入には気付けたけれど、未だ隠蔽スキルは健在で姿形は全く見えないままだ。少々慌てながら私が破魔の鏑矢を用意していると、玲さんから姿を隠したままの敵に向けて強烈な殺意が放たれた。
「うわっ」
後方で私に向けられた分けでも無いその殺気の余波を受けただけで、思わず声が出てしまう程肝が冷えた。
正面から直接玲さんの殺意を浴びた敵は、隠蔽スキルが破られ棒立ち状態で3人共姿をあらわした。
そして次の瞬間には駆け寄った玲さんの一撃をそれぞれ受けてその場に崩れ落ちた。
はっやー・・・
そっか、玲さんの感情が伝播してしまう能力は、意図して使えれば威嚇や攻撃に転用できるんだ。
相変わらず一人だけ強さの規格が違うわねぇ・・・
ここまで私に気付かれなかった事を考えるに、実はこのグループが一番の本命だった可能性もあるのだけど、哀れ一瞬で片づいてしまった。
あっ、一瞬で倒された3人の中にスフィンクスまでがいる、隠れてたのはコイツの魔術だったのかも・・・あっぶなー・・・
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AMI歴12年6月1日 砂金神社境内
伏虎雷公子
「わかってはいたが、やはり手強い・・」
これまで幾度となく放った迅雷の斬撃は悉く相手の武骨な二振りの鉈によって防がれている。
スピードではこちらが勝っているが、片手の膂力のみでこちらの体重の乗った斬撃を完璧に受けきっている。
雷精の加護を得て威力をましている私の攻撃を、両手の鉈を自在に振り回し、受け止め、的確に反撃してくる。
そして奴も雷精を使ったスキルを持っている事から雷精の加護持ちである事は分かってはいたが、当然ながらここまで雷精によるデバフ効果も意味を成していない。
更に精霊結界の中で相手側の精霊は活性化しているが、結界の主に敵対している我々にはその加護は働かず、逆にこちらの精霊の働きは制限を受けている。
魔力は他の土地より充満しているが、その魔力は結界主に最適化された振動密度に調整されており、敵対する我々は魔力の支配権を奪えず消費した魔力の回復もままならない、この状況下では戦いが長引けば長引く程にこちらが不利になってゆく。
既に仲間の多くは戦闘当初からのスキル行使で魔力が尽きかけており、もうこれ以上スキルを行使できるだけの魔力は残っていないだろう。
穢土を覆せし迷宮の主にして殺戮神の使途、牛頭簒奪王。
長らく混沌の勢力に奪われたままだった大地の宝珠を取り戻す為に、かつて仲間たちと共に挑んだ迷宮の王だ。
たった二人・・・いや、背後でバックアップしているターゲットを含めて三人か、いずれにせよ圧倒的な小人数を相手に、こちらの部隊は既に壊滅状態だ。
『エルフの支配する森でエルフと争ってはいけない』
あちらの世界ではよく聞いた格言だが、私はその言葉の真の意味を理解していなかったと言う事か。私が見た事があるエルフの森と言えば、邪竜によって蹂躙された後の風の森位であった。
荒廃した故郷を取り戻さんと奮戦するエルフ達の姿を見た事はあったが、確かに精強な戦士達ではあったが、当時はそれだけの評価しか与えていなかった。
彼らの本領は結界を張った自陣の防衛時にこそ発揮されるのだと言う事を、転生後の今になって初めて痛感している。
事此処に至っては、頼みの綱は側面と背後へ回った奇襲部隊だが、これだけの陣を敷く相手に成果を出せるとも到底思えなかった。
『戦闘中によそ事に囚われているたぁ余裕があるじゃねーか!!』
『ちいっ!』
ガキィン!!
少しの隙も見逃さずに的確な反撃を放ってくる。攻撃を受け止めた私はその場に留まる事が出来ずに大きく後ろへ飛び退く羽目に陥った。
自分に匹敵する戦力は十一のみであろうという前提で立てられていた今回の作戦は、敵の戦力がこちらの想定を遥かに上回っていた時点で瓦解していたのだ。
比較的腕の立つ者たちは奇襲部隊へ回してしまった為、こちらに残っている者たちの実力は一段落ちる。そこは数の力でカバー出来るだろうと思っていたが、大規模な精霊結界による精霊魔術と弓の援護射撃によって想定以上の損害を被ってしまった。
そして風の勇者、十一・・・かつて共に肩を並べて戦った事もある男だ。
一人また一人と、部隊の転生者達が彼の手に掛かり戦闘不能に陥っている。幸いな事に殺害する気はないようで、倒された者は全員かすり傷程度の負傷で済んでいるようだ。
いや、生け捕りにしようとしているのか。
そして全員が倒されれば、あとは私が牛頭簒奪王と風の勇者の二人を同時に相手取る事になる訳だ。
『何で勇者ともあろう人が人攫いなんかに手を貸すんですっ!!』
彼の放った言葉が脳裏によみがえる。
言われるまでも無く、その事を誰よりも情けなく感じているのは自分自身だと言うのに。
勇者か・・・前世での自分は、そもそもなりたくて勇者を志した訳でも無かった。
追い込まれていた状況下では選択の余地など無く、家族を守る為にはその道を歩むしか無かっただけだ。
穢土の汚れを受けて苦しむ妹を救う為に、私は勇者の力を望む他に道は無かった。
何の因果かそんな自分は今生においても再び病に苦しむ妹を得る事となり、彼女を救う為に央華連邦の飼い犬と成り下がっている。
そうして妹を救う為という目的の為に、見知らぬ他人には不幸をまき散らしてきたのだ。
前世の妹と今生の妹、何のつながりも無い他人だと言うのに、どうしてまた目の前で弱く幼い家族の同じ運命を見せられる?
最初の頃はまだ良かった、秩序を無視して暴れまわる転生者の制圧は、何の抵抗も無く受け入れやすい任務だった。
そういった手合いは大抵圧倒的な力の差を見せつければ大人しく言う事を聞くようになる。
前世の記憶に振り回わされ、無秩序に現代の社会正義に反するような行為に走るような者を矯正するのは当然必要な措置だとさえ思った。
だが、新疆回教郷自治区でおこった転生者達の反抗は、そういったレベルの話では無かった。
そこで行われていたのは、武力で占領下においた他民族に対する執拗な弾圧。
共産主義という名の醜く歪んだ帝国主義、央華民族にあらずんば人にあらずといった央華思想に基ずく階級社会、貧困に喘ぐ者を更に虐げ、反抗すれば力尽くで叩き潰す。
他民族の誇りを、歴史を、宗教を踏みにじり、一方的な価値観を押し付け、恐怖を背景に行われる再教育という名の雑な洗脳を行う。
それはまるでかつて勇者として戦った魔道帝国が侵攻した国々で行っていた事の醜悪な戯画のようであった。
そして自分が帝国側の、弾圧する側に立って弱者に鞭打つ一助を担う事になろうとは・・・
彼らは前世の価値観に従って無秩序に暴れていた今までの相手とは全くの別物だった。
彼らはただ、今生においての彼らの家族を、友人を、仲間を、生活を、伝統を守ろうと必死なだけだった。前世においては敵対する勢力同士であった者達でさえ協力して央華連邦軍に反抗してきた。
そんな者達を相手に、ただひたすらに妹の為だと自分に言い聞かせながら戦った。
それは自らの罪業を見せつけられながら戦う地獄のような日々だった。
彼らがどれだけ必死に反抗しようと、近代武装を整えた強大な軍事力を背景にした我々に抗するにも限界がある、情勢は次第に央華連邦軍の優勢へ傾き、反抗する転生者も一人、また一人と倒れて行った。
だがある日を境に、状況は一変した。
三藏郷族の転生者達による新疆回教郷族への助成である。
その頃まだ私は知らなかった、七つの月の欠片達の落下点に近付く程に、転生者の出生割合が跳ね上がるという事実を。
恐らく央華連邦本部もその頃はまだその事実を把握していなかったのだと思う。
各地で急速に勢力を盛り返す転生者ゲリラに敗北する部隊が増え、損害が無視し得ない程増加するに至り、央華連邦軍は戦線の縮小を選択せざるを得なくなった。
それまでは各部隊に少数が配属される形で運用していた我々転生者だが、大勢をまとめて一つの部隊として再編制し、転生者ゲリラ部隊に当てて各個撃破する方針に切り替えられたのだ。
そしてそれまでの犬のように従順に戦い戦功を上げ続けた私をその転生者部隊の隊長に据える事が告げられた。
新しい軍制は当初に限れば効果的に機能し、各地で反抗する転生者ゲリラを各個撃破する事に成功したが、やがて彼らもこちらが転生者の大部隊で固めた事を悟り、我等の部隊が向かうとろくに反抗もせずに撤退をする、本格的なゲリラ戦法に切り替えられ、結局のところ埒が明かない鼬ごっこに終始する事となった。
やがて彼ら転生者ゲリラの多くが新疆回教郷族ではなく、三藏郷族だった事を突き止めた軍は、新疆回教郷地区へ展開していた軍を一時的に撤収し、三藏郷自治区に対して一大侵攻作戦を発動する事が決定した。
それがいっそうの悪夢のはじまりであるとも知らずに。
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AMI歴12年2月 央華連邦共和国 三藏郷自治区 羅砂近郊
当初三藏郷自治区でのゲリラ活動は、新疆回教郷自治区と比べれば規模の小さいものしか無かった。その為三藏郷自治区に対する監視は控えられ、新疆回教郷自治区のゲリラ活動への対応に注力してきた。だがそれは、三藏郷自治区から目を反らさせる為の工作だったのだ。
監視の目が手薄になった事を期に、三藏郷自治区で一斉にゲリラ活動が活発化した。
密かに濱印度軍の支援を受け、三藏郷自治区の転生者の多くが武装を得てゲリラとして決起した。
三藏郷自治区の主要都市は次々と陥落し、都市を支配し民族浄化運動に従事していた多くの央華民族が命を落とした。
ゲリラ鎮圧の為に派遣された央華連邦陸軍部隊は、近隣の農村から手当たり次第に襲撃し、ゲリラや農民を一切区別せず容赦なくこれを蹂躙して回った。
なかには報復の為に無抵抗な村人への虐殺もあったと聞く。
反抗するゲリラの士気をくじく為などと主張していたが、血に酔った挙句の暴挙としか言いようがない。
そして各地で暴虐の限りを尽くして来た部隊は、とある農村で悪夢を見る事になった。
美しく艶やかな真っ白い髪と、瑞々しい透明感を湛えた白い肌。幼いながらも神秘的な美しさを湛えるその少女を発見した軍人達は色めき立った。
民族浄化の名のもと、これまでも襲った各地の農村や町で若い娘を犯し、捉えてきたが、ここまで美しい少女は見た事も無かった。
進行する軍に対し、一人でぽつんと行く手を遮るように立ち塞がっていた少女。
彼女に詰め寄ろうとと周りを囲んだ兵士たちは、しかし全員がその場に凍りつく事になる。
突然空中に漂い始めた光り輝く白い塵、急激に低下した気温が氷点下を下回り大気中の水分が凍り付きダイヤモンドダストが発生したのだ。
「転生者だっ!!いいから殺せ!!」
後方の指揮官より命令が飛ばされたが、既に彼女を取り囲んでいた兵達は全員その場で凍り付き、静かに命を奪われていた。
まさか取り囲んでいる兵士が既に全滅してるとは夢にも思わず。狙撃を命じられても、兵士が邪魔で狙う事も出来ずに判断に迷っていると。広がったダイヤモンドダストが後方の車両へと到達する。
車両が凍り付き燃焼機関が化学反応を止め、エンジンが停止する。
車両自体の温度も一気に氷点下を下回り運転手のハンドルを握る手がそのまま凍り付いた。
すでにあらゆる銃火器は燃焼反応を起こせない為にただの棒きれと化し。部隊の大半がその場で凍り付くに至り、最後方にいた輸送部隊の1台の車両だけが来た道を逃げ戻る事が出来た。
生き残った男が逃走する車上から振り返り遠方の少女に目を向けると、彼女が纏う冷気がまるで白い竜の姿をしているように見えたと言う。
「竜だ・・・奴は竜に違いない・・・・小さな白竜だ・・・」
たった一人の転生者に、一個大隊が殲滅させられた。
にわかに信じがたいその報告を受け、転生者部隊に小白竜の対処が命じられた。
その日以降、我々の悪夢は今も続いている・・・・
本作品はフィクションです、実在の人物、団体、国家等一切関係ございません。
雷神の勇者の苦悩と苦難、人は生まれる環境を選べませんから。
ここまで当作品をお読みいただきありがとうございます!
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